仕事も人生も、自分らしいスタイルを少しずつ「更新」させながらライフステージの「踊り場」を果敢に乗り越えてきた40~50代の女性たち。

現役でいられる時間が延びる「人生100年時代」の今、自らの心の声に耳を傾けて「生き方や働き方の軸足」自体をシフトさせる人も増えています。それまでもっていた価値観を見直して、変化させたことで人生がより味わい深く。「新しい働き方」を選んだ女性たちの深化の物語をお届けします。

今回は、43歳でファンドマネージャーから翻訳家へとシフトした、関 美和さんにお話を伺いました。

関 美和さん・54歳(シフト年齢43歳)
翻訳家、杏林大学外国語学部准教
(せき みわ)20代で投資銀行に勤務しその後ハーバードビジネススクールでMBAを取得。帰国後は外資系投資銀行を経て、クレイ・フィンレイ投資顧問東京支店長を務め43歳で退社。翻訳家に転身。

思いがけない転機は、人生の危機とともにやってきました

「私の転機にはいつも翻訳本がありました」という関さん。社会人になったばかりのころに読んだ『ハーバードの女たち』もその1冊でした。

そこには、仕事で成功する女性は、家庭との両立はできないと書かれていました。当時20代の私は、どうしても両方を手にしたいと思ったんです

その思いを実現するべく、関さんは証券会社に勤務したあと、アメリカでMBAを取得、帰国後は投資顧問会社に転職。

雑誌『25ans』(2001年5月号vol.260)の「パワーセレブ白書」特集で紹介された関さん。キリッとしたスタイルで今とは違う雰囲気!
雑誌『25ans』(2001年5月号vol.260)の「パワーセレブ白書」特集で紹介された関さん。キリッとしたスタイルで今とは違う雰囲気!

プライベートでは結婚し2児の母に。念願の両立をかなえたが、心にはある違和感を抱えていたという。

「いいファンドマネージャーとは何か。目指していきたい目標や理想像が明確にありませんでした。心のどこかで、金融業界で自分は一流になる能力がないと気づいていたんです」

悩んでいたころ、関さんはある英語の本に出合い、共感し、夢中になりました。

「主人公は、投資顧問会社に勤める女性。子供の育児と仕事との間でドタバタ劇を繰り広げる物語ですが…まさに私の状況にそっくり。この本は絶対に私が訳したいと思いました」

その後子供との時間を増やしたいと、43歳で退社した関さんは、大好きな本への思いを実行に移してゆきます。なんと大胆にも外国人著者に連絡をとり、出版社と交渉。

残念ながら願いはかないませんでしたが、翻訳への情熱に火がつきました。関さんはビジネス書に的を絞り、出版社に営業しました。長年ビジネスの現場にいた関さんの翻訳には説得力があり、徐々に仕事が増えた矢先、生活は再び一変します

ある日突然、離婚を切り出されました。翻訳の仕事はまだ安定していないのに、子供たちを抱えてどうしようと悩み慌てましたが、収入を増やすには量を増やすしかないと腹をくくりました。そこからは、どんな仕事もすべて受け、とにかくスピードアップを図りました

得意を生かして仕事ができる毎日は、とても幸せです

しばらくすると関さんの翻訳本は次々とヒット。特に、2019年に刊行された『ファクトフルネス』は大ベストセラーに。大学の准教授と兼業しながら、2019年は7冊という驚きの量を翻訳。人生の危機で鍛えた早さが今も支えているそう。

「前職とは違い、この仕事は最初から目指したい先が見えた。『翻訳本は読みにくいというイメージを変えたい』という自分なりの使命があったから、40歳を過ぎても新しい仕事に打ち込めたのかもしれません。得意を生かして仕事ができる毎日は、とても幸せです」

今の自分を自己評価するなら…?

「思いきって…80点! しみじみと今、毎日がハッピーなんです。昔は先のことを考える余裕はなかったのですが、今はこれからやってみたいことがたくさんあります。字幕もやってみたい、小説も書きたいとバケットリストが次々と埋まっていきます」(関さん)

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PHOTO :
高木亜麗
EDIT&WRITING :
大庭典子、佐藤友貴絵(Precious)