我々が腰を落ち着けて飲んでいると、3人組が入店してきた。彼らに理香子ママはこう言った。

「久しぶり。5年ぶりくらいじゃない?」

5年前に1度来たっきりの客の顔もしっかりと覚え、前回訪れた時の思い出を話している。接客業の鑑だ。

若い男にはもっと強くなってほしい

若い時期にちょうどバブル期を迎えた理香子ママ。イケイケな感じはあの時代に青春を送ったからかもしれない
若い時期にちょうどバブル期を迎えた理香子ママ。イケイケな感じはあの時代に青春を送ったからかもしれない

最近は若い客が増えているのでしょう、と水を向けるとこう答えた。

「30代の男女が増えてきたと思います。でも今は男よりも女の方がお酒は強いね。正直、最近の若い人は自信がないからか、誰にでもやさしい。でもそのやさしさって、女からしたらいらないものだったり……」

なかなか痛烈な意見だが、毎夜様々な客を見てきたからこその言葉だろう。

話が盛り上がっていると、みどり大ママが手作りの塩辛を提供してくれた
話が盛り上がっていると、みどり大ママが手作りの塩辛を提供してくれた

「良い男と一緒にいると、女も自然と良い女になるから、もっと自分に自信を持ってほしいね」
こうして発破をかけるのも若い人にがんばってほしい、理香子ママの思いやりの深さかもしれない。

ママとの会話を通じて人生経験値が増える店

みどり大ママと理香子ママからの人生訓を聞いたら、最後にカラオケだ。

デンモクを操作して、目当ての曲を探す
デンモクを操作して、目当ての曲を探す

実は山中さん、漫画やアニメが大好き。エントリーした曲は初音ミクの『千本桜』だ。

昭和歌謡が似合うスナックに電子音が鳴り響く。ミスマッチにも思えるが、それも受け止める度量の広さがスナックの魅力でもある。

最初はどこか緊張した面持ちだった山中さんも、好きな曲を歌う頃にはリラックス
最初はどこか緊張した面持ちだった山中さんも、好きな曲を歌う頃にはリラックス

歌い終わって山中さんが

「歌が下手、と言われて学生時代は合唱部にいたんです」

とポツリと漏らすと

「あぁ、わかる。正統派の歌い方だもん。でも全然下手じゃないよ」

さりげなくフォローする理香子ママ。こういうさりげなさがベタベタした付き合いを嫌う若い客を引き寄せているのかもしれない。

いつも笑顔を絶やさない理香子ママと乾杯!
いつも笑顔を絶やさない理香子ママと乾杯!

最後に山中さんがこんなことを言った。

「『バッカス』にいると、人生経験値が増えるような気がします。落ち込んだ時に話を聞いてもらいたい。そんなお店ですね」

50年以上も愛され続ける店が持つ実力は伊達ではない。みどり大ママと理香子ママとの話に花を咲かせに行ってはどうだろうか。

【バッカス】

バッカス

問い合わせ先

  • バッカス TEL:03-3735-4060
    住所/東京都大田区西蒲田7-70-1
    営業時間/19:00〜25:00
    定休日/日曜
    メニュー/お通し¥2,000、セット料金¥2,000、アルコールグラス各種¥800、ウイスキーボトル¥6,000、焼酎ボトル¥5,000、氷・炭酸セット¥1,000(おかわり自由)、カラオケ1曲¥200
この記事の執筆者
フリーランスのライター・エディターとして10年以上に渡って女性誌を中心に活躍。MEN'S Preciousでは女性ならではの視点で現代紳士に必要なライフスタイルや、アイテムを提案する。
PHOTO :
小倉雄一郎