20世紀最大のファッションアイコンであるフレッド・アステア。そのダンスシーンを見るたびに、不思議に思えることがある。ここまで激しく動き回っているのに、スーツがほとんど乱れないのはなぜだろう?その理由について、彼の装いをたびたび描き、自身も大のアステアファンであるというイラストレーター・綿谷 寛さんに伺った。

フレッド・アステアのスーツはなぜ踊っていても優雅なのか?

1899年生まれ。ダンサーとしてデビューし、ブロードウェイで活躍したのち映画にも進出。’30年代~’50年代にかけて、ミュージカル映画における看板役者として活躍。マイケル・ジャクソンなど後世の大スターにも影響を与えた。

「彼は『アンダーソン&シェパード』でスーツを仕立てていたことで有名ですが、その際かなり特別な注文を行っていたようです。まず、アームホールがかなり細く、鎌高なこと。これによって腕を高く上げても身頃が引きつれにくく、そでがずり上がらないのです。また、そで口も相当細く絞り込んでいるように見えます。ダブルカフスのシャツは着られないでしょうね。それから後ろのベンツも浅めですが、これはすそがハネることを防ぐためでしょう。そして、パンツにも秘密が。映画『絹の靴下』を見ると、すそが靴に着くか着かないかの絶妙な丈に設定してあることがわかります。これはアステア・レングスとも呼ばれ、踊ると靴下が覗いて実に印象的なのです。A&Sの仕立ては旧来の英国テーラーに比べてやわらかく、独特のくつろぎ感がありますが、なかでも彼のスーツは究極に動きやすいスポーツウエアとして仕立てられていたということですね」

神は細部に宿るといわれるが、ダンスの神の秘密もディテールへのこだわりにあった、というわけだ。

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