親世代や自分が、いつか必要になる相続の手続き。損をしたり、トラブルのもとにならないよう、知識をつけておきたいものの、なかなか機会がない方も多いのではないでしょうか?

年末から連続して10日間に渡り、相続・贈与・遺言のエキスパートである税理士の井口麻里子さんに、相続に関する素朴な疑問に答えていただく「知りたい相続!女性税理士に学ぶ」第3回は、「遺言は自宅保管ではダメなのはなぜ?」です。

遺言の自宅保管はNG!貸金庫での保管もNG!

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遺言の自宅保管はリスクあり!

井口さんによると、遺言は自宅保管を避けるべきと話します。どうしてなのでしょうか?

「遺言には、一般的に自筆証書遺言と公正証書遺言のふたつの種類があります。

自筆証書遺言とは、全文、日付及び氏名を手書きする遺言のこと。公正証書遺言とは、遺言者が口述した遺言を公証人が筆記して公正証書により作成する遺言のこと。

公正証書遺言は公証役場で原本を保管してくれるので、自宅に置いてあったとしてもそれはコピーであり、仮に破棄されたり失くしたりしても、公証役場で検索すれば原本が出てきます。そのため、破棄や偽造、改ざんのリスクがない点がメリットとなっています。

そのため、今回ご質問の「自宅で保管する遺言」とは『自筆証書遺言』である、という前提で解説します。

自筆証書遺言は、これまで自宅で保管するしかありませんでしたが、2018年の民法改正により2020年7月10日以降、法務局で保管してくれる制度が始まります。自筆証書遺言には大きなデメリットがあり、これが相続を巡る紛争につながっていたためです。

その自筆証書遺言のデメリットとは、

(1)相続発生後に家庭裁判所で検認という手続きを経ないとならず、遺言を執行するのに時間がかかること
(2)素人が書くため、遺言の法的要件が不備で、無効となるケースが多いこと
(3)『本当に本人が書いたのか?』などと疑われるなど、偽造や改ざんのリスクが高く、親族間の争いの火種となりやすいこと

の3つ。

このうち、(3)こそが、自筆証書遺言が自宅保管ではダメな理由です。

自分が生きている間に誰かに見られたくないあまり、誰にも分らないような場所へ隠し、死後何年も、または永遠に発見してもらえない事例は数多くあります。せっかくの想いも伝わらなければ意味がありません」

銀行の貸金庫もNG!

「大事なものだからと遺言を銀行の貸金庫に入れる人も多いですが、銀行は相続が開始したことを知ると、口座を凍結するだけでなく相続人全員の同意がなければ貸金庫も空けられないため、モメていたり、非協力的な相続人や所在不明の相続人がいたりすると、遺言を取り出すだけで半年以上かかる例もありますので、絶対に避けましょう」

相続人の一人に預けるのもリスクあり

「相続人の一人に預ける例もありますが、これは他の相続人から『預かった相続人が自分に有利なように改ざんしたのでは?』と疑われる要因となるので避けたほうがいいです。もしくは、中身をこっそり見て、本当に書き換えてしまうリスクもあります」

遺言無効の不備が軽減する「法務局保管制度」

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法務局で保管してくれる制度を知ろう

遺言は、法律で決められた要件を満たしていないと、無効になってしまいます。せっかく書いた遺言が、無効になるリスクを回避する方法として、先にもお話に登場した自筆証書遺言を法務局で保管してくれる制度について知っておきましょう。

「来年始まる法務局保管制度では、自筆証書遺言について、次の3つのメリットがあります」

(1)家庭裁判所の検認が不要となり、スムーズな相続が可能となる。
(2)遺言が形式的に法的要件を満たしているかどうか、法務局が預かる際にチェックしてくれるので、内容はともかく、形式要件の不備で無効となるリスクは軽減する。
(3)遺言者本人が法務局へ出向き、遺言を預ける必要があるため、偽造のリスクはなく、また法務局で画像保存するため改ざんのリスクもなくなる。


3回目となる本記事では、自筆証書遺言の保管場所に関するリスクについて、お話しいただきました。遺言を書いたら安心するのではなく、確かな場所に保管することも、念頭に置いておきましょう。

相続について学ぶ全10回シリーズ、明日は「モメる遺言、モメない遺言の違いは?」という疑問にお答えしていきます

井口 麻里子さん
税理士
(いぐち・まりこ)税理士。辻・本郷税理士法人相続部に所属。富裕層の大規模な相続から、一般家庭のミニマムな相続、さらには国際相続まであらゆるケースに精通した相続・贈与・遺言のエキスパート。近年はあらかじめ作成すれば、要らぬトラブルを避けられる遺言の啓蒙に力を入れている。
井口麻里子のブログ

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この記事の執筆者
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WRITING :
石原亜香利
EDIT :
安念美和子、榊原淳
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