ヴィンテージという言葉は、男たちをニンマリさせてくれる魔法の言葉である。ヴィンテージのクルマ、ヴィンテージのワイン、ヴィンテージの本、そしてヴィンテージの服、どれも素敵だ。敷衍(ふえん)すれば、ヴィンテージな身のこなしや、クサイセリフの言い回しにも同じことがいえる。

銀幕スターが与える男の生き様!

往年の名優が身につけた名品の数々は、男たちの永遠の憧れだ!

トレンチコート=ハンフリー・ボガートのイメージを強烈に印象づけた名画『カサブランカ』写真:AP/アフロ
「カサブランカ」(1942)トレンチコート=ハンフリー・ボガートのイメージを強烈に印象づけた名画『カサブランカ』写真:AP/アフロ

ヴィンテージには、「時の試練を経て生き残った本物」という含意があり、モノではない生身の人間ではあるが、本物でありたいと願っているからなのだと思う。そんなヴィンテージアイテムの宝庫が映画の世界に存在している。

若き日のマーロン・ブランドが『乱暴者』で演じた粗暴な少年の不良スタイル。写真:Mondadori/アフロ
「乱暴者」(1953)若き日のマーロン・ブランドが『乱暴者』で演じた粗暴な少年の不良スタイル。写真:Mondadori/アフロ

たとえば21世紀、地球上で最も愛されているコートのトレンチコートである。バーバリーとアクアスキュータムは映画の影響を最も多く受けたアイテムといえる。そのトレンチを世に知らしめたのが『カサブランカ』のハンフリー・ボガート、通称ボギーだ。映画史上最強のヴィンテージアイテムはこれである。ボギーといえばひとはトレンチを想像するし、トレンチという単語を耳にすれば『カサブランカ』を見ていないひとですらボギーの耐え忍んでいるような表情を思い浮かべるだろう。

人は機能やデザインだけで服やモノを選ぶわけではない。現実の世界ではヒーローになれなくても、憧れのヒーローと同じ服やモノを共有することで一瞬の昂揚感(こうようかん)を得られるのなら、それだって立派な動機だ。映画におけるヴィンテージアイテムは、役柄や俳優のイメージと常重なりあうから印象深く記憶に残っている。

シルクガウンのごとくなめらかなコートやジャケットに包み込まれるイタリアンモードは、私たちが影響を受けた英国やアメリカのファッションとはひと味違う、しなやかさと華やかさを放っていた。写真:Photofest/アフロ
「アメリカン・ジゴロ」(1980)シルクガウンのごとくなめらかなコートやジャケットに包み込まれるイタリアンモードは、私たちが影響を受けた英国やアメリカのファッションとはひと味違う、しなやかさと華やかさを放っていた。写真:Photofest/アフロ

渋い作品を残しているウディ・アレンもまた同じである。彼の掛けていた眼鏡は、1970年代に青春を過ごした男たちにとってはヴィンテージアイテムの典型である。男らしさコンプレックスと格闘するアレン本人を戯画化した『ボギー!俺も男だ』(1972年)。ボギーのマスキュリンなトレンチと対極にある知性派アレンのウエリントン型の眼鏡は印象に残っているだろう。その当時の日本では、その型は時代遅れのモデルであったが、上野御徒町の「白山眼鏡店」が取り扱うようになり、ミーハーな男たちがこぞって手にしていた。

眼鏡といえばジャック・ニコルソンのサングラス姿も衝撃だった。1976年のアカデミー賞の授与式にニコルソンはレイバンの『ウェイファーラー』とおぼしき黒ぶちをかけて登場する。夜の席にサングラスとはなんと非常識な!と思うが、それがまた格好良い。

「大脱走」(1963)トライアンフ『TR6C』モデルは、レース界を牽引していたオフロードバイクの最高峰であり、レース好きの彼の愛車でもあったことは有名だ。写真:Album/アフロ

アレンやニコルソンに象徴されるように、1970年代のアメリカ映画は、それ以前の強く正しく女性にもてるというヒーロー像とは、ひと味もふた味も違う、変格派のヒーローが体制の壁に挑むというような筋立てが多かった。そのきわめつきのような作品が、ロバート・レッドフォード主演の『コンドル』(1975年)だ。

CIAの職員でありながら、その仕事は推理小説のプロットの分析。ヘリンボーンツイードのジャケットに、ネイビーイッシューのダンガリーシャツ、ジーンズ姿のレッドフォードは、フランス、ソレックス社製の原付モペッドで、東77番街のCIAの支局に通勤している。サングラスはレイバンの『アヴィエイター』と抜け目ない。

仕事やライフスタイルに影響を与える映画の世界。今後の人生に大きな影響を与えるかもしれない名作を探してみるのも観る楽しみのひとつだ。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2011年夏号より
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