外出自粛を実施するようになってから時間が経ち、精神的肉体的に疲れやストレスを感じている人も多いのではないでしょうか。人の多さから、接触を避けるために少しの外出をも自粛してしまったという声も聞こえます。しかし、この期間中の運動不足は、体と心両方の健康に被害をもたらす恐れも。

今回は、巣ごもり状態での運動不足が体に及ぼす危険性について、そしがや大蔵クリニック院長の中山久徳先生にお話を伺います。そして、ウォーキングプロデューサーの園原健弘さんには、短時間でできる運動として効率的なウォーキングをアドバイスいただきます。

中山 久徳 先生
骨粗鬆症学会認定医 そしがや大蔵クリニック 院長
(なかやま ひさのり)国立山形大学医学部卒業後、東京大学医学部アレルギーリウマチ内科に入局。2012年4月、世田谷区砧にて『そしがや大蔵クリニック』を開院。リウマチ内科医として、関節リウマチ・膠原病・骨粗鬆症の診療に従事。全身疾患の臨床経験を生かし身体の全般についても診察。テレビ、雑誌などでも活躍。
園原 健弘さん
ウォーキングプロデューサー
(そのはら たけひろ)1992年バルセロナ五輪50Km競歩代表。世界陸上3回連続出場、箱根駅伝2回出場など競技者としての経験をベースに健康づくり・ダイエット指導など幅広い分野で活躍中。東京・神楽坂にてスポーツジム経営。近年は(株)ラバ・チューブ代表取締役、(社)JEETA理事として、市町村の介護予防事業・地域支援事業を運営受託し全国を飛び回っている。明治大学体育会競走部コーチ。著書に『楽しい健康ウォーキング入門』(技術評論社)、『股関節ウォーキングでメタボリックシンドローム解消!』(学研)、『正しく“歩いて”東京マラソン完走』(小学館)、『ウォーキング100のコツ』『「数値改善」ウォーキング』(主婦の友社)など。

 免疫力にも影響! 見直したい「屋外での運動」

ただ体を動かすだけでなく、陽に当たることも健康にとって大切。
ただ体を動かすだけでなく、陽に当たることも健康にとって大切。

自宅で過ごす時間が増え、外出せずに運動不足になってしまうと、具体的にどのような悪影響を及ぼすのでしょうか。

「巣ごもり生活で運動不足になると、体重の増加だけでなく筋肉や骨の衰えにつながることがあります。自粛期間中は、運動不足で骨が弱くなっています。無重力状態にいる宇宙飛行士が骨粗しょう症になりやすいのは、ご存じでしょうか? 骨細胞は、力学的な負荷を感知しないと減少します。

そして、骨の形成にはビタミンDも大切です。外へ出て10分から20分ほど、少し汗ばむスピードでウォーキングしてみましょう。

日光に当たることで、皮膚でビタミンDが合成されます。ビタミンDは免疫力を高める働きがあると、複数の研究機関が報告しています。その1つは、ビタミンDは気道に感染するウイルスや細菌の増殖を抑制するとしています*。

この時期、特に重要とされる免疫力にも関係するので、屋外で他人との距離を十分に保ちながら手軽にできる運動としてもウォーキングはおすすめで、私も実践しています。

顔に紫外線が当たるのが気になる場合は帽子などでカバーし、歩いていて体温が上がってきたら腕まくりをして吸収する面積を増やす程度で十分です。運動不足が続いて、急にウォーキングを始めると足のトラブルになることも考えられるので、靴選びにも気をつけましょう」(中山先生)

* Linder JA: Vitamin D and the cure for the common cold. JAMA, 308: 1375-6, 2012.

お散歩からはじめるウォーキング習慣

ランニングは抵抗が出やすいが、散歩としてのウォーキングならば始めやすい。
ランニングは抵抗が出やすいが、散歩としてのウォーキングならば始めやすい。

「当然ながら人間も動物であり、本来『動く』生き物なのです。2週間動かないでいると、血液循環が悪くなり、老若関係なく骨や筋肉は衰えてしまい、人間本来の機能が低下する可能性があります

自粛期間中は通勤やレジャーなどがないため、普段行っている活動量をはるかに下回ります。運動量ゼロをプラスにするのではなく、マイナスをゼロに戻すと考えると良いと思います。

まずは、気軽にお散歩感覚から始めて歩く習慣をつけましょう。より効率よく運動効果を上げたいのであれば、ウォーキングに挑戦するのがおすすめです。

ウォーキングでは、歩く時に体の動かし方を意識すれば、短時間でも脂肪や糖質を効率よく燃焼させる効果が期待でき、巣ごもり太りの対策にもつながります」(園原さん)

まずは大股歩きで歩くことからスタート

ただ散歩をしても意味がないと、よく耳にしますよね。では、正しい歩き方はどうしたら身につくでしょうか。

1日10分歩くことで、残りの23時間50分の体の状態が変わってきます。さらに歩き方によって、短時間でより運動効果を上げることができます。散歩とウォーキングの違いは、より高い運動意識を持って歩くかどうかの違いです。

ポイントは2つ、『歩く姿勢に気をつけること』と『歩くときに履くシューズ』です。まずはこの2つを意識して散歩を始めることをおすすめします」(園原さん)

■ポイント1:【歩く姿勢】歩くのに大事な筋肉「大腰筋」を動かす意識を

「効果的なウォーキングには、まず歩く姿勢に意識を向けることが大切です。

大股歩きの「大股」とは、横断歩道で白いラインだけを踏んで歩くくらいの歩幅です。大股で歩くことによって、上半身と下半身をつなぎ、歩くための要となる筋肉の大腰筋を動かして歩くことにつながります。

大腰筋が弱ると足が上がらず、つまずきやすくなるだけでなく、骨盤が後傾し猫背や肩こり、腰痛の原因にもなります。特に意識をせずに歩くと、股下だけを動かしがちになります。

【正しい歩き方】
・動きの基点をみぞおち辺りまで高く上げ、そこから足を振り出すイメージを持つのがコツ。
・肩には力をいれずリラックスし、手の振りは自然にまかせます。大きく振ろうと意識しないことがポイントです。
・みぞおちから足を振り出すイメージで前へ出す
・振り出した足はかかとから着地します。かかとから着地するためには、ふくらはぎの筋肉を伸ばす必要があります。ふくらはぎの筋肉が伸縮することで、静脈の血流が良くなり、全身に血流を巡らせてくれます。

■ポイント2:【シューズ選び】「歩くときの足」のことを考えられたアイテムを

「シューズ選びも注意が必要です。着るものは普段のスタイルで問題ありませんが、シューズはウォーキングに適したものを選ぶことをおすすめします。靴は選び方を間違えると、シューズそのものが原因で、筋肉に過度な緊張を生みだし正しい歩き方ができなくなることや、余計に疲れてしまい肩こりがひどくなるなどの可能性もあります。

足のトラブルを起こさないためにも、かかとの骨が内側や外側に傾くようなことが起こりにくい、かかと部分に安定感のあるシューズを選びましょう。

アウトソールは、かかとから着地して、しっかり地面をけり出す歩きができる、屈曲性の良いであることも重要です。正しい歩き方に導いてくれるシューズを選びましょう」(園原さん)

徐々にレベルを上げ、短時間での効果的ウォーキングを身につける

正しい歩き方を覚え散歩からウォーキングにも慣れてきたら、効率を上げることを意識してもう1段階ステップアップにチャレンジしてみましょう!

たった10分という時間でも、より運動効果を得るためのコツは、負荷をかけることです。厚生労働省からも、ただ歩くだけでなく負荷をかけて歩くことを推奨しています。

やり方によっては、10分も歩かずに1万歩以上の運動効果が得られます。まずはレベル1を行い、体が慣れてきたらレベル2に挑戦しましょう。

【高効率ウォーキング】
<レベル1>
・10分で1km(時速6キロ)目安を歩く
・吐く息を意識

<レベル2>
・空腹時に歩く
・「30秒思いっきり早歩き、30秒ゆっくり歩く」を3セット3分で

レベル1は、10分間をいつもより早歩きで歩きましょう。女性の歩く速度は時速4キロといわれているのでそれよりも少し早く、ギリギリ歩きながら会話ができる程度です。時速6キロ、10分で1Km程度歩く速さがちょうどいい負荷になります。

吐く息を意識して歩くリズムに合わせて、ふーふーと大きく息を吐きましょう。たくさんの酸素を取り込むことができ、細胞の活性化につながります。マスクをしていると呼吸がしにくいので、より意識してください。

レベル2は、朝食や夕飯前の空腹時ウォーキングがおすすめです。早歩き程度の運動は、脂質が燃焼しやすい運動強度であり、ランニングほど炭水化物(糖質)を必要とせずにできる運動のため、効率よく脂肪を燃焼することができます。

さらに、30秒思いっきり早歩きをして30秒ゆっくり歩く、インターバルを利用した歩き方を3セット、合計3分行うだけで1万歩歩く以上の運動効果が期待できます。短時間で超・高効率のウォーキングです。ダイエットを意識したい人にもおすすめです」(園原さん)

歩きやすいスニーカーの選び方とは?

しっかりホールドし、足を疲れさせないスニーカーを選ぶことがポイント。
しっかりホールドし、足を疲れさせないスニーカーを選ぶことがポイント。

園原さんからのアドバイスにも、シューズ選びが大切とありました。では、実際にお店で購入するときに、どんなスニーカーをチョイスしたら良いでしょう。自分に合うものかをすぐ見極めるためのコツを、機能とデザインを兼ね備えるシューズメーカーfitfitのスタッフに聞いてみました。

「シューズショップのスタッフとして、実際に履いていることでお客様に細かくおすすめやアドバイスができるため、お店でも外でも日常的に歩きやすく疲れにくいシューズを選びます。特に店頭では常に歩いている状態なので、足の疲れを防ぐためです。

かかと部分に芯がありきちんと足をホールドしてくれるスニーカーであれば、ウォーキングも十分にできます。靴紐をしっかり結ぶことでより足がホールドされ、歩きやすくなります。更に軽いスニーカーであれば、ふくらはぎなど足が疲れづらいのでおすすめです。

スニーカーを選ぶときはトータルコーディネートを考えつつ、スポーティすぎず女性らしいデザインのものを選ぶのもおすすめです。気に入ったデザインのウォーキングに兼用できるスニーカーは一足あると、使い勝手がよくとても便利です。

毎日1時間~2時間のウォーキングをする場合、屈曲性があり、歩く時の衝撃を吸収しやすい厚めのソールのスニーカーがおすすめです。靴紐がないタイプのスニーカーの場合は、しっかりした厚地素材の靴下を履いて足が靴の中で動かないよう、ホールド感を高めてあげるとより疲れにくくなります

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これなら重い腰を上げて頑張れそう!と思えた人も多いのではないでしょうか。感染予防を気にかけながらも短時間で効率的なウォーキングなら、習慣にできそうですね。

気温と風の気持ち良い季節にもなったので、正しい歩き方とシューズ選びで、巣ごもり太り解消のためにもウォーキングを始めてはいかがでしょうか。

この記事の執筆者
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EDIT&WRITING :
Sachi Tamura