コロニアル、直訳すると「植民地の」という意の言葉だが、ファッションやライフスタイルの領域においてはその表意だけでなく、この言葉が使われるようになった経緯や背景、その変容も含めてとらえる必要があるように思う。

コロニアルという語からまず連想されるのは、英国植民地時代、17〜18世紀における北アメリカの生活様式や建築などだろう。

G7サミット(先進国首脳会議)などで知られるバージニア州ウィリアムズバーグには「コロニアル・ウィリアムズバーグ」として往時の建築や生活を再現した区域が存在するが、その当時の服装に身を包んだ人々を見ていると、英国など旧世界の服装が、アメリカの風土の中で変容を遂げたことがわかる。

もともとアメリカ移民の中心的存在だった清教徒の華美に走らない生活様式と、開拓地の厳しい環境は、建築そして服装などを、より実用的で簡素な方向へ発展させていった。その身近な一例としては、独立戦争を機に広がったバンダナなどが挙げられるだろう。

当時英国やスコットランドなどで生産されていたバンダナは、ワシントンら独立派のキャンペーンツールとしてアメリカでもつくられるようになり、普及したといわれる。やがてメキシコの染物などの影響も受け、カウボーイらワーカーの必須アイテムとなったのだった。

幻想としてのコロニアル論

現在のキューバ・ハバナ。スペイン 統治時代の建物とアメリカ傀儡時代に走っていたアメリカ車とが共存する、不思議な街並みに庶民が暮らす。
現在のキューバ・ハバナ。スペイン 統治時代の建物とアメリカ傀儡時代に走っていたアメリカ車とが共存する、不思議な街並みに庶民が暮らす。

このように植民地を支配している国や移民を送り出した社会の文化やライフスタイルなどは、植民地や移住先のさまざまな要素に直面することで変化していく。コロニアルという言葉が示す事柄にはそうした「変化の結果」が含まれていて、そのことがこの語に魅力的な響きをもたらしているように思える。

たとえば以前流行したグルカトラウザーズまたはグルカショーツは、英国とネパール・ゴルカ王朝との戦役で活躍した現地の兵が、グルカ兵として英国軍に組み込まれるのにあたりつくられたスタイルといわれる。

ウエスト部をバックルで留める現地の服装をモディファイしたといわれるそのデザインは、当時の最先端技術の反映でもあるミリタリーウエアと、植民地の風俗が混淆したハイブリッドなアイテムといえるだろう。それゆえ、欧米の服装文化の中から生まれた他の服などと並べた際、ディテールに共通する要素が多いにもかかわらず、独特な存在感を放っている。

また、英国やフランスでシャツなどの下着、またはワークウエアの素材だった麻やコットンが、赤道に近接した植民地の気候において、テーラードウエアの主素材として重用されるようになったのも、風土が西洋のドレスコードに影響を与えた表れといえるだろう。

そして生地が植民地の環境にあわせたものになるのに並行して、テーラードウエアのコンストラクションにおいても、より簡素なもの、省略された構造が採用されるようになった。後述するサファリジャケットが、ライニングや芯材などを極力排した、シャツとジャケットの中間のような構造となったのはこの典型といえる。

この点においてコロニアルスタイルは、20世紀前半から半ばまでのメンズクロージングにおけるカジュアル化、機能性を軸としたシンプル化を進めた推進力のひとつといってもいいかもしれない。

大戦を経て帝国主義だった欧州の列強が後退すると、かつては植民地だったアメリカが、今度はコロニアルスタイルの推進役となった。新聞、雑誌、映画そしてTV、さまざまなメディアを通してコロニアルなイメージが伝えられていった。

『アフリカの女王』『モガンボ』『キング・ソロモン』といった映画は、当時まだその様子がよく知られていなかったアフリカを舞台に、コロニアル的な視点で風土のエキゾチズムを描いた。また映画『ブルー・ハワイ』などは、アメリカの擬似コロニアルとしてのハワイのイメージを伝えている。

アロハシャツを着用し歌うエルヴィス・プレスリーの姿が象徴的だ。それらの作品群はコロニアルスタイルに甘美な味わいをもたらすことに成功している。

映画に限らず、文学などでも、コロニアル的なイメージはさまざまに描写された。アーネスト・ヘミングウェイはアフリカでの日々を記述する一方で、彼自身のキューバでの生活が雑誌等で盛んに伝えられた。

サファリジャケット、グルカショーツ、彼が身につけたそれら「コロニアルな」服は、アメリカのアパレルメーカーが手がけたものであり、パクス・アメリカーナの勢力下にあったキューバのライフスタイル(それもまた擬似コロニアルといえるかもしれない)というイメージを付加することで、拡大再消費されていったのだった。

かくして植民地時代のアウトフィットは、コロニアルというイメージ、エキゾチズムを包含しながらファッションのいちスタイルとして広がっていった。

そしてコロニアルスタイルはイマジナリーなものとしてリアリティを超えて、純化され強度を備えることになったのだ。それらは実際に存在した時代から時を隔てるごとに、より芳しく、薫りを強めている。

この記事の執筆者
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク
PHOTO :
長山一樹(S-14)
TAGS: