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職場に新しく入ってきた部下や後輩との関係に悩んでいる…という方も多いのではないでしょうか? 新人に自分の指示が伝わらず、イライラしてしまう。部下や後輩のフォローに追われて、なかなか自分の業務が進まない。「まったく、最近の若い人は……」とため息をつきたくなりますよね。でも、実は、部下との関係がうまくいかないのは、先輩や上司であるあなたの接し方にこそ問題があるケースがほとんどなのです。今すぐその接し方を変えないと、職場の人間関係がどんどん険悪になったり、部署の未来を担う部下のモチベーションを低下させ「こんな会社、辞めたい!」などと思わせたりすることにもなりかねません。

今回は、1,000社以上を訪問し、8,000人を超えるビジネスパーソンと共に仕事をしてきたコンサルタントの安達裕哉さんから、新人部下・後輩へのよくない対応をうかがいました。

先輩や上司が、後輩や部下を教育&指導するときのNG対応5選

■1:部下の「言い分を聞かない」のはNG

言い訳や弁解にもまずは耳を傾ける
言い訳や弁解にもまずは耳を傾ける

部下が仕事でミスしたり、部下のせいで仕事の進捗に大幅な遅れが生じたりしたら、上司としてはどう対応すべきなのでしょうか? この場合、頭ごなしに叱りつけて部下の言い分に耳を一切傾けないのは、最悪な対応のようです。

「新しく配属されてきたばかりの部下は、右も左もわからない状態なので、仕事の進みが遅かったり、何か失敗をやらかしたりするのが当然。その際、上司がよくやってしまいがちなNG対応は次の3つ。『なんでできないの!?』などと、部下を叱りつける。それに対し、相手が何か言おうものなら『言い訳するな』と発言を遮断する。そして、『●●してくれなきゃ困るじゃないの』などと、一方的にアドバイスを与えることです。

まず、仕事上の失態を犯した部下というのは、表面上は悪びれていないように見えても、内心では『しまったな』と、けっこう反省はしています。それに、上司のほうが立場が上で、言っていることも正論だと重々わかってはいるので、上司から責められると何も言えません。『言い訳するな』と弁解の余地も与えられなければ、なおさらです。そんな萎縮しきった状態の部下に対し、『もっとこうしたほうがいい』と一方的にアドバイスを与えたところで、その内容がどれほど部下に浸透するかは正直、疑問符がつきます。ややもすれば、上司の言葉を部下がほとんど理解しておらず、また同じ失敗の繰り返し、どんどん両者の関係が悪化することにもなりかねません。

そんな不幸なループを断ち切るためにも、上司は部下が何かしでかしたときには、まず相手の言い分を聞くことが第一でしょう。なぜ、そのミスが発生したのか? そうした事態を防ぐにはどうすればよいのか? 部下の説明がまどろっこしかったり、弁解にしか聞こえなったりすることが多いかと思いますが、上司はそこで結論を急いだり、『こういうことだよね』と自説を押しつけたりするのではなく、あくまで部下に考えさせることが大事です。遠回りのようですが、部下に考えさせて自分の言葉で話させるほうが相手の成長を促し、長い目で見ると仕事が効率的に回るようになり、職場の人間関係も良好なものとなるでしょう」(安達さん)

言い訳を聞くのは時間の無駄……ととらえて、「ああしろ」「こうしろ」と指示を与えてばかりでは、部下が一向に育たず、仕事の効率にも職場の人間関係にも悪影響なのですね。部下のためにも職場全体のためにも、仕事が遅かったり、ミスが多かったりする部下の話に、しっかりと耳を傾けましょう。

■2:部下からの「報連相待ち」で自分から声をかけないのはNG

報連相を当てにせず自分から声をかける
報連相を当てにせず自分から声をかける

新社会人や若いビジネスマン向けのアドバイスとして、「上司への報連相が大事」だとよくいわれます。しかし、安達さんは「上司は部下からの報連相をただ待つのではなく、自分から部下に声をかけて、進捗状況を把握しておくべし」と主張します。

「上司によくありがちなNGフレーズとして、『困ったら声かけて』が挙げられます。たしかに、上司は自身の仕事をたくさん抱えており、部下につきっきりというわけにはいかないので、困ったときだけフォローすればいいというのは正論です。しかし、『報連相が大事』とか『困ったら声かけて』などと言われても、部下は上司にどのタイミングで声をかければいいのか、わからないことが多いのではないでしょうか。

実際に、何か困ったことが起きたとしても、上司は忙しそうにしているし、『こんなことで質問したらまずいんじゃないか』と、声をかけるのをためらってしまう。そのままズルズルと部下が報連相を先延ばしにした結果、上司が『そういえばあの案件どうなった?』と気づいたときには、もう手の施しようがない状況に……というケースは少なくありません。ですから、上司は部下からの報連相を過度に期待せず、特に、配属されて間もない新人からは、基本的には目を離さないようにするのが望ましいでしょう。

何か様子がおかしいと気づいたときにはもちろんのこと、変わった様子がなくても、進捗について上司のほうから声をかけて確認するのが『どうしてこんなになるまで言わなかったの!?』という悲劇を防ぐのに有効です」(安達さん)

部下をフォローするのも、先輩や上司の仕事のうち。「困ったら声かけて」というのは、その役割を放棄するための免罪符のようなものかもしれませんね。部下からの報連相が遅れて、取り返しのつかない事態になるほうが、職場的には大ダメージを受ける可能性があります。面倒でも、自分から積極的に部下に声をかけましょう。

■3:社内リソースをあらかじめ部下に教えておかないのはNG

部下が疑問点を自力で解決できるようにする
部下が疑問点を自力で解決できるようにする

前項で、上司は部下の様子をしっかり観察して、積極的に声をかけるべきだとお伝えしましたが、とはいえ、四六時中、部下を見張っているわけにはいきませんよね。それに、自分の手が離せない状況で、部下から「ちょっとご相談が……」なんて持ち掛けられても、正直イラっとしてしまうのではないでしょうか。そんな部下の指導やフォローに伴う労力を軽減するには、実は、とても簡単な方法があります。それは、社内リソースの活用術を、あらかじめ部下に教えておくこと!

「社内リソースとは、たとえば、『この分野に関しては、この人に聞けばいい』とか『このフォルダに●●のマニュアル一式が入っている』といったことです。上司にとっては当たり前のことでも、新人の部下はこうした社内リソースに疎いがために、ちょっと人に尋ねたり、フォルダを見たりすれば一発で解決できる状況につまずいて、それに何時間も、ともすれば何日もかかりきりになってしまうことが、往々にしてあります。部下が効率的に仕事を進められるようにするのも、先輩や上司の責任。部下が困ったとき、こちらに頼らなくても自分で調べて解決するための方法を、教えておくといいわけです」(安達さん)

部下が自分で調べて効率的に仕事を進めてくれれば、上司は部下のフォローに煩わされずに済み、部下も上司の顔色をうかがいながら質問する、ちょっとしたストレスから解放されます。部下の仕事のスピードが遅い、呑み込みが悪い……とお悩みの上司は、実は教えていない社内リソースがないか? 振り返ってみましょう。

■4:あいまいな指示を出すのはNG

指示を出すときは部下としっかりコミュニケーションをとりながら
指示を出すときは部下としっかりコミュニケーションをとりながら

「●●をやっておいて」と部下に仕事を任せたのに、その部下が自分の期待通りの働きをしてくれないと、ガッカリですよね。しかし、部下が与えられたタスクを十分に果たせないのは、あなたの指示の出し方に問題があるのかもしれません。

「たとえば、上司が部下に『会議の議事録の作成をお願いね』と依頼したとします。もし、上司と部下の間で、“会議の議事録”のイメージを共有できていないと、どうなるでしょうか。部下の作成した議事録は、会議の日付や議題、参加者の記載がないなど不備が目立ち、上司は部下に何度もつくり直しを命じる必要があるかもしれません。そうなると、上司にとっても厄介な話ですが、部下の立場からしても『こっちは、言われた通りに仕事をしているのに!』と、不満を募らせるおそれがあります。

ですから、上司が部下に仕事を依頼するときには、どの程度のものがほしいのか?きっちり明確に示すことが肝心です。その際、先にお伝えした“部下の言い分を聞かないのはNG”の項目にも通じますが、ただ一方的に指示を出すだけでなく、『●●に必要なことは何かわかりますか?』とか『あなたはどう考える?』などと、部下に質問してみることもおすすめします」(安達さん)

上司が部下に仕事を依頼するときには、「こんなの常識」「知っていて当然」という思い込みを、できるだけ排斥する必要がありそうですね。部下の仕事の出来に満足できないときは、相手にダメ出しするよりも、自分の指示の出し方に問題がなかったか?を検討してみましょう。

■5:「部下に嫌われたくない」と思い込むのはNG

仕事がはかどるからこそ人間関係が良好に
仕事がはかどるからこそ人間関係が良好に

部下とコミュニケーションを取るのに苦手意識を持っている人は、ひょっとして「部下に嫌われたくない」という思いが強すぎるのではないでしょうか。実は、その思い込みこそが、職場の人間関係をよくする妨げになっているおそれがある、と安達さんは断言します。

「職場の人間関係をよくするには、上司が部下に好かれるかどうかはほとんど無関係で、いかに仕事を効率的に進めるかが何よりも大事です。というのも、部下から見て少々感じの悪い上司であっても、その上司のおかげで仕事がサクサクはかどるのであれば、部下は早く帰れます。仕事が効率的だと、給料だって上がりやすいかもしれません。それならば、部下は上司に対して不満を感じにくいのではないでしょうか。逆に、部下に嫌われたくないからといって、上司が部下に言いたいことを言えていないとします。こうした馴れ合いの職場では、仕事がうまく進まないことによる問題やストレスが発生しやすく、それが積もり積もると、何かの拍子で職場の人間関係がこじれるおそれもあるのです」(安達さん)

たとえば、お笑いコンビや音楽バンドでも、メンバー同士は不仲だけれど、売れているから長続きしていたり、逆に、仲良しコンビやグループがヒットに恵まれないために、喧嘩別れしてしまったりするケースは、枚挙にいとまがありませんよね。

ビジネスでの人間関係は、ビジネスでの成果がすべて。部下と良好な人間関係を築いていきたいなら、職場の居心地に重きをおいて部下に好かれようとするよりも、「嫌われてもいい」という覚悟で、効率第一主義に徹しましょう。人間関係が良好だから仕事がうまくいく、というより、仕事がスムーズに進むから、職場の人間関係も円滑になる、という因果関係なのかもしれません。

「いちいち聞かないと教えてくれない」上司に不満をもつ部下は多い

一方、部下の中には「いちいち聞かないと教えてくれない」と不満を持っている場合もあります。ここでは、部下が抱く上司への気持ちをご紹介していきます。

■1:「丸投げされても……」

上司の中には「この仕事は自分の判断で進めてもらっていいから」と判断の権限を部下に渡してしまう人が一定数存在します。上司はひと通りは教えたという認識かもしれませんが、部下が自分の判断で仕事を進めていくのは、上司が思っている以上に勇気のいることです。また、教わったことを実践して、初めてその教わったことの意味が理解できるといった場合もあります。ひと通り教えた後に、やっとわからないことが出てくる可能性もあるのです。そんなときには、部下は「そこまで教えてくれていないくせに丸投げされても……」という不満を抱えます。

また、そんな仕事の判断の権限を部下に渡す上司は、仕事の責任さえも丸投げしている可能性もあります。その場合、部下は「間違ったことをしたくない」と強く思い、それゆえに上司に何度も聞いて確認をしています。

■2:「もう少し経験からの注意点・アドバイスがほしい」

仕事に対して効率の良い方法を見つけて、自己流に進めてほしいと思っている上司もいます。しかし、そんな上司に対して部下は「もう少し経験からのアドバイスがほしい」と願い、それに気づいてもらいたくて質問をしている可能性があります。

部下側も、効率良く仕事を進められるように頑張ってはいるものの、すべての流れを把握して、効率性を重視して仕事を進行していくのにはそれなりの経験、そして時間を要します。「自分が何がわかっていて、何がわからないのか」さえもまだ手探り状態の可能性もあります。自分の仕事の進め方にまだ自信の持てない部下からすると、アドバイスをしてくれない上司は教育の手抜きにしか見えず、不満を抱えているのかもしれません。

■3:「試されている気がする」

日本の企業は「わからないことがあったら部下のほうから聞くべき」「仕事は見て、盗んで学ぶもの」という慣習がまだまだ残っているところがあります。その中で、聞かないと教えてくれない上司に対して部下は「試されている」と思っている場合があります。

少しでもわからないことに時間を費やしてしまうと、「指示待ちの部下は使えない」と判断されてしまうと思い、質問を繰り返してしまっているのです。

以上、先輩や上司が、後輩や部下を教育&指導するときに気をつけたいことを、5つの項目でご紹介しました。

部下のモチベーションや職場のチームワークを高め、仕事の成果を上げるのは、先輩や上司の責任。今回ご紹介したNG対応に心あたりのある人は、ぜひこの機会に改善しましょう。

安達裕哉さん
コンサルタント
(あだち ゆうや)1975年東京都生まれ。筑波大学環境科学研究科修了。世界4大会計事務所の1つである、Deloitteに入社し、12年間コンサルティングに従事。在職中、社内ベンチャーであるトーマツイノベーション株式会社の立ち上げに参画し、東京支社長、大阪支社長を歴任。その後、起業して、仕事、マネジメントに関するメディア「Books&Apps」を運営する一方で、企業の現場でコンサルティング活動を行う。最新刊は『すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な人』。
この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
2022.11.4 更新
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
中田綾美
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