「更年期」は歯の転換期。女性ホルモンの変化にも負けない「健康な歯」を維持するためには、どうしたらいい?

人生100年時代と言われる長寿国日本。全身の健康はもちろんのこと、「健康年齢」を考える際に大切なこと、それは「自分の歯」を長く維持すること。30代で8割、40代では9割が歯周病と言われていますが、特に女性ホルモンが大きく変化する更年期に、歯を失う方が少なくありません。

健康な歯を維持するために、今からできるお口のケアはあるのでしょうか? 「名医のTHE太鼓判」「たけしの家庭の医学」などのテレビ番組などでもたびたび登場している歯科医・小林瑠美さんお伺いしました。

歯科の総合病院をつくりたい。そんな夢を実現させるために開業へ

歯科医、小林瑠美さん
医療法人社団 桜路会 ルカデンタルクリニック理事長 小林瑠美さん

アルバイト3つを掛け持ちし、歯科医として勉学を続けながら歯科医院を開業

Precious.jp編集部(以下同)――歯科医院を開業したきっかけはなんでしょうか?

大学歯学部に入ったときから、開業を視野に入れて勉学に励んでいました。普通の大学の歯学科というのは「専門のこと」しか対応できないのですが、「インプラント科」では、インプラントが関係している、すべての治療を行うことができます。そのため日本大学松戸歯学部卒業後、1年の研修医を経て、鶴見大学インプラント科で3年間、インプラントについて学び、知識を会得しました。

その間、歯科医としてアルバイトを3つほど、掛け持ちしていました。歯科クリニックで歯科と体のバランスについて学びながら働いたり、オペのアルバイトをしたり、老人ホームに往診へ行ったり。

また、土曜日の午後のお休みには、最先端の治療を行っている歯科医を訪れ、見学させていただきながら、歯科の知識を深めました。「歯科の総合病院をつくりたい」。そんな思いから、多くの経験を積み、幅広く歯学を学んできました。

――その後、すぐに開業したのでしょうか?

いえ、アルバイトを掛け持ちしながら学び続けていたとき、大学の先輩が開業をしたいということで、雇われ院長として30歳のときに、銀座にクリニックをオープンしました。開業に必要なすべてをそこで経験することができ、4年後の2012年2月、34歳の時に現在の「ルカデンタルクリニック」を南青山に開業しました。今年で8年目になります。

――開業に際してかかった費用は、どのくらいですか?

2012年の開業時は、すべて込みで7,000万円ほどかかりました。家賃、内装、建具、レントゲンやその他の機械など。そしてその2年後の2014年に、さらに3,000万円ほどかけて歯科医院を増築し、同じ建物内に患者さんのお子様をお預かりする、保育所も設置しました。なので、トータルで1億ほどかかっています。

――現在、何名くらいの患者さんがいらっしゃいますか?

ざっくりですが2,500名ほどの患者さんに来ていただいています。

――経営が順調な理由は、なんだと思いますか?

「歯科の総合病院をつくりたい」という目標を叶えるべく、当院では小児歯科から矯正治療、インプラント、審美など、ありとあらゆる治療を行っています。各分野の専門医が治療にあたっており、私以外にそれぞれの専門の歯科医が7名、歯科衛生士が4名、助手が2名、計14名が協力しながら、どんな歯科治療にも対応できるように、歯の総合病院として、体制を整えていることが理由かもしれません。

ルカデンタルクリニックのスタッフのみなさん
ルカデンタルクリニックのスタッフの皆さん(前列右から3番目が小林瑠美さん)

女性のライフステージに合わせた歯の治療を

――40代、50代の女性が気をつけたほうがいい「歯の病気」はありますか?

女性は男性に比べて、女性ホルモンによって歯周病が悪化しやすい傾向にあります。男女ともに、30代で8割、40代では9割が歯周病と言われています。歯周病が原因で、更年期をきっかけに入れ歯になってしまうという方が、非常に多いと思います。

――そもそも「歯周病」とは何ですか?

歯周病とは、歯周病菌という菌の感染から起こる歯の病気です。歯周病菌が繁殖すると、骨に埋まっている歯の周りの歯茎が痩せて、骨がどんどん溶けてしまいます。その結果、歯が抜けてしまいます。

――歯周病菌の感染理由は何でしょうか?

歯周病菌は、思春期から成人するくらいまでに感染すると言われています。

例えば、中高生の頃の部活動での飲み物の飲み回しや、男女間の接触などで感染します。10年ほどの潜伏期間を経て発症すると言われています。歯周病菌に感染していても、20代の頃は歯肉炎と言って、歯茎がちょっと腫れたりするくらいで、寝れば治っていたものも、30歳を超してくると、寝ても治らないし、歯茎だけの炎症で終わらず、骨を溶かしてしまうようになります。

歯周病菌には何十種類も菌があるのですが、中にはとてもたちの悪い、重篤な歯周病を引き起こすような菌も存在します。どの菌に感染しているかによって、歯周病が悪化しやすいかどうかが決まってきます。

また、口臭の原因のほとんどが歯周病によるものだったりします。口臭には大きく分けて3つあります。1・蓄膿症、胃腸疾患、糖尿病などの内科的に問題がある場合、2・磨き残しが時間が経って発酵した場合、3・歯周病による場合です。口臭外来では、口臭の原因と、どのくらいのレベルの匂いなのか、などを測定することが可能です。

――そうすると、40歳を過ぎている方は、自分は歯周病だと考えたほうが良いということですか?

そうですね、40代の9割が歯周病菌を保持しているという統計を鑑みると、そう考えても良いかと思います。若いころは特に症状がなくても、女性の場合更年期をきっかけに、一気に歯周病が悪化することがあります。

――なぜ、更年期がきっかけになるのでしょうか?

骨密度をコントロールしているのが、女性ホルモンだからです。女性は生理や出産でもホルモンによって骨密度が上下します。特に更年期で女性ホルモンが減ることで骨密度が低下し、骨がスカスカになってしまい、歯周病が進行してしまいます。

同時に更年期になると、女性の口内の粘膜が薄くなって免疫力が落ちたり、唾液腺が細くなって唾液の分泌量が減ってきます。若いころは唾液によって、口内のネバ付きや磨き残しを洗い流していたり、舌の表面が唾液で洗い流され、雑菌の繁殖を抑えたりしています。しかし、更年期になり、唾液量が減ると、自浄作用が効かなくなります。その結果、歯周病が悪化するリスクが高まります。

歯科医師会で講演している様子
歯の健康について歯科医師会で講演

歯の健康維持のためには、まず現状把握を

――歯の健康を維持するために、今からできることを教えてください。

歯周病菌自体は痛みがないので、自分で認識するのはとても難しいです。ご自身で気がつくケースがあるとしたら、膿がたまって蓄膿症になったとか、顔が腫れてしまったとか。

そのため、まず現状把握のためにクリニックを訪ねてください。クリニックでは、保険適用で歯茎の検査が可能です。歯周ポケットという言葉を聞いたことがあると思うのですが、この歯周ポケットが1、ないしは2ミリなら問題はありません。3ミリだと歯肉炎、4ミリ以上だと歯周病です。

歯茎の検査の後、クリニックのクリーニングで歯石を取り除いて一度、歯をリセットします。クリーニングも例えば「私は1年に一度、必ずクリーニングへ行っているのよ」とおっしゃる方もいらっしゃるのですが、実は一度のクリーニングでは歯石は取りきれません。

歯と歯茎の境目の磨き残しをプラークと呼びますが、これが48時間経つと歯石に変わります。歯石に変わってしまったものは、歯ブラシでは落とすことができません。その歯石をクリーニングで落とすのですが、クリーニングで落とすことができる歯石は、歯茎の頂上から4~5ミリです。その上のほうの歯石をとると、周りの腫れていた歯茎が引き締まり、その下に隠れている歯石をまたとることができます。

歯周病が進行している人は、さらにその奥まで歯石があるので、3段階くらいで歯石をとる必要があります。今、ついている歯石を完全に取り除いてリセットするところまでは、毎週続けて通っていただいて、あとはその方の歯茎の特徴にとって、どうのようにメインテナンスするのかは違ってきます。

疲れて歯が痛くなったり、歯茎が腫れるようなタイプの人なら、月に1度くらいの割合でクリーニングに通うことで、長く自身の歯を保つことが可能になります。劣悪な歯周病菌が認められた場合には、薬などを使ってその菌を除去する方法などもあります。

――歯に関して「8020」という数字をよく目にしますが、これは何でしょう?

「80歳で20本、自分の歯を残せるようにこころがけましょう」という推進です。実際、港区で、区の健診表で健診した方の56%が、80歳で20本の歯を維持することができていると統計が出ています。人生100年時代、自身の健康な歯を維持していきたいですよね。

クリニック内の診察室
積極的に歯の健診に行くことをおすすめします

自宅で美しく健康な歯を保つためにできること

――自宅でできる、歯のお手入れのコツはありますか?

まずデンタルフロスを使ってください。フロスを使って大まかな汚れを落としたあと、フッ素入りの歯磨き粉を使って、5分以上歯磨きをします。最近、厚生省の基準が変わって、フッ素の濃度が1500ppmまで配合している歯磨き粉も市販されるようになりました。

フッ素の濃度が高いものを使い、うがいは1回程度にして、フッ素を歯に残すようにすることで、歯を徐々に強くすることができます。また、最近、イオンの力で汚れを浮き上がらせるような歯磨き粉も市販されているので、そちらもおすすめですが、毎日ではなく、週一程度の使用がおすすめです。

よくある勘違いで、電動歯ブラシと研磨剤が入った歯磨き粉を、同時に使用している方がいらっしゃいますが、それは磨き過ぎで、エナメル質にダメージを与えてしまうので、やめましょう。電動歯ブラシを使用している方は、ジェルタイプの研磨剤の入っていないものが良いと思います。また、電動歯ブラシにもいろいろ種類がありますが、音波歯ブラシはとても有効です。

――女性は歯の白さや歯並びなど、審美歯科にも興味がある方が多いと思いますが、どのような方法がありますか?

昔は酸を使って、歯の表面を溶かして歯を白くする方法なども取られていましたが、エナメル質にダメージを与えることがわかり、現在ではあまり行われていません。

また、例えば欧米のドラッグストアで売られているようなホワイトニング剤などは、日本人の歯には合わないので、旅先で買うなどはやめたほうが良いと思います。欧米人に比べてエナメル質が薄い日本人には、日本人用に開発されたものを使うのがいちばんです。

また、最近は歯列矯正も、マウスピースで行えるものが主流になってきています。マウスピース矯正のマウスピースにフッ素剤や、日本人向けのホワイトニング剤などを入れて、歯を健康に保ちながら美しく白い歯をつくることも可能です。女性なら欲張りに、「プラスα」でやっていきたいですよね。

――ホワイトニングやマウスピース矯正は保険適用外だと聞いています。保険適用内でできる審美はありますか?

顎関節症や歯ぎしり防止の目的で、保険適用内で上下のマウスピースをつくることができます。歯列矯正目的でなくても、マウスピースを使用することで、歯の摩擦を軽減し、歯や歯茎を守ることができます。

また、昭和終わりころまで、虫歯の治療には「水銀」が使われていました。アマルガムという水銀は有毒で、万が一その水銀が欠けて体内に入った場合、脂肪に蓄積し、脳へ行ってしまいます。その結果、痴呆症やパーキンソン病などの、神経系の病気のリスクが高まることがあります。若いころの虫歯治療で水銀が歯に入っている方は、保険治療でプラスチックに変えてもらえるので、歯科医へ行くようにしてみてください。見た目もきれいになります。

TV出演した際の小林さん
「名医のTHE太鼓判」に出演した際の小林さん(右側手前から2人目)

歯科医としてのモットーと今後、目指すこと

――歯科医としてのモットーはなんですか?

「クリニックに来てくださった患者さんが、うちに来てくれたことをきっかけに健康を保ち、その患者さんの人生がより良いものになってくれること」です。

クリニックを開業した時に「女性のきれいと元気を応援する!」ということをコンセプトにしました。当院にきてくれたことをきっかけに、歯だけではなく、全身が元気になって笑顔になってくれたらいいな、と思っています。

例えば、唾液を取るだけで癌がわかったり、歯周病を直すことで血糖値をコントロールすることができたり、口内の粘膜を診ることで、胃や肺の異常を見つけられたりします。虫歯菌が脳出血を引き起こしたり、歯周病菌が心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなることも、わかってきています。

歯と全身の関わりがとても重要であるという認識が広がりつつありますね。

私のクリニックでは、分野ごとに提携しているそれぞれの専門医師とコンタクトをとり、患者さんにそのネットワークを提供しています。口臭を治したくて来てくださった患者さんが、実は内科へ行ってもらったところ、内臓疾患が見つかった、などの実例もあります。患者さんの歯だけではなく、すべての健康づくりのきっかけになる場所でありたい、そういう歯科医でありたいです。

――今後、やっていきたいことはなんでしょう?

近頃は子育てが落ち着いてきたので、都内だけでなく、地方や海外のインプラント学会などにもっと参加し、さらなる歯学の勉強をしたいと考えています。

白衣姿とは違い、母としての素敵な笑顔を見せる小林さん
二人のお子さんの子育てをしながら開業医とし活躍中の小林さん

以上、歯科医・小林瑠美さんに、大人の女性が健康な歯を維持するために心得ておくべきことを伺いしました。

更年期に負けずに健康な歯を維持するためには、定期的なクリーニングと歯周病対策が必須です。40代、50代の女性が健康に美しく生きていくために、まず歯科クリニックへ行き現状を把握する、そして治療を行うことが大切だということがわかりました。80歳で20本、自分の歯を維持していきたいですね。

小林瑠美さん、この度は非常に有益なお話を聞かせていただきまして、本当にありがとうございました。

ルカデンタルクリニック
 
外苑前、青山一丁目の歯医者・歯科。女性ドクターならではの目線で、きめ細やかなカウンセリングと歯科医療を提供。インプラント、ホワイトニング、矯正治療、審美歯科など。託児サービスもあり。
〒107-0062 東京都港区南青山2丁目22-4 秀和南青山レジデンス1F TEL:03-6804-1293
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この記事の執筆者
新卒で外資系エアラインに入社、CAとして約10年間乗務。メルボルン、香港、N.Yなどで海外生活を送り、帰国後に某雑誌編集部で編集者として勤務。2016年からフリーのエディター兼ライターとして活動を始め、現在は、新聞、雑誌で執筆。Precious.jpでは、主にインタビュー記事を担当。
公式サイト:OKAYAMAYUKIKO.COM
EDIT&WRITING :
岡山由紀子