1980年代後半から90年代、ユナイテッドアローズを開始して、ピッティ・ウォモに行き出した頃からブラウンスーツを着るようになりました。さらに過去に遡ると、ネイティブアメリカンのブラウニーな世界や、バティック織りに表現されたエスニックなブラウン、スコティッシュツイードのブラウンの色調が、もともと大好きだったため、ブラウンスーツを着ることに繫がったとも言えますね。

時代を感じて着こなす表現豊かなブラウンスーツ

イタリアのクラシックで目覚め、自分のスタイルに定着したスーツ!

鴨志田さんが着用するブラウンスーツ。ダークブラウンからソラーロのライトブラウンまで、気分とコーディネートでその日の一着を選ぶ。右から、サルトリオ、カモシタ ユナイテッドアローズ、サルトリア イプシロン、リヴェラーノ&リヴェラーノ。オーダーメイドも既製のスーツも幅広く愛用している。

若い頃に見ていた『エスクァイア』は、かなりファッションのヒントにもなり、随分影響されました。後に、パリの古本屋で買いあさったファッション誌の『アダム』には、すごくお洒落なブラウン系のスーツの着こなしがイラストで描かれていて、衝撃を受けました。’50年代頃の『アダム』を繰っていくと、ジャケットも含めてブラウンスーツの着こなしが、たくさん掲載されていました。ブラウンのコートを合わせた素敵なイラストなども見ているうちに、いつの間にかブラウンスーツの洒落た世界が自分の感覚やスタイルに刷り込まれていったのでしょう。『エスクァイア』から出版された、ファッションに関する分厚いエンサイクロペディアには、さらに洒落たブラウンスーツのイラストがあって、心酔しました。『エスクァイア』からアメリカ的なブラウンの色使いを吸収し、『アダム』からは、フレンチトラッドで表現するブラウンの色をベースにした、〝格好いいパリジャンの色合わせにかなり刺激されました。たとえば、ブラウンのスーツに、ラベンダーの組み合わせは、アメリカのスタイルでは、まずありえないですね。

ブラウンスーツの着こなしのアイディアが詰まった雑誌と本

1957年の『アダム』は、ブラウンスーツにライラック色のシャツとソックスを合わせた洒落たイラストを掲載。『BATIK PATTERNS』は、表紙からブラウンの着こなしに参考になるカラーパターンをデザインする。鴨志田さんは、おりに触れてページを繰る。
1957年の『アダム』は、ブラウンスーツにライラック色のシャツとソックスを合わせた洒落たイラストを掲載。『BATIK PATTERNS』は、表紙からブラウンの着こなしに参考になるカラーパターンをデザインする。鴨志田さんは、おりに触れてページを繰る。

ブラウンスーツは、ネイビーやグレーの、ビジネスでエグゼクティブな雰囲気を演出するスーツとは違う、ノンシャランなところがあります。ブラウンだからこそ表現できる、余裕や遊びを秘めていることで、より魅力的なアイテムです。

ピッティ・ウォモを通して、最も印象深い記憶は、今は亡きセルジオ・ロロピアーナさんと会ったことです。ベージュに近いブラウンでしたが、ブラウンのソラーロのスーツに白いシャツ、そしてネイビーのタイを締めていました。今でこそ、マローネ・エ・アズーロといわれる、ブラウンとネイビーの組み合わせは、あたりまえのように定着していますが、当時見たときは、本当に格好よく素敵でした。まさにミスター・イタリアを代表するエレガントで知的なスタイルです。

イタリアのクラシックで目覚めたブラウンスーツは自分のスタイルにもなじみ、私もどんどん仕立てるようになりました。

ブラウンスーツのコーディネートは、色遊びが多彩に楽しめます。シャツはどんな色でも似合うと言っても過言ではありません。デザインもドレスシャツに限らず、ポロシャツでもTシャツでも相性がいい。その自由度の広さが、ブラウンスーツの最大の魅力と言えるでしょう。ブラウンは、ネイビーのストイックな感じや高貴なたたずまいとは反する、斜に構えたインテリのような雰囲気があります。洒脱であり、ときおりアーティストのような風貌にも化けたりしますね。

自分にとってファッションのスタイルは、日頃から、すべてライフスタイルを表現するものだと考えています。あえて格好よく言えば、自分の生き方を表現できるのが、ブラウンという色です。(談)

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PHOTO :
小池紀行・池田 敦(パイルドライバー)
WRITING :
矢部克已(UFFIZI MEDIA)