その昔、日本のひな祭りには、「雛の国見せ」という風習があったそうです。江戸時代の女児たちは、雛人形に外の美しい景色を見せてあげるために、雛人形と一緒にお出かけをしていたそう。そのときに持っていくスナックが、菱餅を砕いた「ひなあられ」だといわれています。

なんてかわいらしいお話なのでしょうか…。そのような歴史などもご紹介させていただきながら、ひな祭りに飾ったり食したりする菱餅について、ご紹介します。

■ひな祭りの「菱餅(ひしもち)」の由来とは

ひな祭りの「菱餅(ひしもち)」の由来とは
ひな祭りの「菱餅(ひしもち)」の由来とは

3月3日のひな祭りに欠かせない行事食・伝統食のひとつに、色鮮やかな3色の「菱餅」があります。ひな祭りに、菱餅を飾ったり食べたりする由来とはどのようなものなのでしょうか?

「菱餅」の由来は、古代中国の母子草(ははこぐさ)を入れた餅

菱餅の由来を説明する前に、まずはひな祭りの起源についてご紹介します。

かつての日本の日にちは、十二支(じゅうにし:子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥)で数えられていました。

ひな祭りの起源とされるのは、古代中国より伝わった節句(季節の変わり目や節目)のひとつである「上巳(じょうし)の節句」。上巳は「じょうみ」とも読みますから、3月の一番始めに巡ってきた「巳(み)の日」という意味です。

本来であれば、十二支を延々順繰りに数えて日に割り振っていたため、3月最初の巳の日は必ずしも3日ではありません。しかし、江戸幕府が、3月3日の上巳の節句を始め、1月7日の「人日(じんじつ)の節句」、5月5日の「端午(たんご)の節句」、7月7日の「七夕(しちせき)の節句」、9月9日の「重陽(ちょうよう)の節句」を「五節句(ごせっく)」と定めたため、上巳の節句は3月3日に固定されました。

中国では、季節の変わり目である節句は、新しい季節を迎える準備をする時期でもあり、また、邪気が入りやすい時期とも考えられていました。そのため、様々な行事を催し、邪気祓いを行っていたのです。

上巳の節句に行われていた邪気祓いの風習は、邪気を払う仙木とされていた桃の花びらを酒に浸した「桃花酒(とうかしゅ)」を飲むこと。そのため、上巳の節句は「桃の節句」ともいわれます。現代でも、ひな祭りのことを桃の節句と呼びますが、その由来はここにあります。

また、もうひとつの風習は、「母子草(ははこぐさ)」を入れた餅を食べて邪気祓いを行うこと。母子草とは、黄色い花をつけるキク科の越年草で、春の七草のひとつと数えられ、「御形(ごぎょう)」とも呼ばれます。

「母と子が健やか過ごせるように」との願いが込められたものとされ、中国から日本にも伝わりました。しかし日本では、のちに、母子草ではなく、蓬(よもぎ)が用いられるようになります。ひな祭りに蓬餅を食べるのは、これが由来とされています。

とある説では、「母子草を餅に入れると、母と子を一緒について餅にするようだから、縁起が悪い」とされ、ヨモギに代えられたともいわれているようですが、その史実は明らかにされておらず、信憑性は定かではないようです。

その後、蓬(よもぎ)を入れた緑の餅に、菱の実(ひしのみ)を入れた白い餅と、くちなしを入れた赤い餅が加わり、3色の菱餅となったとされています。

■ひな祭りに「菱餅(ひしもち)」を飾る意味

母子草(ははこぐさ)を入れた餅が由来の菱餅ですが、ひな祭りに飾られるのには、また違った理由があるのです。

「菱餅」を飾る意味とは

菱餅は、ひな祭りに飾り祀られる雛人形へのお供え物になります。本来、雛人形は女の子の厄災を身代わりとして引き受けてもらうために飾るもの。つまり、雛人形に対する畏敬の思いを込めた感謝の気持ちの表れが、菱餅を飾ることにつながったとされています。

「菱餅」の飾り方について

菱餅を飾る際には、白い和紙を敷いた菱台(三方ともいう)の上に置きます。菱台は一揃えが2つセットですから、菱餅も2つ準備しましょう。

七段飾りの雛人形にお供え物とする場合、雛段の上から数えて4段目、右大臣や左大臣がいる中央部分に飾ります。

■ひな祭りに「菱餅(ひしもち)」を食べる意味

ひな祭りに食べられる菱餅は、現代では縁起物としても扱われています。それは、菱餅の特徴的な形に理由が隠されているのです。

菱餅を食べる意味とは

菱餅の特徴的な形である菱形は、菱の実が原型とされています。菱とは、葉が水面に浮く一年草の水草で、種子は食用できます。

古来より、固いとげで覆われている菱の実には魔除けの力があると考えられていました。その魔除けの力を込めようと、菱の実を模した菱形になったとされています。また、菱の花の強い繁殖力は、古来の人々に子孫繁栄を連想させたといいます。

このように、菱の実や花には、魔除けと子孫繁栄の力があると考えられたことから、菱の実の形を模した菱餅は縁起物と扱われ、厄除けや無病息災、子宝を願うひな祭りに食べられるようになったのです。

菱餅以外のひな祭りの食べ物

ひな祭りの行事食として、菱餅以外にもポピュラーなものといえば、ちらし寿司や、蛤(はまぐり)のお吸い物、ひなあられや、白酒などをイメージされる方も多いはず。 以下の2記事でも詳しく紹介しています。 

ひな祭りの由来は厄払い⁉桃の節句と呼ばれる理由や雛人形を飾る意味、ひな祭りの食べ物・行事食とは≫

白酒(しろざけ)をひな祭りに飲む由来や意味は?中国の白酒(パイチュウ)との違いや美味しい飲み方をご紹介≫

■「菱餅(ひしもち)」の色の由来や意味

菱餅は、緑、白、赤の3色から構成されています。この色にもそれぞれに意味があるのです。ここでは、菱餅の色の由来やその意味を説明していきます。

菱餅の色の由来

諸説ある菱餅の色なのですが、江戸時代までは緑の「蓬餅(よもぎもち)」と、菱の実を入れた白い「菱餅」の2色だけでした。この2色を緑、白、緑の順に3段、もしくは5段に重ねていたようです。

ここにクチナシの実で色付けしたピンク(赤)の餅が追加されて、現在のような色鮮やかな3色構成となったのは、明治時代に入ってからのこと。 赤はおめでたい色であること、また、ひな祭りに関わりの深い、桃の花を思わせるピンク(赤)を取り入れたともいわれています。

菱餅の色の意味

カラフルな菱餅の3色には、それぞれ特徴的な意味があります。

解毒作用が期待できるクチナシの実で色付けされたピンク(赤)には、「魔除け」「先祖を尊ぶ心」といった意味が込められているとされています。また、白には、繁殖能力の高さや血圧を下げる作用が期待される菱の実が入っていることから、「子孫繁栄」「長寿」「清浄」が祈願されているそう。そして、「厄除け」「健康」の意味を持つとされる緑は、増血作用があるとされる蓬(よもぎ)の新芽で色付けされているのです。

ここからも、菱餅には、女の子の無病息災や子孫繁栄への願いが込められていることが読み取れます。

菱餅の色の順番の意味

一般的に上からピンク(赤)、白、緑と重ねられる菱餅。 一段目のピンク(赤)は「桃の花」を、二段目の白は「雪や残雪」を、三段目となる緑は「新緑や新芽」を表現しているとされています。

これは「雪の中から新緑が芽吹き、桃の花が咲く」という春の情景(訪れ)をイメージして重ねられたものなのだそうです。

■ひな祭りに「ひなあられ」と菱餅が一緒に飾られる意味

 

菱餅と同じくひな祭りの顔ともいえる「ひなあられ」の存在。ここではひな祭りに供えられる節句菓子として有名な、ひなあられの由来と意味を説明します。

ひなあられの由来

ひな祭りでは、菱餅と一緒に飾られていることが多いひなあられ。これは、菱餅を外で食べやすくするように砕いて作られたとの説が有力です。

江戸時代の日本には、家の中に飾ってある雛人形を屋外に持ち出して、外の景色を見せてあげる「雛の国見せ」と呼ばれる風習がありました。江戸時代の女児たちは、天気の良い日に雛人形と一緒にお出かけをしていたのです。

その際に持っていくお菓子として、菱餅を砕いて持ち運びしやすくしたひなあられが重宝されたといわれています。その名残から、ひなあられと菱餅がセットで飾られるようになったようです。

ひなあられの色の意味

ひなあられには、3つの色がつけられたものと、4つの色がつけられたものがあります。

3色のひなあられは「赤、緑、白」となり、それぞれの意味は以下とされています。

赤:血や魂など生命のエネルギーを意味する
緑:木々の息吹など自然のエネルギーを意味する
白:雪の大地を模した地面のエネルギーを意味する

4色の場合、上記の3色に「黄色」が加わり、春夏秋冬を意味するといわれ、 赤が春、緑が夏、黄色が秋、白が冬と考えられているようです。

ひなあられを食べる意味

ひなあられの色に込められた意味は前述の通り。それを食すことは、季節が放つ自然のエネルギーを体内に取り込むこととされています。

ひなあられを食べることにより、「一年(四季)を通し、娘の健康や幸福を祈る」という意味に繋がるようです。

■「菱餅(ひしもち)」の味と作り方

菱餅とはどのような味がするのでしょうか? その風味や原材料、製造法などをご紹介します。

菱餅の味は、それぞれの色によって違う

菱餅は、その名前の通り、菱形になった餅菓子です。

ピンク(赤)は「えび餅」、白は「白餅」、緑は「蓬餅(よもぎもち)」と、それぞれの色により、風味も違ってきます。

食べるときは、普通の餅と同じように加熱し、醤油やきな粉などで味付けを施すのが一般的です。

「菱餅」は、もち米から作られる

本格和菓子店などで作られる菱餅の原材料は、ほぼもち米です。家庭で手作りする場合は、もち米を原材料とする白玉粉に上新粉(うるち米が原材料)を混ぜ合わせたもので作るのが一般的でしょう。

和菓子店でも家庭でも、専用の型を使用したり、厚紙などを利用した型抜きを用いて、あの菱形を成形します。

ちなみに餅の原材料となる米は、昔から穀霊(こくれい)が宿る神聖な食べ物とされてきました。米をついて作られる餅には、その穀霊の力が宿っていると考えられていたようです。

■「菱餅(ひしもち)」の食べ方や、高級菱餅のおすすめ

菱餅には、一般的な餅と同様、多種多様の食べ方があります。焼いたり、煮たり、揚げたりはもちろんのこと、チョコレートやチーズ、牛乳などを使って、洋風スイーツとしての食べるのも美味しそうです。

また独自の製法で最高級もち米を蒸し、杵(きね)で突き上げた高級菱餅にも注目が集まっています。 

由来や意味を知ることにより、身近となる「菱餅(ひしもち)」の魅力

当記事では、ひな祭りの「菱餅(ひしもち)」の由来や、ひな祭りに菱餅を飾る意味、食べる意味をご紹介しました。

また、菱餅の色や順番の由来や意味、ひな祭りに「ひなあられ」と菱餅が一緒に飾られる理由や、菱餅の味と作り方もチェックしてみました。

2020年のひな祭りには、縁起物である菱餅を食べてみてはいかがでしょうか? 厄除けはもちろんのこと、きっと食べた人を幸運に導いてくれるはずです。

この記事の執筆者
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