ロンドンやイタリアのクラシック・テーラーとは一線を画し、フランスならではエスプリを効かせたオーダーサロンが、パリにある。しかもその職人は日本人・鈴木健次郎氏だ。。ミシュランの三つ星レストランを日本人シェフが獲得するより、ある意味難しい世界で、鈴木健次郎氏のテーラーリング技術が認められたのはなぜか?

 パリで独立した腕利きの日本人

 フランスが誇る名門仕立て服店の「カンプス・ドゥ・ルカ」や「スマルト」で腕を磨き、「スマルト」では、チーフカッターにまで上り詰めた鈴木健次郎氏。独立して、パリにアトリエ&オーダーサロンを構えてから早3年以上が経った。オープン当初から、鈴木氏がつくる服に魅了された国内外の上客が訪れているサロンは、現在、フル稼働の状況である。鈴木氏がつくるジャケットは、フィッシュマウスと呼ばれる、魚の口の形に見えるラペルの切り込みを取り入れた、パリの香りが十分に漂うエレガントなスタイル。さらにフィッティングが特徴的だ。ジャケットとシャツの間に空気の層が入る、繊細なゆとりを持たせた着用感を実現する。決して大きめのサイズではなく、タイトフィットでもない、体のラインに合った軽い着心地が、鈴木氏が手がける服の本領である。

「コートも空気の層を意識して仕立てています。コートとジャケットとの間にわずかなゆとりをつくり、軽やかな着心地に仕上げます」

 コートづくりで大切にしていることは、ほかにもある。型紙の細かい調整をはじめ、より立体的で男らしいスタイルの表現だ。

 「丁寧な縫製を意識しながらも、小さくまとまった縫い方ではなく、広がりを感じる縫いを意識して、男性的な力強さをコートで表現します」

 かつて「スマルト」でチーフカッターを務めていた頃、仕事の傍らでつくり上げたのがセミチェスターフィールドコートだ。伝統的なスタイルにパリの香りを加えた魅惑的なコートは、記念すべき一生もののコートにふさわしいデザインである。

セミチェスター フィールドコート

1.何よりこのコートの特徴となるのが、ラペルのフィッシュマウスだ。100を超えるデザインが存在するともいわれるが、鈴木氏が選んだフィッシュマウスは、やや大きめのもの。2.チェスターフィールドコートの代表的な意匠となるフライフロント。ボタンを露出しないことでフォーマル感を演出する。打ち合わせは7㎝。これが鈴木氏のオーダースタイルだ。3.より軽快でスポーティな表情をつくり出すスラントポケット。フラップの縁に施された、手縫いによるステッチワークが、さりげなくコートのデザインに生かされている。
1.何よりこのコートの特徴となるのが、ラペルのフィッシュマウスだ。100を超えるデザインが存在するともいわれるが、鈴木氏が選んだフィッシュマウスは、やや大きめのもの。2.チェスターフィールドコートの代表的な意匠となるフライフロント。ボタンを露出しないことでフォーマル感を演出する。打ち合わせは7㎝。これが鈴木氏のオーダースタイルだ。3.より軽快でスポーティな表情をつくり出すスラントポケット。フラップの縁に施された、手縫いによるステッチワークが、さりげなくコートのデザインに生かされている。
流れるような背中のライン。フレンチ仕立て特有の洗練された雰囲気が背中からも立ち上る。センターベントの頂点に施された刺しゅうがムーシュ。太めのシルク糸を使い、手縫いで仕上げるフランスの伝統的な技だ。ヒダのように折り込んだベントもフレンチ流!
流れるような背中のライン。フレンチ仕立て特有の洗練された雰囲気が背中からも立ち上る。センターベントの頂点に施された刺しゅうがムーシュ。太めのシルク糸を使い、手縫いで仕上げるフランスの伝統的な技だ。ヒダのように折り込んだベントもフレンチ流!

いかがだろうか。パリのブランドブティックに立ち寄る感覚で、まずは現地で相談してもらいたい。エレガンスの本場で自分のためにつくる1着こそ、究極の贅沢のひとつなのだから。

オーダーできる他のコート/トレンチコート、アルスターコート、ピーコートなど
オーダーの形式/フルオーダーのみ
オーダーの仕方/要予約
期間/日本在住者で約1年、パリ在住者で最短3か月、仮縫いは最低2回あり
価格の目安/セミチェスター フィールドコート約¥530,000~(為替レートにより変動) (※価格は2016年冬号掲載時の情報です。)
お問い合わせ先
KENJIRO SUZUKI
メールアドレス:contact@kssm-cecilia.com

この記事の執筆者
TEXT :
矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
BY :
MEN'S Precious2016年冬号 凄腕仕立て職人の渾身の技をフルオーダーで堪能せよ!「一生ものコート」なら、ビスポークすべしより
ヴィットリオ矢部のニックネームを持つ本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
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クレジット :
撮影/小池紀行(パイルドライバー/静物)、篠原宏明(取材/東京)、 小野祐次(取材/パリ) スタイリスト/武内雅英(code)  構成/矢部克已(UFFIZI MEDIA)