シトロエンが日本のマーケットで販売を開始したのが1922年というから、すでに100年近い歴史を重ねてきたブランド。その特徴として、“デザインでも技術でも革新的”といった答えをよく耳にする。だが一方で、一般の人にとってみるとドイツ車やイギリス車を始めとした他の欧州ブランド、いやプジョーやルノーといった同じフランス車の中にあっても、認知度に差がある。

2018年度の販売台数から見てもシトロエンは3,655台で、輸入車ランにキングでは18位。プジョーの9,986台(11位)、ルノーの7,371台(12位)と大きく水をあけられている状況だ。ただし販売台数はここ数年、微増ではあるが日本でも伸びてきている。シトロエン本来の魅力、とくにデザインが認められてきたことと、インポーターの販売強化策が功を奏しているのだろう。

最大の個性、デザインに磨きがかかる

シトロエンらしい個性が感じられるスタイリング。
シトロエンらしい個性が感じられるスタイリング。
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その中心にあるのが、C3。2016年のパリモーターショーで、シトロエンが「セグメントの殻を破る」との意気込みで発表した意欲作だ。翌17年夏にC3は日本に上陸を果たし、シトロエンのマーケットを支えてきたのだが、そのC3をベースに一回り大きくして、一目でSUVと分かるボディで登場したのが、C3エアクロスSUVだ。

シトロエンが所属するPSAグループで開発されたプラットフォームをベースに、ひと目でシトロエンだと分かる、ユニークで印象的なデザインのボディのコンパクトSUV。だが、このクラスにはデザイン的にもパフォーマンス的にも強力な個性を持つクルマがひしめいている。ここでシトロエンの押しとなるポイントは、やはりデザイン、次に走りの味わいということになる。

フロントデザインを見てみると独特の力強さはあるが、ワイルドで押し出し感の強いタイプではないし、どちらかと言えばC3を始めとした最新のシトロエンのラインアップと共通の顔が採用されているため、見慣れた感じだ。ただそれでもフロント下部には少しばかり大げさなプロテクターがあったり、車高が高くなっていて、SUVとしての佇まいとしては成立している。

そして目を引くヘッドライト周りやドアミラー、ルーフレールやCピラーに施されたアクセントカラーによって、どろんこで汚すのが少々はばかられるような都会的な佇まい。ちなみにアクセントカラーがストライプ状に入っているCピラー部分だが、ポリカーボネート製のリアクオーターウィンドウとなっていて、しっかりと視認性の向上に寄与している。

少しばかりツッコミを入れるなら、視界確保が目的なのにストライプは邪魔だろう、という気が…。でも、それを敢えて入れるあたりが、いかにもシトロエン的ともいえるのだ。導入にあたって、メディア向けに河口湖周辺の自然に囲まれたリゾートポイントを中心に試乗が行われたのだが、どちらかというと南青山辺りに佇んでいるほうが似合いそうな雰囲気である。

70年代っぽいデザインのアクセントストライプ。視界も大事だが、デザインはもっと大事という作り手の気概が伝わってくる。
70年代っぽいデザインのアクセントストライプ。視界も大事だが、デザインはもっと大事という作り手の気概が伝わってくる。

ゆるふわな気持ちよさ

シンプルでセンスの良さが感じられる、フランスらしいデザインのシート。生地の肌触りも気持ちいい。
シンプルでセンスの良さが感じられる、フランスらしいデザインのシート。生地の肌触りも気持ちいい。

さっそく乗り出してみる。日本仕様のエンジンは1.2リッター直列3気筒ターボのみ。「ピュアテック」と呼ばれ、最高出力81kW(110馬力)、最大トルク205N・mというスペックだ。これにアイシン・エィ・ダブリュ製の電子制御6速ATが組み合わされるが、問題は駆動方式だ。SUVではあるがFF(前輪駆動)であり、4WDの設定はなし。

その代わり、最上級のシャインには「シャインパッケージ」というパッケージオプション(23万円)が用意されている。これには路面状況に応じて、ダイヤル操作で最適な駆動力に制御し、走破性を高めるというシステム。急斜面の下り坂で車体を安定させるヒルディセントコントロールも搭載されているから、ハードな場面でもちゃんと対応できる。これはシトロエンのSUVに対する考え方の一つを示していると言える。

つまりシトロエンの考え方は、4WDにすると重さや抵抗が増加し、そのぶん燃費が悪くなることを避け、環境性能を向上させた上で悪路走破性も確保するという作戦である。当然のように4WDより走破性は落ちるし、雪道などでの安定性では適わないかもしれない。

それでも都市部での普段使いが中心で、それほど雪道などを走らない人たちにとっては、十分な性能を発揮してくれるだろう。

その軽量なSUVは、小気味よく回るエンジンのおかげでキビキビとした印象。3気筒とは思えないほどスムーズだ。スペック面ではもの足りなく思うかもしれないが、車重1,300kg前後のボディの重さを感じることはなかった。

そしてなによりも感心するのが、ソフトな足まわりによる、独特の緩さ。最近は日本車も含め、きっちりと締め上がられた足回りが実に多いのだが、このC3エアクロスSUVはボディの揺れが大きい。

ソフトな足を持つ故のことだが、ストロークがたっぷりとした、許容量の高い足回りはむしろ新鮮にすら感じる。もちろんコーナーではじっくりと粘り、起伏のある路面では衝撃を丁寧にいなしながら、スーッといった感じで走り抜ける。しっかりとした骨格とソフトな足による乗り心地は、C3エアクロスSUVの大きなセールスポイントだ。

SUVといっておきながら、主な生息地は都会、たまに郊外、なんて使い方が似合う走りのパフォーマンス。なにより街角に佇む姿の方がしっくりくる独特のデザインは、毎日使うことが楽しくなるような仕上がりだと思う。これから街ですれ違うことが多くなりそうな1台だ。

ハンドルの形や各部のアクセントカラーがポップな雰囲気。
ハンドルの形や各部のアクセントカラーがポップな雰囲気。
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<シトロエン・C3エアクロスSUV SHINE>
全長×全幅×全高:4,160×1,765×1,630㎜
車重:1,290kg
駆動方式:FF
トランスミッション:6速AT
エンジン:直列3気筒DOHCターボ 1,199cc
最高出力:81kw(110PS)/5,500rpm
最大トルク:205Nm/1,750rpm
価格:¥2,537,273(税抜)

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