「RBG」とイニシャル(つまり愛称)で呼ばれるには、いったいどれほどの愛情と尊敬を集めなくてはならないだろう。
米国には、JFK(ジョン・F・ケネディ)やMLK(マーティン・ルーサー・キング)など、ほんの数人だけがイニシャルで呼ばれ、国民的なアイコンとなっている。そこに最近加わったのが、「RBG」である。
『タイム』誌の表紙を飾り、ティーンエイジャーまで熱狂させ、Tシャツ、マグカップ、ステッカーなどグッズまで発売され、挙句の果てはタトューを入れるものまで登場するという、ロックスター並みの人気を誇るポップカルチャーアイコンRBGこと、ルース・ベイダー・ギンズバーグとは、いったい何者?
SNSで話題の「#RBG」って?いま、世界で最も影響力のある女性にフォーカス

映画『RBG 最強の85才』は、85才にして、現役最高裁判事(女性として史上ふたり目)を務めるルース・ベイダー・ギンズバーグ(頭文字RBG)を追ったドキュメンタリーだ。妻であり、母親であり、そして何よりルースを特別な存在にしているのが、彼女が成し遂げた偉業だ。
性差別と戦い時代を変えた、ブルックリン出身の偉人

1933年、ニューヨークのブルックリンでユダヤの家系に生まれた。
厳しくも愛情深く育てられたルースは、当時女性が学ぶことが難しかった時代に、名門コーネル大学に入学、そこで夫となるマーティン・D・ギンズバーグに出会い結婚。そこからハーバード大学のロースクールに転籍。そして再びコロンビア大学のロースクールに転籍し、首席で卒業。とてつもない秀才である。
だが、ルースが社会に出た'50年代は、女性の弁護士など考えられもしなかった時代だ。あらゆる法律事務所に就職を断られたルースは、「怒るのは時間の無駄」とばかりに、1963年に30才の若さでラトガーズ大学の教授となり、同時に性差別の裁判に関わり「女性の権利プロジェクト」の立ち上げに尽力した。
のちに同プロジェクトの顧問弁護士として法廷に立ち、最高裁で弁護を行なった6件の訴訟のうち5件が勝訴する。
ハーバード大学のロースクールでは、歓迎パーティーで学部長に「どうして男子の席を奪ってまで入学したのか」といい放たれ、学校には女子用のトイレさえなかった。
職を得ても女性は「夫の名前でしかクレジットカードをつくれない」「残業は禁止」など、性差別や女性軽視が当然とみられていた。
そんな社会に対して、ルースは丁寧な手法で少しずつ、だが確実に、変革を仕掛けていった。誰にも文句を言わせない「憲法違反」という正統な手法をもって。

女性やマイノリティーの権利発展のために、着実に功績を残すルースは、次第に評価が高まり1980年にジミー・カーターからD・C・巡回区控訴裁判所の裁判官に任命され、1993年にはビル・クリントン大統領によって史上ふたり目となる最高裁判事に任命される。
すでに60才を過ぎていたルースだが、法の下の平等の実現に向けて同僚の男性判事たちを巻き込みながら、男子大学の女性排除、男女の賃金差別、投票法の撤廃など、弁護士時代と変わらぬ熱意で果敢に切り込んでゆく。
と、ルースの偉業を上げてゆくと、まるで現代の偉人伝だが、ルースが85才最高裁判事の最高齢になっても、ロックスター並みにアイコンになっているのは、並外れた優秀さで弱者を救済するという一貫した硬派の姿勢を崩さない一方で、女らしい可愛らしさや、チャーミングさをもち合わせ、それがこの上もなく人々を魅了するからなのだ。
アイコニックな「RBGスタイル」の確立

ルースが最高裁判事になったとき、まず改革に手をつけたのが判事の制服である法服だ。男性が着用することを前提にデザインされていた黒の法服に、白いつけ襟を合わせ、清潔で女らしい印象で着こなした。

このレースなどの華やかな素材のつけ襟を何種類も持っており、今やルースを象徴するアイテムとして、愛用の黒縁のセルフレームの眼鏡と同時に彼女を示すアイコンになっている。
タイム誌の表紙になったときも、このふたつを身につけている。ついでにいえば、『大統領を動かした女性 ルース・ギンズバーグ 男女差別とたたかう最高裁判事』という絵本の表紙にもこの法服姿、映画『レゴムービー2』にも同じ姿で登場し、いかに「つけ襟と黒縁眼鏡」がアイコニックで愛されているかが伝わってくる。
最近では、イスラム圏を中心とした7か国からの入国制限措置の支持など、保守化の進む合衆国裁判所において、鋭い反対意見を次々と打ち出すルースは「反トランプ」の姿勢も明確に打ち出しており、まさに最高裁のロックスター。ますます重要な存在となっている。
女性達が革命を起こした時代の転換期

ルースは、フェミニストのグロリア ステイネム、最近メットガラで再び注目を集めた「campに対する考察」のスーザン ソンタグなどと同じ世代である。
彼女達は1950年代に社会に出て困難に直面し、1960〜70年代に、問題提起し、それまでの女性やマイノリティー軽視の風潮を打破し、現代に続く画期的な概念を打ち出した。今や一般的にも広がった「#metoo」運動なども、ルースをはじめ、彼女達がいなければ生まれてこなかった。
RBGについて語りたいことは山のようにあるが、その足跡と功績について、そして何より家族との絆がどれほどルースを奮い立たせてくれたか、「淑女であれ、そして自立せよ」と教えた母親からの学びなど、この『RBG 最強の85才』の映画を観ると、ルース達が切り開いた、女性達が法的に守られている環境(まだ十分ではないけれど)に深い感謝の念が湧く。
と同時に、これからルースがいったい何をやってくれるのか、広がる未知の世界に、ワクワクと期待に胸が弾んでくる。

『RBG 最強の85才』
2019年5月10日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA他公開
監督/ジュリー・コーエン、ベッツィ・ウエスト
主題歌/「I’ll Fight」歌ジェニファー・ハドソン
出演/ルース・ベイダー・ギンズバーグ、ビル・クリントン、バラク・オバマ
2018/アメリカ/カラー/英語/98分 原題:RBG 後援:アメリカ大使館
配給/ファインフィルムズ
公式HP/ www.finefilms.co.jp/rbg
第91回アカデミー賞2部門ノミネート。長編ドキュメンタリー賞・歌曲賞 受賞

- TEXT :
- 藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
- PHOTO :
- Cable News Network.、AFLO
- WRITING :
- 藤岡篤子
- EDIT :
- 石原あや乃