グレース・ケリーは1929年、アメリカ・ペンシルバニア州フィラデルフィア生まれ。上品な顔立ちでクール・ビューティーと呼ばれ、セクシーなマリリン・モンローと相反するタイプの美人とされていました。彼女はアルフレッド・ヒッチコック監督のお気に入り女優でしたが、1956年にモナコ公国の大公、レーニエ3世と結婚し、公妃(プリンセス)に。当時、世界を驚かせたシンデレラストーリーであったのはあまりにも有名です。

モナコはバチカン市国に次いで世界で2番目に小さい国で、国土が東京ディズニーリゾートとほぼ同じ面積ですが、フランス国籍の人以外には所得税が発生しないため富裕層が集まっており、ひとり当たりの国民総所得が世界第1位です(消費税は19パーセント以上で、物価は高い)。

グレース・ケリーのファッションスタイルをたどる「GRACE DE MONACO, PRINCESS IN DIOR」展が開催

このたびエキスポジションが開催される博物館は、クリスチャン・ディオールの生家。父が裕福な商人だったため立派な邸宅です。特に、花々が咲き乱れる庭が美しく、今なおメゾンのインスピレーション源となっています。

丘の上の広い敷地内に立つ邸宅。今は博物館になっています。©︎Raphael Dautigny
丘の上の広い敷地内に立つ邸宅。今は博物館になっています。©︎Raphael Dautigny
少年時代のディオール 氏の写真が飾られた庭の一角。 ©︎Benoit Croissy
少年時代のディオール 氏の写真が飾られた庭の一角。 ©︎Benoit Croissy

ディオールはグレース・ケリーのお気に入りクチュール メゾンでした。

婚約発表の翌日、ニューヨークのウォルドルフ=アストリアホテルで開かれたパーティーでディオールのドレスを着用。同じ年の公式ポートレートの撮影時には、クリスチャン・ディオール自身による1956年〜57年秋冬コレクションからドレスをチョイスしています。

1957年にディオールが亡くなったあと、アーティスティック ディレクターとなったマルク・ボアンもまた彼女のお気に入りとなり、単なるクチュリエではなくて、友人として対していたそうです。

右にいるのが、マルク・ボアン。ブティックのオープニングでしょうか。
右にいるのが、マルク・ボアン。ブティックのオープニングでしょうか。
白い襟と手袋が印象的なソワレの装い。
白い襟と手袋が印象的なソワレの装い。
プリンセスの気品を漂わせるグレース・ケリー。モナコは公国なので、君主をプリンス、お妃をプリンセスと呼びます。
プリンセスの気品を漂わせるグレース・ケリー。モナコは公国なので、君主をプリンス、お妃をプリンセスと呼びます。

グレース・ケリーは、バスルームをディオールの香水瓶で飾っていたそうです。クリスチャン・ディオールは、1947年に竹馬の友であったセルジュ・へフレール=ルーイッシュとともにコスメ部門、パルファン・クリスチャン・ディオールを創設しました。ちなみに、セルジュさんの子孫が、クリエイティブな調香で有名なフレデリック・マルです。

1960年代にレーニエ3世とグレース・ケリー夫妻に献上したといわれる「Miss Dior」。レーニエ3世のモノグラムが正面に、キャップ部分にはモナコの王冠が刻まれています。
1960年代にレーニエ3世とグレース・ケリー夫妻に献上したといわれる「Miss Dior」。レーニエ3世のモノグラムが正面に、キャップ部分にはモナコの王冠が刻まれています。

エキシビションでは、モナコ宮殿で大切に保管されていた85着のドレス、当時の写真、デッサン、フィルム、ルポ、書簡などを展示し、「ふたつのヴィジョン」、すなわちプリンセスという公人としてのヴィジョンと、妻であり、母であるモダンな女性としてのヴィジョンを解き明かします。

公式の場ではプリンセスのステータスにふさわしいエレガントな装いで登場しましたが、プライベートでは上品かつシンプルでコンテンポラリーな装いを好んだそうです。グレース・ケリーはアメリカ人ですので、本来はコンフォートとシンプリシティーを好む人だったのですね。当時の写真から公と私の場所での着こなしを比較してみるのも楽しいです。

襟元をゴージャスに装飾したドレス。
襟元をゴージャスに装飾したドレス。
上のドレスを着用したグレース・ケリーは、華やかで生き生きとしています。
上のドレスを着用したグレース・ケリーは、華やかで生き生きとしています。
軽やかなフェザーが華麗な純白のドレス。
軽やかなフェザーが華麗な純白のドレス。
上のドレスを着用したグレース・ケリー。何かのソワレでしょうか。
上のドレスを着用したグレース・ケリー。何かのソワレでしょうか。
エスニックなムードの赤いドレス。
エスニックなムードの赤いドレス。
上の赤いドレスにボリューミーなヘアドレスをまとって。仮装パーティーのようですね。ドジョウひげとミカド風の烏帽子を身につけた後ろのムッシューも気になります。
上の赤いドレスにボリューミーなヘアドレスをまとって。仮装パーティーのようですね。ドジョウひげとミカド風の烏帽子を身につけた後ろのムッシューも気になります。

このエキシビションに際し、リゾーリ社が本を出版しました。こちらも合わせてチェックしたいですね。

写真をふんだんに使った美しい装丁の豪華本。インテリアとしても素敵です。
写真をふんだんに使った美しい装丁の豪華本。インテリアとしても素敵です。

美しい国モナコに似合う、エレガンスなブティックがオープン

また、先日、モナコのモンテカルロにディオールのブティックがオープンしました。オープニングには、息子である現大公のアルベール2世とシャルレーヌ両殿下が出席されたそうです。

地中海の美しい国モナコによく似合う瀟洒なブティック。
地中海の美しい国モナコによく似合う瀟洒なブティック。
ピンクとベージュを基調としたロマンチックな内装。
ピンクとベージュを基調としたロマンチックな内装。
最新のルックをまとったマネキンが椅子に座って。
最新のルックをまとったマネキンが椅子に座って。

美しいグレース・ケリーはディオールにとっては最高のミューズであったことでしょう。モンテカルロにある宮殿の一部は一般に公開されています。私は昨年、アルベール2世殿下にインタビューした際、宮殿内を見学しましたが、一室に飾られているグレース・ケリーの大きな肖像画が印象的でした。グランヴィルのディオール博物館とモナコを巡り、グレース・ケリーをたどる贅沢な旅を楽しむのはいかがでしょうか。

「グレース・ド・モナコ、ディオールをまとったプリンセス」展 詳細

会場/Musée Christian Dior-Granville
期間/2019年4月27日(土)〜11月17日(日)
時間/9月30日まで10:00〜18:30(最終入館18:00)、10月1日から10:00〜12:30、14:00〜18:00(火〜日、最終入館12:00、17:30)※バカンス時には毎日開館
料金/大人9ユーロ
TEL:+33 2 33 61 48 21
住所/1 rue d'Estouteville 50400 Granville

 

この記事の執筆者
某女性誌編集者を経て2003年に渡仏。東京とパリを行き来しながら、食、旅、デザイン、モード、ビューティなどの広い分野を手掛ける。趣味は“料理”と“健康”と“ワイン”。2013年南仏プロヴァンスのシャンブル・ドットのインテリアと暮らし方を取り上げた『憧れのプロヴァンス流インテリアスタイル』(講談社刊)の著者として、2016年から年1回、英語版東京シティガイドブック『Tokyo Now』(igrecca inc.刊)を主幹として上梓。