若い頃、ビッグバイクにまたがって以来、そのまま乗り継いできた生粋のライダーではなく、途中でヘルメットを脱いでしまった人が、ここに来て「気持ちよさそうだし、ちょっと乗ってみようかな」という返り咲きライダー=リターンライダー。その昔、限定解除に挑戦してようやく手に入れたライセンスを無駄にしないためにもビッグバイクに乗りたいわけで、その気持ちもよく分かる。

 ただ、問題は感覚の衰えである。昔は乗れていたはずの750ccでさえ、今ではちょいと手に余る。こうなると、むき身で走っているバイクだけにリスクは大きくなる。一方で、昔乗っていたというプライドがあるから「まずは原付2種から」とか「とりあえず250ccぐらいから再開してみようか」という謙虚な気持ちにも、なかなかなれない。そんな多少の経験があるうえで、少しばかりプライドも保ちたいというならばお薦めしたいのが、900ccという排気量をもつ「トライアンフ・ストリートツイン」である。

直立2気筒を気楽に楽しむ!

細身ながら男らしさを感じさせるスタイリングだ。
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改良で最高出力が10%向上した。ブリティッシュツインのサウンドを響かせよう!
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 トライアンフといえば現存する最古のオートバイメーカー。なかでも代表的なモデルとして古くから作り続けられ、多くに人たちに愛されてきたのが、直立2気筒エンジンの「バーチカルツイン」を積むモデル。地面に対して垂直に立っている2気筒エンジンのことをそう呼ぶのだが、奏でるエンジン音と独特の振動というか鼓動は今も多くの人々に愛され、まさにトライアンフの世界観の根幹をなしているといっていい。今回紹介するストリートツインは、伝統ある大排気量のツインエンジンを搭載し、ビンテージ感を演出したデザインが与えられ、「モダンクラシカル」と呼ばれるカテゴリーに入る1台である。ネオクラシックといったブームも確かにあるのだが、トライアンフのモデルはそうした流行とは少し違ったところにある「本物感」を備えている。

 トライアンフは、カウルを備え並列3気筒エンジンを積むスポーツバイクとか、大陸横断もこなせるほどのアドベンチャーモデルなども揃え、いわゆる現代風のバイクはしっかりと用意されている。だが今回はリターンライダーが「さりげなく、乗りやすい」をテーマに選ぶなら、と考え、ストリートツインをお薦めする。

 それにこのモデルは、着こなしにあまり気張らなくて済む。峠を駆けぬけるスーパースポーツやツアラーでは、レーサー風にするなどけっこうハードルも高いうえに、少しばかり気恥ずかしさもある。第一、そこまでのスキルも無いし、何よりもリターンライダーにとって必要な気軽さが希薄である。

 そこで普段着感覚のファッションでまたがれるストリーツインが選択肢として浮上してくる。もちろんインナーにはプロテクター、専用のブーツやグローブは必須であるが、全体とすれば普段着ファッションで乗りこなすことができる。その意味では自由度が高いわけで、久し振りのライディングにもゆとりが生まれ、気持ちも楽になる。

リターンライダーに寄り添う乗り味

シートのクッション材が10㎜厚くなり、ロングライドが快適に。
シートのクッション材が10㎜厚くなり、ロングライドが快適に。
シンプルなメーターが、またいい!
シンプルなメーターが、またいい!

 エンジンは水冷直列2気筒900ccで65馬力。その昔、750ccでも十分にビッグバイクだったわけだが、最近では900cc、いやオーバー1リッターエンジンも珍しくなく、けっこう普通に乗られている。その中でストリートツインはまさに近所の買い物からゆったりとしたツーリングまでフルにカバーしてくれる懐の深さがある。

 エンジンをスタートさせると、ブルブルンッと一瞬大きく震えたのちに目を覚ました。わずかに不規則で、だが確実にシリンダーの中で爆発が起きているこという独特の鼓動感を伝えてくれるバーチカルツインは、トライアンフの大きな魅力である。アクセルを2~3回煽るとエンジンは忠実にドドドドドと回転を上げる。国産のカワサキ・W1やヤマハ・XS650などを知っている世代にとっては、何とも懐かしい感覚だが、このストリートツインは正真正銘の現代のバイク。ブレンボ製フロントブレーキなどが装備されていことをみても、テクノロジー面でライダーのための乗りやすさ、扱いやすさも現代の味付けによって仕上がっていることがわかる。

 細身のボディのシートにまたがると、まず足つき性のよさに、久し振りのライダーは安心感を覚えるはずだ。そしてクラッチ操作も難なくこなせるし、アクセルを開けるとトルクが唐突ではなく、確実に立ち上がってくる。多少、クラッチワークに油断があってもエンストはせずに済むはずだ。走り出してしまえば、なんともゆったりとしたライディングフィールを楽しみながら市街地から高速までこなしてくれる。ステップをすりながらコーナーを駆けぬけるようなバイクではないが、飛ばさずとも楽しいところは、リターンライダーにとって大きな魅力となるはずだ。肩肘張らずにバーチカルツインを楽しむ。しばらく乗るとだんだん昔の感覚が戻ってくるのが分かる。自在に乗りこなすには少しばかり時間を要するかもしれないが、体への馴染みは早いと思う。もちろんこのゆったり感があればウイリーさせるような無茶をすることもあまり考えなくなる。

 ハーレーのようなVツインとはまた違った鼓動感とリターンライダーにも優しく寄り添ってくれるライディング感覚。おまけに19年モデルはマイナーチェンジを施されたばかりと鮮度も高い。久し振りに旧碓氷を抜けて、軽井沢辺りへと走りに行きたくなった。

<SPECIFICATIONS>
ボディサイズ:全長2,090×全幅785×全高1,114mm
車重:198kg
シート高:760mm
トランスミッション:5速
並列2気筒SOHC 900cc
最高出力:47.8kW(65PS)/7,500rpm
最大トルク:80Nm/3,800rpm
価格:¥1,050,600(税込)

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この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。