ビジネススタイルのネクタイと、着こなしを楽しむためのネクタイとでは、選び方が違う。つまり、ビジネスシーンで締めるネクタイは、遊びの要素のないストライプを中心としたトラッドなデザインを選ぶ。それに対し、仕立てに凝った趣味性の高いクラシックなスーツをはじめ、今注目のヴィンテージ・アイテムをミックスした着こなしでは、デザインや色合い、柄などが際立つ個性的なタイプに選択肢が広がるからだ。

 ピッティは、より嗜好性のあるデザインで、スタイルを楽しむ洒落者もターゲットにした、ネクタイ専業ブランドの出展も見どころだ。現実的なマーケットをみて、トラッドなデザインもそろえているが、着こなしの主役にもなる魅力的なネクタイの提案が、洒落者のバイヤーたちの感性を刺激するのである。

多彩な表情を魅せるふたつのネクタイ専業ブランド

ステファノ ビジ

ステファノ ビジのネクタイ

 ひとつめは、1938年イタリア・ミラノで創業し、現在3世代目となる“ステファノ ビジ”。ナポリの名門“E.マリネッラ”のオーナー、マウリツィオ・マリネッラ氏と親交もあり、マリネッラ氏も認める北イタリアを代表するネクタイブランドだ。

 “ステファノ ビジ”のブースでいつも関心するのは、完成品のネクタイばかりではなく、新作のエクスクルーシブ生地をたっぷりと用意していること。打ち合わせ用のカウンターには、独自で選んだ稀少な生地メーカーの逸品も並ぶ。

 今回、特に目立ったのは、ブース中央のテーブルに置いた3本のネクタイ。張りのある感触の50オンスのシルク生地を使い、ハンドプリントで仕上げたペイズリー柄が白眉だ。発色や生地のヌメリ感など、まさに極上品のたたずまいである。

アット ヴァンヌッチ

アット ヴァンヌッチのネクタイ

 ふたつめは、“アット ヴァンヌッチ”。ピッティの会場から離れ、サンタマリア・ノヴェッラ広場に面したホテルで展示会を開催。それでも、ホテルの会場に訪れる各国のバイヤーたちでいつも賑わう人気のブランドである。

 人気の秘密は、かなり個性的なデザインや色合い、そしてつくり。まるでスカーフを巻いているような軽やかな風合いは、まず他のブランドにはない。

 多彩なコレクションのなかから、目についたのがソリッドタイ。落ち着いたダークトーンで展開したスーパー140Sのウール素材は、ツヤがあり上品な表情だ。ソリッドの生地は柄に惑わされないため、やわらかく折りたたんで仕上げた独特のタイのつくりが実感できる。“アット ヴァンヌッチ”のしなやかなネクタイは、一度締めたら忘れられない軽やかな感触が抜群である。

 洒落者になるためのネクタイ。そんな感覚で選びたい、ふたつのネクタイ専業ブランドだ。

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この記事の執筆者
ヴィットリオ矢部のニックネームを持つ本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
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