マリー・アントワネットも愛した、時計史上、希有な存在のウォッチメゾン

ジュエリー&時計ジャーナリストの本間恵子さんが今回取り上げたのは、ブレゲ(Breguet)の世界限定タイムピースの2本。審美眼を持つ女性にふさわしい品格とメゾンのこだわりが凝縮され、まとうだけで「時計を知っている」女性だと、ひと目でわかるほど別格の輝きを放っています。それは、創業者が残した偉業の重みであると同時に、今も歩みを止めないマニファクチュールの真摯な姿勢が表れているからです。

フランス革命以前の1775年、パリのセーヌ河滸、シテ島で時計師の第一歩をスタートしたアブラアン-ルイ・ブレゲ。彼が手がける時計の評判は、当時のフランス王国のルイ16世、王妃マリー・アントワネットの耳まで届きます。

王妃は多くの時計をオーダーしますが、なかでもブレゲの最高傑作といわれ、「マリー・アントワネット」という呼ばれる時計は、最高水準の複雑機構をすべて備え、納入期限、費用は無制限という途方もないものでした。彼女はその時計を目にすることはありませんでしたが、密接な関係は王妃が処刑される直前まで続きます。処刑前の留置所にいる彼女の元に創業者は時計を届けたくらいですから。

ナポレオンの時代になっても、ブレゲは重用されます。ナポレオン一世、ジョゼフィーヌ皇后、そしてナポレオンの妹であるカロリーヌ・ミュラなど、ナポレオン一族は大の時計好き。逸品の時計を入手できることが当時、ステイタスの象徴だったのです。のちにナポリ王妃となった、ミュラ王妃がオーダーした「ブレスレットのように腕に装着する」時計は、腕時計の起源とされています。

時計が進化するためには女性の存在は不可欠です。複雑機構のハードルを一気に高めたのも女性、懐中時計が主流だった時代に現在と同じスタイルの腕時計へとつなげたのも女性。そして、それを実現していったのはブレゲです。同時に、フランス革命を挟み、敵味方、両方の最高峰のセレブリティから愛され、そして現在まで続くウォッチメゾンは、ブレゲしかありません。

「メゾン創業者の時計師アブラアン-ルイ・ブレゲは“時計の進化を200年早めた”といわれています。つまり、200年分の時計づくりの革新を一人でやってしまったのです。そんな天才のDNAを受け継いだメゾンですから、クオリティは折り紙つき。しかも女性たちから愛された歴史があり、エレガンスとフェミニティも兼ね備えているのです」(本間さん)

赤のアクセントが際立つ、ブレゲの世界限定タイムピース2選

■1:世界限定28本!ハート型のスモールセコンドにときめいて!

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「クイーン・オブ・ネイプルズ 8905 バレンタインエディション 2022」¥4,697,000(世界限定28本) ●ケース:ホワイトゴールド×ダイヤモンド×ルビー ●ケースサイズ:36.5×28.45mm ●ダイヤル:マザーオブパール×ホワイトゴールド、クルドパリとフラメのギョウシェ ●ストラップ:アリゲーター ●ムーブメント:自動巻き

「クイーン・オブ・ネイプルズ」は、1810年にナポリ王国のカロリーヌ・ミュラ王妃がオーダーした時計史上初の腕時計からインスピレーションを受けたコレクションです。独特なエッグシェイプは、レディスウォッチの中で絶大な人気。だれもがブレゲの時計だとわかります。

このコレクションに2022年のバレンタインデーを祝す世界限定28本が登場しました。テーマは「天空に舞い上がる愛」です。ホワイトのマザーオブパールを雲に見立て、48時間のパワーリザーブは赤のラッカー装飾で示し、ハンマーで仕上げたリアルな月が浮かびます。

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パワーリザーブには赤のドットがグラデーションで描かれて。

バレンタインエディションというだけあって、スモールセコンドに赤いハート型が採用され、可愛らしいアクセントに! 一秒一秒、かけがえのない愛を育み、心に残る時間になるように、そんなロマンティックな願いが込められているように見えます。

「毎年発表されるバレンタインエディションは、赤を効かせた特別なカラーリング。限定数も28本と少ないことから、争奪戦です。2022年のモデルは雲を思わせる光沢が入ったマザーオブパールがとても美しく、リュウズにはルビーもあしらわれ、リュクス感満点。女性のために開発されたごく小さな自動巻きムーブメントを搭載しているのも名門ならではのこだわりですね」(本間さん)

■2:世界限定88本!女性のためのゴージャスなメカニカルウォッチ

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「トラディション レディ 7035」¥9,515,000(世界限定88本) ●ケース:ローズゴールド×ダイヤモンド×ルビー ●ケースサイズ:直径37mm ●ダイヤル:ホワイトゴールド×ダイヤモンド×マザーオブパール ●ストラップ:アリゲーター ●ムーブメント:自動巻き

1796年に創業者が手がけた懐中時計の緻密な機構を“美”と解釈した「トラディション レディ」。ロゼット模様が施された香箱を中心に左右対称にデザインされ、ムーブメントが露になった至高のコレクションは新作が登場するたび、感嘆の声が挙がります。

今回取り上げたウォッチはダイヤモンドをふんだんに使い、驚愕の美しさを宿しています。世界限定88本をつくるためだけに、マニュファクチュールの総力をあげなければできないのでは? と思うほど細やかな仕上げです。

ムーブメント部分には、大小のブリリアンカットダイヤモンド190個をスノーセッティング。ダイヤル部分には74個をパヴェセッティング。それを取り巻くようにベゼルには68個。腕時計というよりも、ジュエリー感覚のメカニカルタイムピースです。

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オフセンターダイヤルとムーブメントにふんだんにダイヤモンドが!

「精緻なムーブメントそのものをデザインとして見せてしまうというアイデアが、まず秀逸。さらにムーブメントをダイヤモンドで装飾することで、才色兼備のたたずまいを実現しているのが見事です。

スノーセッティングとは、大小のダイヤモンドをびっしりと隙間なく留めて、朝日を浴びた新雪のような輝きを表現した技法。レトログラード式の秒針の目盛りがルビーとピンクサファイアのグラデーションになっているのも目を惹きますね」(本間さん)


以上、ブレゲの世界限定ウォッチ2本をご紹介しました。

「機械としての精密さと女性らしい優雅さ、両立は難しいものですが、それをどちらも高いレベルで維持しつつ時代に即した新作を生み出すブレゲは、やはり特別な存在です。これこそ胸を張って身にまとえる優越のウォッチですね」(本間さん)

※掲載した商品の価格は、すべて税込みです。

本間恵子さん
ジュエリー&時計ジャーナリスト
(ほんま けいこ)東京都出身。武蔵野美術大学を卒業後、某宝飾メーカーでデザイナーとして勤務し、その知識を生かしてジュエリー専門誌のエディターに転身。その後フリーランスとなり、国内外の見本市や展示会を取材して、モード誌やアートマガジン、新聞などに寄稿。トークショーやテレビコメンテーターなどをこなしながら、アンティークジュエリーの研究も行っている。夫は建築家。好きなもの:バンドデシネ、マンガ、美術史、トールキンの著作。
この記事の執筆者
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WRITING :
菅野悦子
EDIT :
谷 花生