「BCBGの魅力が再び花開く! 青春時代のニュートラが、絶妙なバランス感でカムバック」

紺のブレザーに白いシャツ、首元にはロゴスカーフを巻いて、ボトムは典型的な英国調ガンクラブチェックのキュロットスカート。

これ以上の定番はないと思われるほど、フレンチブルジョアシックの数々が登場した、セリーヌの19/20年秋冬コレクション。

それらは BCBG(ボンシックボンジャンルの略。フランス上流階級のシックで趣味のよいライフスタイル)という言葉が流行した、’80年代前後を彷彿させるスタイリングで、見ているだけで感涙にむせぶほど、懐かしく青春時代のニュートラを思い出させるものであった。

セリーヌの2019秋冬コレクションより。courtesy of CELINE

’70〜’80年代のトップモードの再現

ヘリンボーンやグレンチェックなどの、本格的なトラッドツイードは、ブレザーやひだ使いが巧みなスカートやキュロットに仕立てられ、「トリオンフ」(凱旋門を取り囲むチェーンからインスパイアされたもの)と呼ばれるセリーヌの伝統モチーフを用いたプリントは、ドレスやスカーフに用いられ、足元にはジッパーなしの乗馬ブーツ。まさに70〜80年代のトップモードの再現だ。

「"コンパクト感"が絶妙なスタジャンのルックは、印象的。見慣れたアイテムが、こんなに新鮮に映るのかと感動しました」セリーヌの2019秋冬コレクションより。courtesy of CELINE

快い裏切りと驚きに満ちたデザイン

だが、既視感があるように思えるのになんだか違う。過去のアーカイブを彷彿させるスタイリングやデザインなのに、よく見ると何ひとつ同じものがないのだ。

これはひょっとして、あのときのあれだわ! と思う先から否定されていく、快い裏切りと驚きに満ちたデザインは、クラシックを尊重し伝統を重んじ、それをインスピレーションにしながらも、まったく異なる創造を“絶妙なサイズ感”で提案しているからこそ。

白い台襟のクレリックシャツには、小さなフリルがびっしりと波打ち、さりげないボリュームのボウブラウスは、清楚な水玉やホワイトで品のよい存在感を見せる。

そこにはおるネイビーのジャケットやキャメルのチェスターコート。なんという非の打ち所のない正統な着こなし!

だが、ありきたりの正統とノスタルジーを打破するように、テーラードジャケットやコートの肩はやや大きめだ。かといって大きさが品格を失うことはなく、かえってモダンさをまとう感じ。

セリーヌの2019秋冬コレクションより。courtesy of CELINE

スタンダードに加えたエディ・スリマンならではの"魔法のひとしずく"

実用的で親しみやすいクラシックにもかかわらず、ピカピカの新しさを漂わせる。

その秘密は、スタンダードに加えたエディ・スリマンならではの"魔法のひとしずく"だ。キャメルにデニム、ストライプシャツは、ミニフリルやボウ結びで甘さをプラス。

ガンクラブのスカートには、ゴールドのカーディガン、黒、グレー、ブラウンという永遠のトラッドカラーやクルーネックセーターが、白のシャツと合わせてこんなにも魅力的だったのか!


普通の顔をしながら大胆。着やすいのに、新しい。スタンダードを改めて、2019年仕様に変化させたセリーヌのフレンチブルジョアシックは、ほかのトレンドを一蹴するほどのパワートレンドではないだろうか。

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この記事の執筆者
TEXT :
藤岡篤子さん ファッションジャーナリスト
BY :
『Precious9月号』小学館、2019年
1987年、ザ・ウールマーク・カンパニー婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
EDIT :
田中美保、古里典子・濱谷梢子(Precious)