デザイン業界で働くイタリア在住の日本人女性おふたりに、現在のミラノ、トリノの様子や、日本の皆さんへの痛切な願い「命を守るために、お家で過ごして」というメッセージ、自宅で豊かに過ごすヒントを伺いました。日本の読者へのメッセージもいただいています。ぜひ、今後の参考にしてみてください。

ロックダウン中のイタリア・ミラノから日本のみなさんへ伝えたいこと

おひとりめは、ミラノ在住の山本 幸さん。世界最大のデザインイベント「ミラノサローネ」の広報をはじめ、ミラノ・デザインウィークの出展者の広報やコンサルタントなどを務めています。

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ミラノ在住20年以上になる山本幸さん。自宅待機生活中に撮影

■Q1:ミラノの街の様子を教えてください

「外出は、やむをえない仕事、食料品、薬の買い出しのみしか許されず、違反したら最高5000ユーロの罰金です。また、ふたり以上で出かけることも許されません。散歩やジョギングは、ソーシャルディスタンスを保つ範囲で許されていましたが、ポカポカ陽気の日には一気に人があふれ出て、問題になりました。公園は次々に封鎖、それでも公園の周りや川沿いに人が密集し、とうとうそれも許されなくなりました」

罰則があるということは、街中を警察官が巡回して取り締まっているのでしょうか?

「私の行動範囲では見かけたことがありませんが、別のエリアで検問にあった友人がいて、政府発行の移動自己宣誓書と身分証明証、更に外国人は滞在許可証まで提示を求められたと聞きました。また郊外や地方都市は街が小さい分、より検問の密度が高いようです」

外出時には、マスクのほかに「手袋」も必需品

出かければ出かけるほど感染のリスクが増えること、出入場制限があるため時間がかかることから、買い出しは週に1度に留めているそう。

「出かける際のマスク着用は、4月5日から義務化され、営業中の商店にて使い捨て手袋と手消毒アルコール液配布が義務付けられました。私は更に洗える手袋も着用して外出します。帰宅次第、洗面所へ直行し、コートを着たまま手洗いうがいをして、手袋は洗濯。コートとエコバッグは1日テラスにかけてから家に入れます。

買った物も表面を拭けるものは、すべて除菌するようにしています。アパートメント敷地内へのゴミ捨ても、同じアパート内に自宅隔離中の感染者がいるという前提で気をつけています。ちなみに感染者は、ゴミを分別せず2枚以上のゴミ袋を使って一つにまとめて捨てるよう、細かい指示が出されています」

何が正解かわからない状況のなか、できる限りのことをしていることがみてとれます。まだミラノは暖房をつける日もあるそう。暖かくなってきた日本では、紫外線よけの手袋で代用できるかもしれませんね。

■Q2:日常生活で変わったことを教えてください。新たに発見したことなど

「人間の底力を感じた」

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山本さんの家からの実際のフラッシュモブの風景、医療従事者へ声援の拍手を送った時の様子

「生活だけでなく、考え方も変りました。全土が完全に『オフ』になる状態が1か月以上続くという、人生初めての経験。大きな不安と恐怖を抱え、国民全員が同じ状況、精神状態のなか、軟禁生活1週目にはフラッシュモブが大流行りしました。

毎日SNSで届く約束時間を皆が心待ちにし、窓やバルコニーから姿を現して、医療従事者へ声援の拍手を送ったり、国歌を歌ったり、楽器を弾いたり、時には日没後に部屋の灯りを消してキャンドルを灯したりと、連帯感がお互いを励まし、全土で感動が巻き起こりました」

「インターネットは仕事だけでなく、友人たちとの交流にも役立つ」

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娘と友人のバーチャルエクササイズの様子

「インターネットの普及は、本当に軟禁生活者の心の支えですね。仕事のミーティングはもちろん、誕生日会もバーチャルで乾杯したり、娘はバーチャルエクササイズで友だちと声をかけ合って運動したり。

ピアノの先生をしている友人は、バーチャルレッスンもしているそうです。首相の記者発表会もバーチャルです。これは日本も取り入れたらいいですね」

「自然環境は喜んでいる。よりよい未来への解決策は案外シンプルかもしれない」

「ミラノの街の空気が綺麗になった実感があります。各国の首相がひとところに飛行機に乗って集まって話し合うよりも、人の動きを10日間止めるだけで、こんなに自然の回復力はあるのだと」

私たちは、経済やテクノロジーの発展に気をとらわれすぎていたのかもしれません。必要なテクノロジーと、そうではないものの取捨選択によって、人間の知恵で地球をよりよくすることは、思ったよりもシンプルなことなのかもしれません。

「ミラノのスーパーで品切れする『小麦粉』。工夫をする、そこには発見がある」

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山本さんお手製のオレッキエッテ、塩麹漬けサーモンのレモンクリーム和え。白い小麦粉が完売の為カムット粉使用
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山本さんお手製の中華風パスタ「猫耳」と焼き豚

山本さんの家の前の大型スーパーは、生鮮食料品も生活必需品もひと通りそろうとか。欠品が続いている衛生用品は、除菌ジェルとエチル・アルコールだそう。

入荷が追いつかない食材No.1は、小麦粉。次いで玉子やバターというから驚きです。日本とは大違いですね。

「ピッツァ、フォカッチャはもちろん、ケーキづくりをしていない友達はいないくらいです」

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皮から自作した餃子と水餃子のおいしさは格別だったそう

「今まで買うのが常識だった餃子の皮も、売っていないので自作してみたところ、これが本当においしくて」

普通じゃない状況のときには、工夫をするしかなく、そこには発見がある。できあいのパスタを買わずに小麦粉を買っていたから、餃子もつくれた。少し前までは、あたりまえに家のなかにあった「手を動かす楽しさ」を思体感することで、誰もが表現者側に(傍観者ではなく)なれるのだ、と思い出すことができます。

外食で楽しんでいたのは、お料理だけではなかった。照明やインテリア、テーブルウェアなどが作る総合的な雰囲気を、自宅で工夫して真似する楽しみ

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お料理をおいしそうに見せる照明や、テーブルウェア、キッチン周りも含めて、取り合わせはセンスのみせどころ

「出かける楽しみといえば、外食でした。食べ物だけではなく、お料理をおいしく見せる照明やインテリア、テーブルウェアやちょっとした盛り付けなど、雰囲気も含めて楽しんでいたんだなと、外出禁止になって改めて思います。

お店も開いていないし、だったら家で、と自宅で間接照明を工夫したり、食材を張り込んだり、盛り付けを楽しんだり、結構いい感じに家での食事を楽しんでいます」

真似してみたい!山本さんのレシピ「タリオリーニのイチゴソースかけ」

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トマトソースのパスタ⁉ に見えて、実はイチゴソースのかかったクレープ

「春になると毎年つくっていたのがコレです! 生クリームを添えて」と教えてくださいました。遊び心のある、ユニークなレシピを楽しんでください!

【材料】

クレープ:二人分(クレープ5枚分)

・小麦粉40g
・玉子1個
・塩ひとつまみ
・砂糖ひとつまみ
・ミルク100cc
・コニャックまたはラム酒 小1
・溶かしバター大1弱

・クレープの材料を合わせて30分休ませ、フライパンで焼きます。

・冷めたら1cm弱の幅に切り、お皿に盛り、イチゴと砂糖をミキサーにかけたソースをかけ、ホワイトチョコレートを削ってチーズに見立てて振りかけます。ミントの葉があれば乗せて。生クリームをたっぷりかけて。

Q3:山本さんの仕事の状況は、どう変わりましたか?

 「仕事の内容上、もともとリモートワークなので仕事環境について、私自身は大きな変化はありません。ですが、周りの友人からは、在宅勤務を喜んでいる声を多く聞きます。

満員電車に揺られて出社しても、今や仕事の大半はPCと電話でこなせるので、今後、ますます在宅勤務が増える時代が到来するでしょう」

「そのためには、自宅がこもっていても苦にならない、むしろ『引きこもりたくなる家』であることが重要です。より快適で実用的なインテリア空間のヒントは、すべてミラノサローネの中に凝縮されています」

2021年はミラノサローネの60周年。隔年開催だったキッチンとバスルーム、照明の見本市が初めて同時開催となるビッグイベント

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世界188カ国から40万人前後の来場者を集客するミラノサローネ PHOTO:土橋陽子

2021年は、今まで隔年開催だったキッチンとバスルーム、照明の見本市が初めて同時開催されます。

「奇しくも来年はミラノサローネの60周年でもあり、ミラノと業界の再出発を飾る1度限りのビッグイベントになる予定です」

ミラノサローネでは、家具だけでなく、インテリア全体、キッチン、バスルーム、照明、オフィス環境、そしてファッションともリンクする素材や色などのトレンドが総合的に発表されます。

「イタリアは、本当にごく普通の人、たとえばアパートの管理人さんでも、デザインについて意見や好みがあります」

そういう土壌が、デザイナーやメーカーを育て、世界中の人々に発表の場を提供する、ミラノの度量を育ててきているのかもしれません。昨今は、日本の企業やデザイナーの活躍も世界的に注目を集めています。私たちの生活を取り巻く環境全ての最新トレンドを、ここで一度に見ることができます。

「2月21日にイタリアで新型肺炎感染者第一号が発見され、みるみるうちに感染が拡大してしまったため、まずは毎年恒例の4月開催が、6月開催へ延期されました。3月27日には2021年へ延期という、衝撃的なニュースが発表されました。

私は日本語に翻訳するため、あらかじめこのニュース原稿を目にしていたのですが、本当にショックでした。ミラノサローネは、全世界に平等に扉を開いていますから、皆さんに安心して来場いただくため、ほかに選択肢はありませんでした。

翻訳にせよ個々の対応にせよ、いろんな方の顔が浮かび、難しい状況のなか、これまで以上に言葉の選び方に心を砕くようにしています」

最後に、日本の皆さんへの一言

●家に長期間いるほど安全

「この新型肺炎のウイルスを、決して侮らず、自分が既に感染しているかもしれないという意識をもって行動することが大切です。最初に感染拡大したイタリアを、他人事のように見ていたヨーロッパの国々やアメリカも次々とロックダウンになり、日本も緊張感が高まっているようで心配です。まずは命を守るために、どうか家で過ごしてください」

●気分転換が必要。スーパーで買えない愛用品、例えば基礎化粧品やヘア・ボディケア商品などを確保することもおすすめ

ロックダウンになる前のアドバイスは、自分の好きな、気分転換になるものを購入しておくこと。

「イタリアと同じならスーパーの商品は必ず入荷するので買い溜めせず、むしろスーパーで買えない愛用品、例えば基礎化粧品やヘア・ボディケア商品などを確保することがおすすめです」

●家にいることを大いに楽しんで

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しまってあったレシピ本を開いてみて、リゾット用に魚介ブイヨンづくりも楽しんで

料理に限らず、家の中を模様替えしてみたり、花や植木を飾って手入れしたり、夜は間接照明にして心を落ち着かせたり。

そして「このような事態は2度とあってほしくはないのですが、あえてこの時間をポジティブに捉え、自分と家族の暮らしを見つめ直し、限られた条件のなかでこそ生まれる独自のアイデアを見出して、ささやかに楽しむことができたら思います」とのこと。

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天窓から月を見上げながら世界の平和を祈りつつ

自宅で素敵に過ごすアイデアが見つかる。2021年開催予定のミラノサローネ

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2021年のミラノサローネは、隔年で開催していた「エウロクチーナ(キッチン見本市)」と「エウロルーチェ (照明見本市)」が同時開催される、前代未聞の豪華さ

「キッチンの展示と、お料理をおいしく見せる照明の両方が見られる機会は、二度とないかもしれません。週末の二日間は、一般の方もミラノサローネにご入場いただけます。自宅の新築やリノベーションをお考えの方は、建築家やインテリアコーディネーターと一緒に会場を見て回るのも、インスピレーションを得られるいい機会になると思いますよ」

ミラノサローネについてはこちら

ミラノサローネ会期中は、「ミラノ・デザインウィーク」と称し、街中のショールームや飲食店などでもさまざまなデザインイベントが繰り広げられます。普段の観光とは違ったミラノの雰囲気が、どなたでも感じられるはず。在宅ワークの環境づくりにも、サロンやお教室を経営されている方にも、ヒントが得られます。

山本さんへのインタビューからひしひしと伝わってきたのは、日本にいる私たちへの「家にいることで、命を守って!」というメッセージでした。

また、「コロナ先輩国として」というフレーズも忘れられません。家にいる時間を快適に過ごす楽しさや、つくる喜び、工夫してみつける発見も楽しみたいものですよね。

衛生関連だけでなく、基礎化粧品やインテリアなど、緊急時にも気分転換となるアイテムは決して贅沢品ではなく、大切なものなのだと思いを新たにしました。

食、ファッション、デザイン、インテリアと私たちを夢中にさせてくれるイタリア・ミラノからのメッセージをぜひ参考にお役立てていただければ幸いです。

この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM