ベスパというと、数々のイタリア映画の名場面を飾ってきた。最も有名なのは『ローマの休日』だろう。この作品にベスパが抜擢されたのは単なる偶然ではない。ローマこそがベスパの文化を育てた街だからだ。交通渋滞の激しいローマにあって、クルマの間をするする縫うように走るベスパの美しい姿は、若かりしころの私にとって、胸のすくような開放感と自由を感じさせてくれたものだ。

ベスパは自由と開放感を感じさせてくれる乗り物

モノクローム時代の映画を支えてきた名車

「ローマの休日」(1953)写真:Getty images
「ローマの休日」(1953)写真:Getty images

ベスパはモノクローム時代の映画を支えてきたが、イタリアでは過去の存在ではない。『キスを叶えて(2010年公開)』『探偵物語(1979)』にもベスパは格好の小道具として登場する。誕生から65年を経た今もみんなのスクーターとして生活に溶け込んでいる証だ。

ベスパには象徴的な写真がある。運転席には父が腰掛け、母はその後ろに笑みをたたえつつ、横を向いて腰掛ける。子供はハンドルを握る父の腕に囲まれ、ステップに立っている。それは交通法規の緩やかなよき時代の、自由と平和の象徴と言える光景であった。

ベスパは世界に誇る「走るイタリア文化」そのものであり、人生そのものといっていい存在かもしれない。ベスパに乗り街を駆け抜ける爽快感は一度知ったらやめられない。

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