新型コロナウイルスですっかり自粛ムードが板についてきた今日この頃。テレビやSNSの情報で気持ちが滅入ってきたときこそ、フィクションの世界に救われるというものではないでしょうか?

今、おすすめしたいのが、江戸時代の長屋を題材に、落語調の軽やかな展開で「笑って泣ける」と大評判の小説「本所おけら長屋シリーズ」。

作中に登場する「おけら長屋」の住人から、今の私たちが学べることとは?など、著者の畠山健二先生にお話を聞きました。

畠山健二さん
小説家
(はたやま・けんじ)1957年、東京都目黒区生まれ。墨田区本所育ち。演芸の台本執筆や演出、雑誌のコラム連載やものかき塾の講師も務める。2012年『スプラッシュ マンション』(PHP文庫)で小説家デビュー。翌年スタートの文庫書き下ろし時代小説「本所おけら長屋シリーズ」がベストセラーとなる。その他の著書に『下町呑んだくれグルメ道』(河出文庫)、『超入門! 江戸を楽しむ古典落語』(PHP文庫)、『粋と野暮 おけら的人生』(廣済堂出版)がある。

笑って泣ける時代小説「本所おけら長屋シリーズ」とは?

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現在14巻まで発売中。累計110万部を誇る人気シリーズ

時は江戸時代。本所亀沢町にある「おけら長屋」が小説の舞台です。今でいう東京都墨田区両国四丁目、亀沢一丁目、石原一丁目あたりが該当します。

「この話を書き始めたきっかけは、小説で理想の社会や人間関係をつくりたかったからです。現代ものとして描くと現実味がなくなってしまうと思い、受け入れやすい江戸長屋を舞台にしようと思いました」(畠山先生)

この長屋に暮らすのは、万造、松吉の「万松」コンビを筆頭に、左官の八五郎・お里夫婦や後家女のお染、 浪人の島田鉄斎といった個性的な面々。人情とお節介で名高い「おけら長屋」で繰り広げられる"珍"騒動を描きます。

1巻ごとに短編4~5話が入っており、1冊を落語の寄席に見立てて、バラエティ豊かな構成にしているとのこと。

「小説のテーマは『人間力』です。おけら長屋の住人たちは、毎日のように起こる騒動を『人間力』で解決していきます。今、社会問題になっているさまざまな事柄は、本来は人間同士の中で解決してきたものです。解決できなくなってきたということは、『人間力』がなくなってきた証拠ではないか。そこで、小説の中で描くことにしました」(畠山先生)

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江戸長屋で起こる騒動を、住人たちが「人間力」で解決していく

2013年に1巻を発売して以降、2巻3巻と重ねるごとに口コミで人気が上昇。2019年にはシリーズ累計100万部を突破しました。

「読者の方からの感想を見ていると、みなさん泣いたり笑ったりすることに飢えているのでは、と感じます。この小説の売りは『笑って泣ける』こと! 現実の世界では無理でも、せめて小説の世界では『人間力』あふれる世界を体験していただければと」(畠山先生)

実は、読者からの声で多いのは「おけら長屋に住みたい!」なのだそう。では、おけら長屋の住人たちが、もし今のような「自粛」生活をさせられたら……? どんな暮らしをするのでしょうか。

「おけら長屋」で自粛暮らし……登場人物ならどうする!?

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個性豊かなキャラクターたちの人情あふれるストーリーが魅力

もし、おけら長屋の住人が自粛を命じられたら……? 江戸時代に自粛は有り得ないですが、ちょっと想像してもらいました。

「酒を飲んで、どんぶりでサイコロを転がすことになるでしょうね。江戸時代の庶民は、その日暮らし。仕事はいくらでもあったので、ノー天気だったのではないでしょうか。生きる死ぬについても、今ほどシビアに考えていなかったと想像しています」(畠山先生)

子どもが生まれても5歳までに多くの子どもが亡くなる時代。衛生環境、医療環境などは今よりも厳しかったのに、「登場人物たちなら気楽に過ごすだろう」と考えるのだそうです。

「落語で『寿限無』という話があります。子どもに長生きしてもらうために、長い長い名前をつけていくという話で、今となれば笑い話ですが、当時は子どもが生き延びるということは切実な問題でした。多くの子どもがなくなってしまうからこそ、子だくさんという面もあったのだと思います。今とは感覚が違うのです」(畠山先生)

資産、家族、友人、地位、信用など、モノや人以外にも守るものが増えた現代人。だからこそ、おけら長屋の人たちの生き方がまぶしく映ります。

「おけら長屋の住人たちは、お金もない生活。でも、守るものが少ない代わりに、心許せる仲間と楽しくて心置きなく暮らせる毎日。今では得られない生き方だったのではないでしょうか」(畠山先生)

こんな時代だからこそ「無理に明るくする必要はない」

守るものがないからこそ楽しい暮らし。でもさすがに、それを今実現するのは難しそうです。

「私自身もよく、おけら長屋のように笑って暮らしていると思われますが、日々は辛くて苦しいことが多くあります。人間とは勝手なもので、すぐ他人と比べたがる。遊びたい、怠けたい、お金が欲しい……みんな、そんなものです」(畠山先生)

だからこそ、「無理やり明るく過ごす必要はない」と畠山先生は考えます。

「ただ、人はひとりでは生きていけません。人とのつながりをつくっておくことは重要です。何かあったとき、一緒に笑って泣いてくれる人がいる。心の拠り所がある。身近にそういう人がいれば、心に余裕ができて自然と笑う回数が増えていくのではないでしょうか」(畠山先生)

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畠山先生は、落語などの演芸にも明るい。J:COMの番組『東京下町人図鑑』ではMCも務め、現代の下町に生きる人々にインタビューも

ちなみに、畠山先生はどんな自粛ライフを送っているのでしょうか?

「小説を書くしかありませんね(笑)。もともと買いだめが好きで、ストックしてある食品やモノをすべて出して賞味期限をすべてマジック書きしたり、断捨離したりしています。こういうときにしかできないことをすると、いい気分転換になるんです。でも、人と会えないのが辛い」(畠山先生)

流行のオンライン飲み会もされているとのことで「世の中のテクノロジーが進んでいてすごい」と感じているのだそう。

最後に「本所おけら長屋シリーズ」の中で、心が沈んだ時におすすめの話を教えてもらいました。

「1冊の中に寄席の色物、人情噺、前座噺に相当する様々な短編をいれていますが、笑いだけに特化している話もあります。例えば『よいよい』(4巻収録)、『おしろい』(7巻収録)、『もりそば』(10巻収録)などですね。ぜひ読んでみてください」(畠山先生)


まだまだ続く自粛生活。増えたおうち時間の気晴らしに、笑って泣ける「本所おけら長屋シリーズ」で、ストレス解消してみてください。

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