東京都内にいくつかある「のんべえの聖地」立石に、アラフォー男子4人で訪問した。ライブラリートーキョーのこちらの記事に「立石は日本のサン・セバスチャンだ」と書かれていて、とても魅力的に感じたからだ。

サン・セバスチャンのバルに人だかりができているストリートの様子(筆者撮影)

2年ほど前、スペイン北部バスク地方のまちサン・セバスチャンを訪れたことがあるが、上品な古いレンガと石作りの街並みにたくさんのバルがひしめきあい、地元民や観光客が、それぞれのお店で名物と言われるピンチョスと、チャコリ(シードルとも。リンゴを使った発泡酒)を片手に、笑顔を片手に、多いに楽しんでいた。

著名なバルGanbara(ガンバラ)の名物「ヒルダ_ひとつ2ユーロ。ピンチョスの発祥とされる一皿

そのにこやかで、大人が節度をもって楽しんでいる雰囲気に、旅の緊張もほころび、1日に7軒も8軒もはしごしたものだ(大正漢方胃腸薬に大変お世話になった)。

チャコリ。スタッフがグラスと瓶を離し、高いところから注ぐ注ぎ方も一見の価値あり

あの空気感が日本にもあると聞いては、これは行ってみるしかない。

訪れたのは、年の瀬の土曜日。週末だからか、師走だからか、名の知れた店にはどこも行列ができていた。それなりに上手くはしごできたが、効率よく回るためには作戦が必須だと痛感した。並ぶのに時間がかかっても、もつ焼き、寿司などは「入る、頼む、すぐ出る、食べる、出る」のサイクルができているので、長居をする雰囲気ではない。そのため、次のお店の訪問まで、ぽっかりと時間が空いてしまうことがあった。

「実際のスケジュール」を詳細に記録してみたので、参考になれば幸いです。

①宇ち多 12:30頃訪問(当日の行列は15分ほど)

宇ち多゛外観

もつ焼き・もつ煮の老舗。隣客と肩の触れ合う距離で座る密集感、ワイワイ感がたまらない。徹底的な効率化が計られており、スタッフのおじさまたちのオペレーション連携が見事。

 

宇ち多゛のもつ焼き盛り合わせ(たれ)
宇ち多゛のもつ煮

もつ焼きもモツ煮も200円、ビール600円など、店内通貨単位はほぼ200円刻みなため、食後の支払い計算が神速(200円が1カウント。つまりビールはカウント3)。「これぞ究極の時短オペレーションだ」と、IT系の友人が感動していた。もつ焼きもモツ煮も具材がどれも大ぶりで、食べ応えがある。もつ焼きはタレと塩の2種類があって、それぞれ盛り合わせをオーダーして食べ比べ、感想を共有し合うのが楽しい。

②丸忠かまぼこ店 14:00頃訪問(開店直後、並ばず入店)

立石のおでん屋=二毛作が有名だけれど、その双璧をなすお店。宇ち多゛の斜向かいにある。かまぼこ、さつま揚げ、おでんなどを販売している小売部門と、小洒落た雰囲気のバーカウンター部門とが、隣り合って営業している。バースペースでは生ビールやワインやサワー、寒い冬にはうれしい日本酒の熱燗など、昼間からお酒のメニューが豊富なのがうれしい。というのも、立石の他店のビールは安定の「瓶ビール」が多いからだ。提供速度を考えたら生でなく瓶は納得であるが、飲み続けているといささか飽きてくるので、ここで舌も体もひと休憩できるのはいい。

おでんを注文すると、お隣のかまぼこ店で売っている、アツアツのおでんをすぐ持ってきてくれるのも気が楽だ。男性ならひとりでも入りやすい雰囲気。

③栄寿司 15:00頃訪問(行列して20分ほどで入店)

栄寿司のいか

今では少なくなってしまった「立ち食い寿司」のお店。職人さんが3人ほどで、次々に現れるお客に握りをスピーディに提供。ネタは大ぶり、新鮮でとてもおいしい。

 

数貫つまんでお腹を満たしても、ほとんどのネタは一貫110円か220円、4人で2000円にも満たないというお値段もクオリティ高い。いか、シャコ、タコなどをいただいたけれど、タネも大きめで満足感がある。京成立石駅を出てすぐ、立石仲見世の入り口という立地のよさもあって、常に並んでいる人気店。ネタがなくなってしまうと、閉店を待たず夕方に閉まってしまうこともあるそう。

④鳥房 15:45訪問(16:00開店、行列してオープン組で入店)

鳥房の若鶏の半身唐揚げ

16:00開店まで少し時間があったので、のんべえ横丁を散策してみようか…と思ったら、鳥房前にはすでに長蛇の列。甘かった! そそくさと最後尾に並んだところ、運よく最終組でオープン入店することができた。こちらは開店1組目に入る方がいい。というのも名物の「若鶏の半身唐揚げ」は、ひとつずつ丁寧に素揚げしてくれるため、供されるまでに少し時間がかかるからだ。こちらをひとり一匹、いただくのが流儀なようで、オーダー時には「これは全員頼むよね、ほかに何を食べる?」といった流れ。

 

鳥房外観
ぽんずさし

時価だという唐揚げと(といってもひとつ数百円)、「ぽんずさし」を頼み、瓶ビールで乾杯。鳥の唐揚げはお店のお姉さんたちが食べやすい剥き方を教えてくれる。または、剥いてくれる。おいしい揚げ物は「外カリっ、中ジューシー」とよく表現されるがまさにそれ、かつ、お肉の味がしっかり濃い。塩っ気というより、鶏肉そのものの味が濃縮されているように感じた。「ぽんずさし」は、”ポン酢のねぎだく”なところに唐辛子でピリッと辛口な仕上げがしてあり、肉厚なお肉の弾力と相まって非常に食べやすい。お店の表は精肉店なので、ひっきりなしに注文の電話が…それもピンクのジーコ、ジーコ電話に!かかってくるのも粋。お座敷は比較的余裕があり、接客スタッフも全員女性なので、今回訪れた中で最も女性が入りやすいお店と感じた。

⑤蘭州 17:45訪問(18:00開店、行列して開店約20分後に入店)

鳥房の行列のことがあったので、こちらも開店前に行ったほうがいいのでは?と早めに覗いてみたら、やはり「行列のできる餃子事務所」状態に。最後尾に並んだはいいものの、そう都合よくことは進まず、開店から2巡目で入店。ラーメンと餃子が主なメニューのため、回転は早い。カウンター席と、6人座れるテーブル席がある。

蘭州の焼き餃子
蘭州の水餃子

水餃子と焼き餃子を頼むも、5軒目となるとお腹も結構いっぱいになり、4人で餃子3皿とラーメン一杯が限界だった。こちらの餃子は肉厚でふっくらもちもちした皮と、独特の風味の餡が特徴。特に餡の、ニラと濃い醬の味が、もちもち皮の食感を楽しんだ直後に口内で広がる。まさに口福。堀江貴文さん行きつけの神田「味坊」や、横浜中華街の人気店「山東」といった「風味のある餃子」ファンなら、絶対好きな味だ。昔ながらの中華そばも、飲んだ〆の胃にうれしいあっさりした風味。パクチー好きなら、パクチーをトッピングしたラーメンもいい。

 

以上、「バル巡り」できたのは5軒。蘭州を出てみたら、外はすっかり夜。昼間は静かだったスナックに、さまざまにきらびやかな色のネオンが灯っていた。そんなネオンを横目に、胃の重さにすっかり足どりが鈍くなったアラフォー男子4人は、そそくさとそれぞれの帰路に着いたのだった。

呑べえ横丁の看板

立石の噂を聞きつけて目を輝かせて訪れた人々にとって、家族連れなど地元の人に入り混じっていただくこの街の食は、体験そのものがご馳走だ。相席になることが多いため、隣り合わせた人と交流できるのはワクワクしたし、店内が狭いためかほとんどのお店が「禁煙」だったため、心地よく回ることができた。

理想的なスケジュールを考えると…土曜日は平日と違い、宇ち多゛さんが14時ころまでの営業、栄寿司が夕方には店じまいしてしまう可能性を考えると「13時〜14宇ち多゛。その後、栄寿司、おでん二毛作、丸忠かまぼこ店のいずれかを周り、15:30すぎには鳥房に並び、終わり次第蘭州へ」というのが、「サタデー立石」の回り方としては効率がよさそうだ。ちなみに、日曜日はお休みのお店が多いので、そういう意味でも、回るなら平日夜か、土曜日日中がよさそうだ。

この記事の執筆者
2000年小学館入社。CanCam編集部に在籍、AneCan創刊編集部へ。その後CanCam、Precious、AneCanを経て2016年11月より現職。好きなもの:着物、ゴルフ、加圧トレーニング、中国語、小籠包、ワイン(特にボルドー)、ジビエ、バリ島、台湾、上海。
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