第二次産業革命において内燃機関が生まれ自動車産業は発展してきたが、最初に実用的な自動車をつくったドイツでは公道走行の許可がなかなか下りず、産業としての展開は早くはなかった。むしろ、むかしナポレオンによって道路は整備されていたし自由な気風のフランスが1913年までは自動車生産数が世界で一番多く、そして最初に公道を使ってレースを開催している。

揺るぐことが無いイギリス車の魅力

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そういった状況の中でイギリスはクルマづくりに明らかに出遅れた。しかし、その分、冷静にクルマづくりを学びとっている。ドイツの高い技術性、イタリアの流麗なデザイン性、フランスのオリジナリティある実用性などを踏まえていったことにイギリスの物づくりの精神的背景がある。イギリスは知性あるクルマをつくり上げていった。イギリス車のほとんどはフォルムに整合性があり、高性能を追い求めることより実用域での快適さに主眼を置いていた。そしてイギリスの物づくりにおいて特筆すべきは「ブランドの継続性」である。それが連綿と続けられていったとき「伝統」という言葉で表現する。

彼らはブランドのポジションを越えてイメージと価値を変えるような物づくりはしていない。それは頑と言ってしまいたいほどだ。

高級乗用車はロールスロイスであり、性能の高い高級車はベントレーであって、最高のスポーツカーはアストンマーティンであり、ロールスロイス所有の方の奥方の日常の足は『バンデンプラプリンセス』と相場が決まっていた。だから、ロールスロイスが小型車をつくるという発想は全くなかった。そういった「ブランドの継続性」がMGやMINIにいたるまで徹底していた。

それは、単なるカタチとしての継続性を言っているのではない。

たとえばロールスロイスからジャガーにいたるまでの高級車の常用範囲のスピード、すなわち150㎞/hくらいまでは最高に気持ちのよいエンジン・レスポンスと静粛性をもつ。決して雑に開閉する気になれないドアの閉まり具合とカシャッという音。皺がよればよるほど気持ちがよいコノリーレザーのシートの座り心地。アストンマーティンのフェラーリとは違う回転馬力に頼らない厚みあるパワー感。

MINIの狭い車内の何とも言えない空間が生み出す親近感は、だれと同席しても仲良くなれる不思議な居心地だ。こんな印象を、私たちがイギリス車を思い浮かべるとき「ブランドの継続性」として体感している。こういった、数値では表せないことの積み重ねがイギリス車の、他にはない魅力であった。これらのブランドがイギリスを去るまで…守られてきた。

今、ブランドとしてのイギリス車のほとんどがイギリスに存在していない。ベントレーは「VW」、ロールスロイスは「BMW」に、ジャガーはインドの「タタ・モータース」に、アストン・マーティンはクエートの企業の下に、ロータスはマレーシアの企業の所有等々、知れば知るほど、各メーカーの私たちの今まで持ってきた英国車のイメージは薄れかかってくる。イギリスに現存する自動車メーカーを探すとしたら、モーガンをはじめとする少数の小ブランドだけだろう。

イギリスの自動車メーカーがこれほど全世界に分散されていながら存在しているのは驚嘆に値する。イギリス車が世界に分散しても存在できる根拠は、やはり明確にブランドを保持し続けてきたことであり、今後どこにあっても、確認できる「ブランドの継続性」をコンセプトにする限り、イギリス車の魅力は失せることはない。また、「ブランドの継続性」とはオリジナリティを持ち続ける意思である。

スペインの哲学者、オルテガの大衆に対する考え方「大衆は常に欲求を持ち、権利を主張し、義務を持とうとしない」の大衆をビジネスに置き換え、これらの企業が十分に認識していかなければ、英国が培ってきた「この意思」はすぐに色あせていくことは間違いなく、発展はない。

今後ともエンブレムを見ることなしにその車のメーカー名がわかるようでなければ極東のどこかのメーカーと同じになってしまう。

そのブランド特有のシンボリックなディティール、どこかの部分に必ず出てくるライン、そのブランド特有のイメージカラーが必ず選べるカラーバリエーション、ダッシュボード・レイアウトの時間を超えた同一性などなど。

イギリス以外の国でこれら「ブランドの継続性」をどこまで確保できるかであって、エンブレムを探さなければどのメーカーのものかわからない、となってはならない。「ブランドの継続性」を感じさせない、理解できない理由付け等によって、イギリス車の魅力を変えてはならない。

この記事の執筆者
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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