2019年2月22日(金)から公開の映画『あの日のオルガン』で、大原櫻子さんとW主演を務める戸田恵梨香さんにインタビュー。太平洋戦争末期に子どもたちを守り抜く保母役を熱演した戸田さんに、映画のこと、キャリアのことなどを伺いました。

戸田恵梨香さん
戸田恵梨香さん

——映画『あの日のオルガン』は、太平洋戦争末期に53人の子どもたちを引き連れ、日本で初めて保育園を疎開させることに挑んだ保母たちの奮闘を描いています。誰もが自分のことで精一杯だった戦時下で子どもの命を守るために、まだ誰もやったことのなかった集団疎開を決行する「疎開保育園」の事実はほとんど知られていません。戸田さんにとって出演の決め手はなんでしたか。

正直に申し上げると、出演は迷いました。戦争を題材にした映画に出演するというのは責任が大きいと感じていました。そこで監督の平松恵美子さんとお会いする機会をいただきました。そのなかで監督のお人柄や作品に対する思いを伺っているうちに「平松さんと一緒に仕事をしたい!」と思ったこと、そして、私の今までの経験や感じてきたことをこの作品で生かせるかもしれないと思って出演を決めました。

©2018『あの日のオルガン』制作委員会
©2018『あの日のオルガン』制作委員会

——どのようなご経験を生かせると思われたのですか?

私は阪神・淡路大震災(1995年)の被災者なんです。私の場合は戦争ではなく自然災害ですが、目に見えない恐怖というのを子どもながらに実感しました。町が焼け野原になってしまった風景は今でも鮮明に覚えているので、それも生きるかもしれないと思いました。

また、以前あるドキュメンタリー番組でミャンマーに行かせてもらい、孤児の子どもたちを学校に行かせる先生たちを訪ねました。実際に親御さんから引き離される瞬間の子どもたちの顔を見るといった経験もしていたので、自分が今まで感じたことをこの映画で生かせるのかなと思ったんです。

——まっすぐな性格で子どもたちの豊かな成長を願う楓は、「怒りの乙女」といわれるほど、子どもたちをないがしろにするような物事に腹を立てますね。楓は戸田さんご自身にどのくらい近い役だったんですか?

私は意外と涙脆いんです。楓のように疎開保育園から最後の子どもが親御さんに引き取られるまで涙を見せないという強さがありません。「楓すごいなー」と度々思いながら演じていました(笑)。

今回お芝居をしながら涙が出そうになる瞬間もあったんです。それをぐっと抑えながら、なんとか凛として立っていなくてはいけなかった。演じながら、子どもたちを守るために果たさなければならない楓の重圧は計り知れないものだったんだろうなと思いました。

©2018『あの日のオルガン』制作委員会
©2018『あの日のオルガン』制作委員会

——板倉 楓は子どもたちを守り抜く保母さんたちをまとめるリーダー役でもあります。保母役のみなさんをどのように引っ張っていきましたか?

私はどの現場でも結構、俯瞰で見るタイプなんです。だいたい出演者を観察しています。保母さんを演じた方々はみなしっかりされていて、子どもたちとしっかりコミュニケーションを取る姿は、役柄そのままなのかなと思う瞬間がありました。子どもたちもみんな楽しそうで、そんな姿を見ているのもすごく好きでした。

とはいえ、みんなで一番苦労したのは、子どもたちの扱い方です。子どもは楽しくなるとそちらに夢中になってお芝居だということを忘れることがあります。そこはきちんとまとめていこうね、とみんなで気をつけていました。

——撮影中に印象深かった出来事などはありましたか。

疎開先からまた逃げなくてはいけないかもしれないというシーンの撮影中のときのこと。私が怒鳴るシーンがあったんですが、「なんで楓先生が怒っているの?」と子どもたちみんなが疑問に思ったらしいんです。そのときに子どもたちが「なんで戦争するの? 戦争ってなんなの?」って。それが一番印象深く残っています。

子どもたちの純粋な心に「なんて大人は勝手なんだろう、人間って醜いんだろう」ってグサッと突き刺されました。保母役のみんなで、「やっぱり子どもには勝てないね。子どもの心ってなんて美しいんだろう」という話をした覚えがあります。そんなヘビーなシーンを撮っているときに、子どもたちにものすごいエネルギーをもらいながら、改めて、大人の私たち世代もちゃんと考えて向き合っていかなければいけない問題だなと考えさせられました。きちんと一人ひとりが改めて見つめられる時間をこの作品でつくってもらえたらうれしいなと思っています。

©2018『あの日のオルガン』制作委員会
©2018『あの日のオルガン』制作委員会

——戸田さんは数々のドラマや映画に出演され着実に女優としてのキャリアを重ねていらっしゃいます。ご自身ではどのようにキャリアについて考えてきたんですか。

演じることになった役を目一杯演じきることをずっと考えてきました。あとはインプットとアウトプットができるようになりたいとか。仕事だけではなく、ひとりの人間としてひとりの女性としても心豊かであるために楽しいことを見つけたい、体験する世界を見てみるということが、目標というより大事にしてきたことでした。それを積み重ねることで些細なことでも幸せなことだなと感じられるようになりました。

——2019年はどのようなところを目指しているのですか。

今年はNHKの連続テレビ小説『スカーレット』1本に集中できるという贅沢な時間を、いかに有意義に過ごすかということと、1年を通してひとりの人生を演じる、描けるというのはなかなか体験できないことだと思っているので、役と共に成長していけたらいいなと思っています。

©2018『あの日のオルガン』制作委員会
©2018『あの日のオルガン』制作委員会

——最後に、インタビューにご登場いただく方皆さんに伺っているんですが、戸田さんが最近購入されたプレシャスな物を教えてください。

昨秋のドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)で草苅民代さん演じるママと一緒に過ごしていた家で使っていたダイニングテーブルと椅子がすごく気に入って、そのまま買っちゃったんです(笑)。(ドラマのモノとは別に)また新たにつくってもらったんですけど、それはプレシャスなお買い物でした(笑)。ようやく12月にできてきて使い初めているところです。

©2018『あの日のオルガン』制作委員会
©2018『あの日のオルガン』制作委員会

丁寧に言葉を継ぎながらインタビューに答えてくれた戸田恵梨香さん。インタビューは2018年末に行ったんですが、走りっぱなしの1年だったこともあって、「いまはとにかく家にいる時間が幸せ」と笑顔で話していたのが印象的でした。『スカーレット』は2019年9月30日から放送。どんな女性像を新たに創り出してくださるのか楽しみです。

戸田恵梨香さん
女優
(とだ えりか)1988年生まれ。兵庫県出身。2005年のドラマ『エンジン』(CX)や『野ブタ。をプロデュース』(NTV)で注目を浴び、『デスノート』2部作で映画デビュー。ドラマ『ライアーゲーム』(CX)、『SPEC』(TBS)、『コード・ブルー』などの大ヒットシリーズに出演。昨年秋の『大恋愛〜僕を忘れる君と』では若年性アルツハイマーに侵される主人公を好演。2019年度後期のNHK連続テレビ小説『スカーレット』ではヒロインに。その他、映画『駆込み女と駆出し男』、『無限の住人』ほか多数。
『あの日のオルガン』
2019年2月22日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開
東京も安全ではなくなっていた太平洋戦争末期、国の決定を待たず日本で初めて保育園を疎開させることに挑んだ保母たちの奮闘を描いた物語。1944年、東京・戸越保育所の主任保母・板倉 楓(戸田恵梨香)をはじめ20代を中心とした若手保母たちは53人の園児を連れて埼玉県南埼玉郡平野村へ集団疎開を敢行する。立派なお寺のはずが雨戸はボロボロ、ガラス戸さえないお世辞にも立派とはいえない荒れ寺だった——。
監督・脚本:平松恵美子 出演:戸田恵梨香 大原櫻子 佐久間由衣 三浦透子 堀田真由 福地桃子 白石 糸 
奥村佳恵 萩原利久 山中 崇 田畑智子 陽月 華 松金よね子 林家正蔵 夏川結衣 田中直樹 橋爪 功ほか。
この記事の執筆者
生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画をはじめ、芸能記事や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。最近いちばんの興味は健康&美容。自身を実験台に体にイイコト試験中。主な媒体に『AERA』『週刊朝日』『朝日新聞』など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』ほか。 好きなもの:温泉、銭湯、ルッコラ、トマト、イチゴ、桃、シャンパン、日本酒、豆腐、京都、聖書、アロマオイル、マッサージ、睡眠、クラシックバレエ、夏目漱石『門』、花見、チーズケーキ、『ゴッドファーザー』、『ギルバート・グレイプ』、海、田園風景、手紙、万年筆、カード、ぽち袋、鍛えられた筋肉