ビジネスコーディネーター、ノターロ・石川早苗さんの「モダンとクラシックが調和する家」に訪問

ミラノ市内西部、歴史ある閑静な高級住宅街。石川早苗さんのご自宅は、1966年に竣工した、かのジオ・ポンティの弟子が設計したという集合住宅の3階にあります。

「緑が多く古い建物が立ち並ぶ、昔ながらのミラノらしい雰囲気が好きで、ずっとこの地区に住んできました。200平方メートル以上の広さを条件に家を探していたところ、やっと出合ったのがこのアパルトマンでした」(石川さん)

ノターロ・石川早苗さん
ビジネスコーディネーター
(ノターロ いしかわ さなえ)日本とイタリアのビジネスコーディネーターやコンサルタントとして活躍、ミラノコレクション、チヴィディーニにも携わる。英、伊、日の同時通訳も。分野は、自動車部品、家具、時計、食品など多岐にわたる。「サコール・メディア・インターナショナル」代表取締役。ミラノ・カトリック大学英文科卒。イタリア人の夫、長女、長男の4人家族。孫がふたりいる。

ノターロ・石川早苗さんのHouse DATA

間取り…リビング、2ダイニング、キッチン、3ベッドルーム、3バスルーム、オフィス、サービスルーム 家族構成 …3人(夫と娘) 住み始めて何年?…14年

「アンティーク、新しいもの、ガラス、花、アート。好きなものに囲まれた家は心やすらぐ場所です」(石川さん)

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奥に見えるのがメインダイニング。壁を抜いて設えた棚には、1990年ごろからコレクションしているガラス類、ラリック、バカラ、ヴェニーニ、ヴェネツィアやイスラエルのアンティークがずらり。壁の書は中国のもの。ベージュのソファはB&B。色と柄が見事に調和した温かいリビングには10人ものゲストが集うことも。正月には親戚を招き、イタリア料理と日本料理をふるまうとか。

石川さんはミラノ在住歴48年。ビジネスコーディネートやコンサルティング、通訳ほか、現在はチヴィディーニの日本ビジネスコーディネーターとしても活躍しています。

部屋と部屋の壁を抜いてひと続きにし、空間に広がりをもたせる

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オフィスからリビングを望む。壁を抜き、前の家にあった本棚をカットして棚に。

「2005年に家を購入した際、約6か月かけて改装しました。こだわったのは、部屋と部屋の壁を抜いてひと続きにし、空間に広がりをもたせたこと。」(石川さん)

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プライベートダイニングとキッチン。棚には日常使いの器を収納。扉には赤い壁紙を貼り、閉じると壁と同化する。

リビングとメインダイニング、リビングとオフィスの間の壁をそれぞれ抜くと同時に棚を設えることで、見せる収納に。飾り棚として、大好きなガラスや本、花やアートなどを並べ、どこにいても好きなものが見渡せて心やすらぎます」(石川さん)

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リビング側からオフィスを望む。こちらの棚にもさまざまな色や形のガラスが。「ヴェネツィアやイスラエルのアンティークを飾った、右側の棚がいちばんのお気に入りです。対して、オフィスはぐんと機能的に。以前は外にオフィスを構え、仕事と家庭にあえて距離をもたせていました。でもこのネット時代、通勤時間もカットできるメリットもあり、自宅内にオフィスを構えました。インテリアの雰囲気を変えることで仕事とプライベートの切り替えが可能です」(石川さん)

壁紙の色や柄にこだわる

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ザクロ柄の赤い壁紙(英国製)が印象的なのは、プライベートダイニング。家族がふだん使用するため、コージーな(居心地がよい)空間にこだわったそう。彫刻家・吾妻兼治郎氏から結婚祝いに贈られた一点物の版画やおばさまの書などが飾られている。

もうひとつこだわったのが壁紙の色や柄。廊下はストライプやワインカラーを配して遊び心を、プライベートダイニングはアジアンテイストの赤を取り入れ親密で温かみのある空間に。バスルームは明るい水色のタイルで印象を一変。

色彩へのこだわりは、外交官だったお父様とミラノという街の影響

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バスルームにはお気に入りの香りのキャンドルを。
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バスルームにあるカラフルな香水瓶コレクション。「香りよりもボトルの形や色で買ってしまうくらい、ガラスが好き。理由はよくわかりません(笑)。リビングのガラステーブルには、日本の江戸切子も飾っています」

「子供のころから、美術館や博物館が好きで『色彩』には人一倍こだわりがあると思います。外交官の父がおしゃれな人で、その影響もありますが、やはりミラノという地に身をおいていることも大きいですね」(石川さん)

「モダンとクラシックの調和」がインテリアのテーマ

家具の仕事もしている石川さんは、毎年ミラノサローネを訪れ、トレンドにも敏感。一方でアンティークも愛し、今の家の家具もほとんどは前の家で使っていたもの。イタリアの現代家具をメインに、英国の1700年代のアンティークを配すなど、インテリアのテーマは『モダンとクラシックの調和』だとか。

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黄色いカーテンのメインダイニングには、オランダ旅行で購入した絵画が。照明はヴェネツィアングラスのアンティーク。
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リビングの英国製アンティークのライティングデスク。花はグリーン×白の組み合わせが多く、家の中に花を欠かしたことはない。
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玄関には銀器や杖のコレクションが。

「街にはいたるところに『調和』のヒントがあります。日ごろからどれだけ美しいものに敏感でいられるか。歳を重ねても興味と好奇心をもち続けられるか、が大切だと思います」(石川さん)

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華やかな花柄のひとりがけソファは、英国製。ここで読書をするのが石川さんの至福のとき。建築やアート関連の本、昔のオペラのプログラム、楽譜など蔵書が多く、購入時の改装の際、リビングの窓の下には本棚をつくった。

「インテリアの好みは人それぞれで、その人の趣味によって異なるもの。でも、いちばん大切なのは『調和』だと思います。

美術館や博物館はもちろん、ブティックのウインドーディスプレイを見たり、センスのいい友人の家を訪れたり。レストランでは料理と器や、素材の色の組み合わせを学べます。街にはいたるところに『調和』のヒントがあります。日ごろからどれだけ美しいものに敏感でいられるか。

歳を重ねても、いかに興味と好奇心をもち、何かを感じとる瑞々しい感覚をキープできるか。そのためにはまず、家の中に、自分にとって心が和らぐもの、趣味やコレクションを置くことです。

私の場合はガラスと花ですが、好きなものに囲まれた家は、心が休まると同時に、美的感覚、調和感覚を養うベースにもなると思っています」(石川さん)

息子さんから送られたアート写真

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息子さんから贈られた写真アート。どこに飾るか思案中。

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PHOTO :
Marco Bertoli
EDIT :
田中美保、古里典子(Precious)
取材 :
高橋 恵