第一回「ブルガリ メチェナーテ」のテーマは「漆」。最優秀作品、優秀作品の3作品を発表

若者たちに芸術活動の機会を提供することにより、日本の伝統工芸の継承と現在アートとの融合・出会いを起こすことを目的としたプロジェクト「ブルガリ メチェナーテ」。

ブルガリと東京藝術大学が連携してスタートしたこの活動の、第1回の発表会が2019年12月2日(月)に行われ、最優秀作品と優秀作品が、その受賞者と共に発表されました。

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左より、ブルガリ ジャパン代表取締役社長 ウォルター・ボロニーノさん、漆芸家の室瀬和美さん、最優秀作品に選ばれた山口桂志郎さん、東京藝術大学美術学部長 日比野克彦さん

初開催となった今回のテーマは「漆」。日本の漆芸はその特性を活かした蒔絵を含め、いろいろな素材や道具、さまざまな技法があります。高度な技法が現代に伝えられていますが、多くの工程で継承が難しい局面を迎えています。

この漆芸を、東京藝術大学の学生や出身者が、みずみずしい創造力で、新たな息吹を感じるコンテンポラリー作品として表現しました。

日比野克彦さんら4名が優秀作品を選考

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優秀作品の選考は、東京藝術大学美術学部長 日比野克彦さん、同 美術学部副部長 藤原信幸さん、同 工芸科 漆芸(漆工)教授 小椋範彦さん、 ブルガリ ジャパン代表取締役社長 ウォルター・ボロニーノさんが担当。

70を超える応募から選出された11作品のうち、3作品が優秀作品に選ばれ、その制作者には奨学金が支給されます。また、優秀作品のうち最優秀作品には、副賞としてイタリア・ローマを訪れ、美と伝統を巡る「シークレット ブルガリ ツアー」がブルガリ ジャパンより贈られました。

伝統工芸に、新たな価値を生みだす3作品はこちら

■1:最優秀作品に選ばれた山口桂志郎さんの作品「focus」

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「focus」山口桂志郎 美術学部 彫刻家 大学院修了

作者の山口桂志郎さんは、次のようにコメントしています。

「今まで素材と向き合い、その性質を理解し誠実に、手を加える事を大事にしながら製作を続けてきました。そのなかで自分の表現以上に、素材同士が、また手を加える事で反応し、変容する場面があったように思えます。

今回使った素材、鬼胡桃の木、漆、それぞれの魅力を引き出すことができたと思います。それを評価していただけたこと、それ以上に私と素材の対話を深く理解していただけたことが、何よりの喜びです」

■2:優秀作品に選ばれた松崎森平さんの作品「側道」

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「側道」松崎森平 美術学部 工芸科 漆芸専攻 大学院修了

作者の松崎森平さんは、次のようにコメントしています。

「私は芸大で漆芸を学び、卒業後は多くの方が思い浮かべる、伝統工芸の世界で作品を発表してきました。そんな中、今回のブルガリ メチェナーテ X 東京藝術大学という機会では、これまで培ってきた漆の伝統技法を生かし、今までにない新しい絵画表現を目指しました。

今回用いた『蒔絵』という技法は、漆を塗り、それを接着剤にして、金銀粉を蒔き付けていきます。漆黒の闇の中に、粉をぼかして蒔き分けることで、細かい粒子の濃淡を生み出し、自らが感じる『都会の夜の気配』を表現したいと制作しました。

展覧会では、既存の漆芸作品では出会えない、新しく刺激的なアイデアや表現が、たくさん見られ大変勉強になりました。これまで寄り添ってきた漆という素材に、新たな視点で挑戦し、向き合う機会をいただけたことに感謝し、これからも描き続けたいと思います」

■3:優秀作品に選ばれた李沛沛さんの作品「告白」

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「告白」李沛沛 美術学部 工芸科 漆芸専攻 博士課程在学

作者の李沛沛さんは、次のようにコメントしています。

「漆をちゃんと勉強してから、もうすぐ6年目になります。近年は、漆に関する展示会に作品を出していましたが、賞を受けたことがありませんでした。今回は初めてです。

ずっと漆に魅了され、蒔絵の国である日本へ留学にきました。東京藝術大学の小椋範彦先生の下で、漆芸技法を学んでいます。ブルガリは中国でもとても有名なブランドで、学部の時に、中国国家博物館でブルガリのジュエリー展がありました。それを観に行きました。真っ暗な展示室で、美しいジュエリーがキラキラして、とても感動しました。漆を自分の言葉として、世界の方々に色んな気持ちをお伝えできればと思っています。

いつもは花が咲いている生命力の強いサボテンのイメージを制作していますが、今回は初めて乾漆箱を挑戦しました。まだまだ経験不足の私が、素晴らしい審査員に作品を選ばれるとは、本当に思わなかったです。

こんなに良い場所で展示できて、受賞式も参加させていただき、心から感謝しております。一生忘れない思い出になると思います。メチェナーテのきっかけでお会いになったすべての方々に、感謝申し上げます」


以上、優秀作品として選ばれた3つをご紹介しました。

2019年は、6月6日に東京藝術大学の上野キャンパスにおいて「ブルガリ メチェナーテ 講演会」を開催、8月19〜21日は同大学の取手キャンパスにおいてアートキャンプ、そして11月28日には、ブルガリ 銀座タワーにおいて作品展示を開催、と意欲的なスケジュールで活動してきた「ブルガリ メチェナーテ」。

本プロジェクトの発起人の一人である内閣総理大臣夫人、安倍昭恵さんは「伝統工芸品の需要が低迷している中で、原材料の枯渇、職人の高齢化、後継者不足などの現状があります。品質の良い物を、手入れをしながら大切に受け継いでゆく心が、環境や人を慈しむ豊かな心を育てるものと思います」と賛辞を寄せています。

ちなみに「メチェナーテ」とは、芸術と文化の援護活動を意味するイタリア語で、語源は初代皇帝アウグストゥスの腹心、ガイウス・メチェナスに由来するのだとか。

皇帝アウグストゥスの外交・政治面のアドバイザーであり、またその時代に輩出した新世代の詩人・文学者の最大の支援者として、広く知られたその人物にインスピレーションを得て設立された、このプロジェクト。

日本の技を守りながらもグローバルで、伝統継承を目的としつつ若い芸術家に機会を提供するなど未来的でもありーー。この多面的な活動が、今後どのように発展していくのか、たくさんの可能性に注目していきたいですね。

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この記事の執筆者
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WRITING :
神田朝子