便秘は、女性のほうが多いとはいえ、男性でも60代以降になると症状を訴える人が急増しているという、今や日本人の国民病とも言われています。寿命を縮めてしまう可能性もあるというので、慢性化している人は特に改善したい症状。

そこで、4万人の大腸内視検査を診たという専門医の松生恒夫先生に、現代の便秘事情と、便秘を予防し快腸へ導く効果的な食物繊維の摂取について伺いました。

便秘は「大腸の病変」の第一歩!

便秘症状のある人は大腸の病変をはじめ、様々な大病にもかかりやすいリスクが。
便秘症状のある人は大腸の病変をはじめ、様々な大病にもかかりやすいリスクが。

2017年に初めて『慢性便秘症診療ガイドライン』が発表されるほど、現代病とも言える便秘。多くの人が悩む便秘症は、特に女性に多いと言われる「不眠」よりも多く、「むくみ」と同程度の有訴者がいると言われています(厚生労働省「平成28年度国民生活基礎調査」より)。

「年齢が上がるごとに、便秘症に悩む人が増えており、女性の20〜50代は男性に比べ3.6倍が便秘を訴えています。男性は60代以降、女性は70代以降で急激に増加。

近年では、便秘が長寿にも関係しているという研究結果があります。慢性便秘症がある人とない人での生存率を、15年にわたって追跡したところ、便秘症でないほうが長生きであるという結果が出ました。

大腸は、細菌による食物繊維の発酵・分解をすることと、水分と一部の栄養素吸収といった働きをする部位。腸内のS状結腸と呼ばれる場所は、ガンができる部分でもあり、便秘の人はここが詰まりやすいとされています。

つまり、便秘症状のある人は大腸の病変をはじめ、様々な大病にもかかりやすいリスクがあるともいえます。慢性的な便秘の方は大腸の働きを改善し、便秘予防に努めることが大切です」(松生先生)

 
 
松生 恒夫先生
松生クリニック院長、医学博士
(まついけ つねお)東京慈恵医科大学卒業、同大学第三病院内科助手、松島病院大腸肛門病センター診療部長を経て、2004年現職。日本内科学会認定医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化器病学会認定専門医 『寿命の9割は腸で決まる』『日本一の長寿県と世界一長寿村に学ぶ腸にいい食事』他、著書多数

「水溶性」「不溶性」ふたつの食物繊維のベストバランスを知ろう!

2種の食物繊維のベストバランスは『不溶性2:水溶性1』。
2種の食物繊維のベストバランスは『不溶性2:水溶性1』。

QOL(生活の質)の低下や、寿命短縮の可能性のある便秘が、増加している理由のひとつには、食物繊維不足が深刻というのがあるようです。

「便秘予防に勧められる栄養素のひとつとして知られる食物繊維の摂取量は、年々減少しています。摂取目標量は、18〜20gとされていますが、2010年以降は14g前後で推移しており、摂取目標を大きく下回ってしまっています。

食物繊維には、水溶性と不溶性のふたつに分けられます。不溶性食物繊維は、穀類、野菜、豆類、キノコ類、果物などに含まれ、胃や腸で水分を吸収して大きく膨らみ、腸を刺激し、ぜん動運動を活発にすることで便通を促進します。

一方、水溶性食物繊維は昆布、ワカメ、こんにゃく、里芋などに含まれ、大腸内で分解されるとビフィズス菌などの善玉菌が増え、整腸効果をもたらします。

1日に必要とされる水溶性食物繊維はおよそ5g。これら2種の食物繊維のベストバランスは『不溶性2:水溶性1』ですので、意識的に摂ることでお腹の調子を整えていくと良いですね」(松生先生)

水溶性食物繊維のパワーがすごい!

「近年わかってきたことに、食物繊維の中でも水溶性食物繊維の摂取後、便秘薬としてよく使われる低刺激性便秘薬(酸化マグネシウム)の服用量が減少したという研究結果があります。

水溶性食物繊維は、腸内細菌のエサとなり『短鎖脂肪酸』の産生(腸内菌が食物繊維やオリゴ糖を分解して短鎖脂肪酸が作られます)につながります。この短鎖脂肪酸には、腸内環境を改善してくれる働きがあります。腸内粘液の分泌促進をする働きがあるため、不足すると大腸のバリア機能が低下してしまうなどのリスクが。全身の健康維持に寄与するものだということが、近年の研究結果で明らかになりました。

短鎖脂肪酸には【酪酸(らくさん)】、【プロピオン酸】、【酢酸】の3種類あります。

中でも【酪酸】は、過度な免疫の活動を抑えてアレルギー症状を緩和すること、腸内の炎症を抑えるなどの働きがあることもわかっています」(松生先生)

整腸の新常識!「酪酸」に注目

「酪酸」の整腸作用とは?

酪酸は、便通を改善し、腸内フローラをよくするといった整腸作用があることが認められています。
酪酸は、便通を改善し、腸内フローラをよくするといった整腸作用があることが認められています。

「酸が増えたほうが善玉菌は増えるのですが、なかでも酪酸は、腸が元気に活動するのに欠かせない物質のひとつです。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維のバランスがとれた食事を摂ると、増加されます。

酪酸は、大腸上皮細胞のエネルギー源となり、腸管活動を活発に。そして、便通を改善し、腸内フローラをよくするといった整腸作用があることが認められています。

短鎖脂肪酸の中でも、腸管上皮の増殖作用が最も強く、結腸の粘膜細胞が最も利用しやすいと考えられています。そういったことから今、酪酸への関心が高まり、注目されています」(松生先生)

「酪酸」が全身の健康維持のカギに!

前述で、水溶性食物繊維の中でも酪酸の役割が素晴らしいことがわかりましたが、どうやらそのすごさは腸内だけにとどまらないようです。

「さらに言うと、酪酸は整腸効果に加えて、全身の健康維持にも深く関係しています」(松生先生)

まさに救世主!スーパーヒーロー「酪酸」が整腸以外に全身にもたらす効果は、下記の通り、こんなにも様々な働きが。

■潰瘍性大腸炎などの腸の病気の改善効果
■アレルギー性疾患や自己免疫疾患を抑制する作用
■肥満細胞の増加を抑制し、肥満を防ぐ効果
■血糖値をコントロールする作用

特に、潰瘍性大腸炎は、現在24万人以上と近年増加傾向にあると言われるので、気をつけたい疾病のひとつです。

効果的な「酪酸」の摂取法とは?

大腸で最も使われるエネルギー源で酵素を消費するとされる「酪酸」は、外から摂取するのはなかなか難しいと言われています。では、どうしたら摂取できるのでしょうか。

「酪酸は、口から摂取しても腸に届きません。腸内に届けるには、腸内で酪酸を作るしかありません。水溶性食物繊維が『酪酸産生菌』*に分解され、体内で酪酸が作られます。よって、腸の中で酪酸が作られやすい水溶性食物繊維の豊富な食べ物を積極的に摂取することが良いでしょう」(松生先生)

*酪酸を作る菌を総称して酪酸産生菌と呼びます

酪酸が増える!便秘解消の救世主「キウイ」で快腸生活

左/ゼスプリグリーン(グリーン種):食物繊維量3g/水溶性1:不溶性4、右/ゼスプリサンゴールド(ゴールド種):食物繊維量1.4g/水溶性1:不溶性2
左/ゼスプリグリーン(グリーン種):食物繊維量3g/水溶性1:不溶性4、右/ゼスプリサンゴールド(ゴールド種):食物繊維量1.4g/水溶性1:不溶性2

この時期、朝食メニューや夕食後のデザートなど食卓でキウイフルーツを楽しんでいる人に嬉しいニュースが。キウイこそ、便秘解消の救世主スーパーフルーツだったのです!

2016年に世界初のキウイフルーツの国際シンポジウム「キウイフルーツの栄養素及び健康効果に関する国際シンポジウム」が開催され、キウイフルーツの添加後に「酪酸」濃度が増加したという研究結果が発表されるなど、注目が集まっています。

そして、他の果物と比べても、食物繊維量が豊富と言われています。例えば、バナナ1.1g、りんご1.4gに対しグリーンキウイは、食物繊維量が3.0gと倍以上。

また、キウイフルーツは、便の膨張と保水力をアップさせる食物繊維の効果が、他の繊維に比べて高いこともわかっています。

「キウイフルーツは、水溶性食物繊維含有量が多いので、意識的に摂ることで健康増進にもつながります。また、豊富に含まれるのは食物繊維だけでなく、主要な17種の栄養素がどれだけ含まれているかを比較した栄養素充足率スコアでも、キウイはトップクラスです。ビタミンはもちろん、カリウムやアクチニジンなども含む高栄養素でバランスのいいフルーツなのです」(松生先生)

キウイは、手のひらで包むように優しく持ち、弾力を感じるくらいが食べごろ。固いときは、バナナやリンゴなどの「エチレン」を発生する果物と一緒にビニール袋に入れ、室温で2~3日ほど置くと良いそうです(熟してきたら冷蔵庫保管です!)。

下処理の手間がかからず、皮のギリギリまですくって無駄なく食べられるハーフカットは栄養摂取面からもオススメです!

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美味しくキウイを食べているだけで、食物繊維豊富で便秘も解消、ビタミン類で肌も快調とは女性に嬉しいことばかり。最近では、一年を通して比較的入手できることもありますが、まさに今キウイの最盛シーズン!そんなキウイフルーツで、夏の腸活をしてみてはいかがでしょうか。

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EDIT&WRITING :
Sachi Tamura