都市封鎖の段階的な解除が進む、イタリア・トリノの現状とは

新型コロナウィルスの感染拡大により、2020年3月9日から7週間施行されていた都市封鎖も、現在は段階的な解除の最中にあるイタリア。

5月4日からは、製造業、建設業、卸業の経済活動が再開され、5月18日からは、レストランやお店なども営業を再開。解除後の刻一刻と変わる街の状況、日本のみなさんへのメッセージをお届けします。本記事ではトリノ在住のメディア&イベントコーディネーター・西村清佳さんにお話を伺います。

西村さんはイタリアで最も歴史のある建築誌カサベラ・ジャパンへの記事の寄稿や、ミラノ・サローネやヴェネツィア・ビエンナーレなど世界規模のデザインや建築イベントへの日系企業やデザイナーの出展サポート、イタリアの国際建築賞のプロモートなどのコーディネートを手掛けています。

西村 清佳さん
メディア&イベントコーディネーター
(にしむら・さやか)東京芸術大学大学院修士課程建築理論専攻修了。トリノ在住。2000年にイタリア政府給費留学生として渡伊、ジェノヴァ大学建築学部で都市形成史を学び、その成果をイタリア文化事典(丸善出版)へ寄稿。留学時にはレンゾ・ピアノの子会社にオープンデスクとして出入りしながら、日本のコンペにも複数参加。2015年ミラノ万博では日本館のイベントプレゼンテーターとして、多数の自治体の伝統産業をイタリアで発信する活動に関わる。私生活では、1910年建造の工場跡のルーフトップのロフトを購入し、目下マイホームへリノベーション工事中。その進捗状況やイタリアのインテリアのトレンドをインスタグラムにて発信中。Instagram

【その1 アルバ編】ロックダウン段階的解除中のイタリア。豊かな食文化を誇るピエモンテ州・アルバの現状は?

Q1:ロックダウン解除後のトリノの街の様子、心境を教えてください。

「イタリアは5月4日で隔離政策が終わり、段階的に解除が始まっています。まずはじめに家族や恋人に会いに行ってもよいことになり、全国的に閉鎖されていた公園が再び開き、服飾や自動車、建設現場などから産業活動も始まりました」

●5月5日時点

「2か月篭り続けたあと、初めて家の近くの公園へ散歩に出たときは本当に恐々でした。公園はマスクした市民であふれかえり、みんな外の空気を思う存分吸えるのを本当に心待ちにしていたのだと思います。

それでも『また状況が悪化すれば元の木阿弥』という恐怖感はどこかにありました。私の住むピエモンテ州はイタリアでも全国で2番目に感染者数の多い州でしたので、『ピエモンテ州だけ再びロックダウン』という可能性も大いにあったのです」

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「自宅の近くサヴォイア王家がポー川のほとりに建てた世界遺産の城は相変わらず美しく、街中の王宮から2kmも離れてない地に別荘を建てさせた昔の人に思いを馳せてみました。きっとその2km圏内で一生を終えた人なんて幾らでもいたはず。そして、それでも幸せだったのかもしれないとも」

Q2:恋人に会いに行ってもよいというルールに、その定義について議論が湧いたと聞きました。

「イタリアは事実婚のカップルも多いため、家族に限ると厳しすぎるので『恋人』という表現になったのだと思います。実際のイタリア語は『恋人』という直接的な表現ではなく、『親密な間柄』という言い方なのです」

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恋人に会いに行った男性が、女性に「ごめんなさい、あなたのことはお友達としてしか考えられない」と言われ、警察が「おい、あいつを捕まえろ!」と言っているブラックジョークも

●5月23日時点 

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飲食店が営業再開して初めての週末の広場は、テラス席が満席

「2週間後の5月18日には隔離解除がさらに進み、そのときに初めて「収束に向かっている」という実感がもてました。最初は6月までは開かないといわれていた美容院なども前倒しで営業可能になったり、飲食店も店内のソーシャルディスタンスやマスク着用義務、消毒液の設置などの条件をクリアしたうえで営業できることになったりと、街は一気に活気づいています。

ただイタリアの初夏の気持ちよい気候があと押しして、週末はあまりに多くの人が街にあふれかえっていたということに、疑問と不安の声も聞かれます」

Q3:解除前と後で、変わったこと、変わらないことを教えてください。

【変わったこと】

「イタリアにはマスクをする習慣がありませんでしたが、2か月の間にすっかり定着しました。今では店内に入るときやバスなど公共機関での移動、オフィスなど他人と室内で対面する場面で義務付けられています。まだまだ見慣れませんし、これから暑くなるにつれて徐々に面倒臭がる人も増えることでしょう。

そのルールの捉え方に対する個人個人の温度差で、多少の軋轢は既に生まれているようです。またソーシャルディスタンスを保つために、家族や友達の間柄でも、今までは普通だったハグや握手などのスキンシップが、今となっては見られなくなりました」

【変わらないこと】

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「車の交通量」居住州内の移動が自由になり、初めて迎えた週末の高速道路

「隔離中は街中が鎮まり返り、スモッグも減って空気が綺麗になったといわれていますが、あっという間に車の交通量は元通りに戻りました。

今後の都市生活では自転車での移動を推奨すべく、車道の一番歩道寄りレーンを自転車走行用にして速度制限を大幅に下げたり、自転車の購入に補助金が出る、などさまざまな取り組みも見られます」

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隔離期間中、毎日手入れしていたバルコニーは花が満開

「思えばバルコニーに出て行うフラッシュモブが流行ったり、バーチャル飲み会が普及したり、一斉にイタリア全土で手打ちパスタとパンとピザ祭りになったり、ストリーミング配信のライブやトークショーにインタビューが行われたり、ソーシャル上のxxバトンが回ったりと2か月の間に色んなフェーズがありました。もうそのどれも過去の記憶で、遠い目になってしまいます。

リアルで友達でなければ、距離が関係のないバーチャルでも結局は会わない訳で、人との距離感も変わったようで実は変わってないのではないか、と思ったりもしました」

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営業再開したバールのカプチーノにブリオッシュ。ロックダウン前の日常が最高の贅沢に。「バリスタとのたわいもない会話のありがたみを感じた」とも

「隔離解除後、ようやく開いたバールに行きました。バリスタの淹れてくれたカプチーノは本当においしく、贅沢に感じられました。ずっと行くことのできなかった和食材のお店への買出しでも、例えようのない満足感を得ました。2か月前までは当たり前だった日常の喜びが、今改めて与えてくれる感情を忘れないように、SNSなどで書き留めています」

Q4:リノベーション中だった新居の工事が中断されていたそうですが、解除後の状況を教えてください。

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新居に久しぶりに「会う」ときめき。

「隔離解除後すぐに、ずっとストップしていた新居の現場工事も再開し、週末になってから様子を見に行きました。自分の家に行くことすら出来ない状況から抜け出せたことに、本当に感無量でした。

足を運ぶまでどんな状況なのか不安でしたが、窓からの風景はすっかり新緑の季節になり、ロックダウンの前日まで業者さんがきっちり作業してくれていた様子に泣けて、長いトンネルのゴールがようやく見えた気がしました」

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新居の工事も出来ることは自分で

「ソーシャルディスタンスを保って安全を確保するうえでも、現場に5人も職人さんを入れるわけにはいかないので、交通整理が私の仕事です。安全第一で、日替わりで作業してもらうようにしています」

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工事現場の職人さんもマスク必須で、中に入れる人数制限付き

Q5:身近な方の訃報があったとのこと。可能な範囲でお聞かせください。

「義従妹らのお祖父さんが亡くなりました。最期まで会えずにまともにお葬式もあげられず、辛かったろうと思います。

また、長年修行している居合道でお世話になった日本の先生が、亡くなられました。最後にお会いしたのは昨年11月。まだまだお元気で、20代のイタリア人も全く歯が立たない俊敏さでした。ほかにも友人の親御さんなど、複数います」

最後に、読者の皆さんにメッセージをいただけますでしょうか?

「軟禁されていたときは、『腹括って家に籠る』と決めたので、それなら、その状況でどれだけ快適に過ごそうか?と、ある意味シンプルなマインドのシフトで対応できました。

ですが今後は、『まだ元通りにはならない部分に対する違和感や虚無感と、どう折り合いを付けていくのか』や、『今までの非常識が今後は常識になる』と、考え方をシフトしなければいけないのかもしれません。

個人的には既にキャンセルになった上半期の仕事、現時点では自由に往来できない空の旅、イタリアでは常識だったハグや握手などのスキンシップなどは、いつの日か戻ることを信じています」

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2か月半ぶりに夫の家族と再会。見慣れないマスク姿にハグも出来ない違和感

「また、隔離生活の間は自分で思っている以上に運動不足で体が鈍っています。私も毎日、家でのエクササイズは欠かさず体調管理は怠らなかったつもりでしたが、解除後いきなり5日連続で工事現場に通ったら、体力がついてきませんでした。

『今までは毎日普通に出来ていたこと』が、急に出来なくなっていても焦らずに、徐々に体を慣らすことも大事だと思いました」


ロックダウン解除直後は、「パンパンに空気の入った風船を抱えたまま、外出している気持ち」と張り詰めた緊張感について表現されていた西村さん。それはわずか20日前のことで、その後の街の変化のスピードにはただ驚くばかりです。

段階的解除を進めるイタリア・トリノの現状。お話を伺い、まるっきり元どおりには戻らない日常への違和感や、自分自身の変化にも丁寧に向き合いながら、それぞれが前を向いて進んでいることが伝わってきました。

この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM