男たちは「道具」が好きだ。そして淑女も、道具っぽいスタイルに心を奪われる。その証拠に、メルセデス・ベンツGクラスやジープ・ラングラー、すでに生産を終えたランドローバー・ディフェンダーは女性にとても人気がある。もしかしたら、人は本能的に「道具」のデザインに説得力=信頼性や安心を感じとるのかもしれない。しかも、これら「世界三大・悩殺四駆」(勝手に命名)はこぞってモデルチェンジを敢行。残るディフェンダーも、ついに最新型へと生まれ変わった。その魅力をモータリングライターの金子浩久氏が解説する。

先行予約が瞬時に完売する人気ぶり

新型ディフェンダーの先行予約は2019年11月3日に開始。日本市場向けのローンチエディション(¥4,890,000〜・写真)が用意されたものの、わずか4日間で完売した。
新型ディフェンダーの先行予約は2019年11月3日に開始。日本市場向けのローンチエディション(¥4,890,000〜・写真)が用意されたものの、わずか4日間で完売した。

ランドローバー・ディフェンダーの新型が日本で披露された。

ランドローバーがスポンサーを務めているラグビー・ワールドカップ決勝戦で優勝カップを優勝した南アフリカチームに授けるためにグラウンドを走ったのだ。

そのディフェンダーと、9月のドイツ・フランクフルト自動車ショーで発表、展示されたクルマそのものが日本に持ち込まれた。

ラグビー・ワールドカップ終了後、2台は代官山蔦屋書店T-SITEに展示された。その一方で、輸入第一弾となる「ローンチエディション」の予約を開始したところ、限定150台を4日間で売り切ってしまった。新型ディフェンダーに寄せる期待の大きさを物語っている。

実際、代官山蔦屋書店T-SITEに展示された2台のディフェンダーのかたわらでしばらく観察していると、人だかりが絶えなかった。初代ディフェンダーを知っているようなベテランから、運転免許証を取得したばかりのような若者までが熱心に新型ディフェンダーを眺めている。

その人たちに話を聞いたわけではないけれども、多くの人々が新型ディフェンダーの前で足を止める理由は想像できた。

まず、今までのディフェンダーを知っている人たちには、ようやく登場した新型だということ。一方のディフェンダーを知らない人たちには、その独特の存在感とデザインが眼を惹いたことだろう。

スペアタイヤを外付けしているため、テールゲートは横開き。オフロード4WD好きにはたまらないスタイリングだ。
スペアタイヤを外付けしているため、テールゲートは横開き。オフロード4WD好きにはたまらないスタイリングだ。

21世紀的なスタイルを巧みにまとう

インテリアもモダンに。シフトレバーはダッシュボードに付く。
インテリアもモダンに。シフトレバーはダッシュボードに付く。

SUVの世界的流行は、乗用車っぽいSUVをたくさん造り出した。それは悪いことではないのだが、たとえ山奥深くや道なき道を往くことはなさそうだとしても、その可能性と能力は手にしていたい。雑貨やアクセサリーのようなSUVではなく、道具のようなSUVが欲しい。メルセデスのGクラスやスズキ・ジムニーが特別視される理由はそこにある。ディフェンダーもそう見られて来た。潜らないのにダイバーズウオッチが欲しくなる気持ちと一緒だ。

今までのディフェンダーは“道具そのもの”だった。軍隊や森林警備隊、農家、世界一周するような冒険家たちのためのクルマだ。雑貨やアクセサリーなどでは、過酷な任務は務まらない。

道具にマーケティングの入り込む余地はない。だから、モデルチェンジを受けることなく、1983年から改良が重ねられ続けて来た。

新型ディフェンダーは、意図的に先代ディフェンダーの造形的な特徴を現代流に踏襲している。20世紀に生まれたディフェンダーの21世紀的なスタイルを巧みにまとっている。

具体的には、アプローチアングルとディパーチャーアングルを確保するための短いフロントとリアのオーバーハング、“箱”のような直立フォルム、ルーフ後端の「アルパインライトウインド」、横開きのテールゲート、外付けのスペアタイヤなどだ。

30年以上も造り続けられ、世界中の人々に抱かれている共通イメージをセルフサンプリングしているようだ。

シートはグレインレザーのほか、ファブリックも選べる。
シートはグレインレザーのほか、ファブリックも選べる。

最新の技術でモノコック構造でも頑丈に

2019年11月18日から、先行予約モデルの第2弾「ディフェンダー・スタートアップ・エディション」が受注開始(2020年3月31日まで)。ショートボディの90とロングボディの110が選べ、台数制限はなし。¥4,912,000〜(税込)
2019年11月18日から、先行予約モデルの第2弾「ディフェンダー・スタートアップ・エディション」が受注開始(2020年3月31日まで)。ショートボディの90とロングボディの110が選べ、台数制限はなし。¥4,912,000〜(税込)

次にディフェンダーに興味と関心を持つ人々が気になるのは、造形の下のメカニズムだろう。先代は、あの時代のオフロード4輪駆動車(SUVなんて言葉はまだ無かった)のセオリー通りのラダーフレームを主構造としていた。そこにアルミニウム製ボディを架装している点が、ランドローバーの大きな特徴となっている。

それが、とうとう新型ディフェンダーで変わった。ラダーフレーム・プラス・アルミボディという構成の代わりに採用したのは、アルミニウムのモノコック構造だ。

かつては、ラダーフレーム・プラス・アルミボディ構造が最も堅牢で悪路走行に適していたが、技術の進化は確実で、モノコック構造でも頑丈なシャシー/ボディ構造とすることができた。

それも、ただ頑丈なだけでなく軽量化も同時に実現している点に同時代性が現れている。このボディは「D7x」アーキテクチャーと呼ばれ、ランドローバーは、「ランドローバー史上最も頑丈なボディ構造で、従来のラダーフレーム構造と比較して約3倍のねじり剛性を確保している」と評している。

また、すでにレンジローバーにPHEV(プラグインハイブリッド)モデルが追加されているように、ディフェンダーや今後のランドローバー各モデルでも電動化は推進されていく。D7xアーキテクチャーは、それにも対応する役割も担っている。

まったく新しいD7xアーキテクチャーを採用するにあたって、ランドローバーは新型ディフェンダーに過酷なテストを課した。50℃の灼熱の砂漠から、マイナス40℃の北極、標高1万フィートのロッキー山脈などで何百万キロに及ぶテストを行った。

まだ運転していないので断定できないが、ラダーフレーム・プラス・ボディ構造を止め、アルミモノコック構造を採用した新型ディフェンダーの悪路走破力と総合的な実力には大きく期待できそうだ。

ディフェンダーにはルーフテントが似合う! 冒険を愛する男に、これほど魅力的なニューモデルはない。
ディフェンダーにはルーフテントが似合う! 冒険を愛する男に、これほど魅力的なニューモデルはない。

<ランドローバー・ディフェンダー90 HSE>※スタートアップ・エディションではありません。
ボディサイズ:全長4,583×全幅2,105×全高1,974㎜(コイルサスペンション仕様)
駆動方式:パーマネント4WD
エンジン:1,997cc直列4気筒DOHC
最高出力:221kW(300PS)
最大トルク:400Nm
価格:近日発表

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この記事の執筆者
1961年東京生まれ。新車の試乗のみならず、一台のクルマに乗り続けることで得られる心の豊かさ、旅を共にすることの素晴らしさを情感溢れる文章で伝える。ファッションへの造詣も深い。主な著書に「ユーラシア横断1万5000km 練馬ナンバーで目指した西の果て」、「10年10万kmストーリー」などがある。
PHOTO :
小倉雄一郎
写真提供 :
JAGUAR LAND ROVER LIMITED