新型コロナウイルス感染拡大防止のため、全国でさまざまなイベントが影響を受けましたが、中でもショッキングだったのは、東京オリンピック延期と高校野球春夏の甲子園大会の中止。

スポーツファンにとっても残念な出来事でしたが、他ならぬ選手こそが多大な精神的ダメージを受けたことは想像に難くありません。人生をかけて血のにじむ努力を重ねてきたはずなのに、それがコロナ禍のせいで水泡に帰すなんて……。

ただ、五輪メダリストや甲子園球児への指導も行っているメンタルコーチの飯山晄朗さんによれば、一流のアスリートたちは決して腐ることなく、“次”を見据えて粛々と自己鍛錬に励んでいるとのことです。

人間の真価は順風満帆のときよりも、困難を迎えたときそこそ問われるもの。コロナの影響でさまざまな予定が狂い、モチベーションが低下しかけている人たちにとって、彼らのメンタルコントロール術は大いに参考になるのではないでしょうか?

そこで、飯山さんから一流アスリートが実践している“どんな逆境でもモチベーションを保つ方法”についてお話をうかがいました。

一流アスリートが実践する「どんな逆境でもモチベーションを保つ方法」6選

■1:自分にとって究極の目標は何か考える

「何のためにその目標を叶えたいのか」突き詰める
「何のためにその目標を叶えたいのか」突き詰める

自分の実力・努力不足なら致し方ありませんが、世界的パンデミックという制御不能な出来事のせいで大会に出られない……。大会への意気込みが強ければ強いほど、メンタルに与える影響は深刻で、モチベーションが下がってしまうのも当然のことでしょう。

そうした選手たちに向けて、飯山さんは第一に、自分の目標の見直しを勧めているとのことです。

「甲子園に行きたかったのに……と落胆している選手には、『君はなぜ甲子園出場を目指していたの?』『どういう自分になっていたいの?』と問うています。

プロ入りを目指す生徒。野球は高校で終わりにするつもりの生徒。その中間的存在として、大学生や社会人になってからも野球を続けたい生徒……。人によっておかれた状況はさまざまですが、目標を深堀していくと、甲子園はあくまで手段であって、それ自体が目標ではないことに気づく瞬間があるのです。

たとえば、ある生徒には『やりきった充実感を得たかった』という動機がありました。やりきった充実感を得るのは、甲子園でなければできない、というわけではありません。

そのことに気づけば、『では、甲子園以外でどうすれば充実感を得られるのか?』『自分はどういうときに充実感を得ているのか?』という問いを立てることができ、突き詰めて考えていくと、徐々に自分のやるべきことが見えてきます」(飯山さん)

ビジネスの世界でも、「このプロジェクトを成功させたい」という表面的な目標の背景に「こういう自分になりたい」という動機があり、何が何でもそのプロジェクトでなければ……ということはないのでは? 計画などが頓挫してモチベーションが低下している人は、「なぜ自分はそれをやりたかったのか?」について、一度腰を据えて考えてみましょう。

■2:自分を取り巻く他者の存在を意識する

大切な人がいるから頑張れる
大切な人がいるから頑張れる

「自分は一体、何を目指していたのか、究極の目標を考えるときの手がかりとして、自分を取り巻く他者の存在を意識することは有効です。

人間は、“自分がどうしたいのか”と意識が自分にばかり向いていると、どうしても視野が狭くなってしまいます。また、自分の喜びのためだけだと、逆境や壁にぶつかったときに、モチベーションの限界を迎えやすいのです。

ですから、モチベーションの限界を感じたときには、家族や友人など自分の身近な人たちの存在を思い浮かべてみましょう。

たとえば、野球強豪校の3年生のこんなエピソードがあります。甲子園中止といっても、1年生、2年生ならば『今年がダメでもまた来年』と思えますが、3年生の彼にとってはもう“次”がない。失望した彼が再起するきっかけは後輩の存在でした。

自分がなぜ甲子園を目指していたのか。そう考えたときに、彼は『甲子園で活躍している姿を後輩たちに見せたかった』という思いに気づいたのです。

野球を通して、人に何かを伝えたい。それが真の目的であれば、甲子園出場の道が閉ざされたからといって、腐っているわけにはいきません。残りわずかな高校生活の中で、少しでも後輩に何かを託したい、野球部に貢献したいという強い気持ちから、彼の部活動への取り組む姿勢が変わりました」(飯山さん)

あなたの目標は自分のだけのものではなく、誰かを幸せにするためのものではないでしょうか? 心が折れそうなときは、あなたにとって大切な人の笑顔を思い出しましょう。

■3:自分の思いを自由に書き出す

自由に書き出すことで気持ちが整理できる
自由に書き出すことで気持ちが整理できる

「詳しくは後述しますが、モチベーションが下がったときには、自分のやりたいことについて人に話すのもおすすめです。ただ、人に話すためには、ある程度、自分の考えがまとまっていることが前提となります。

ですから、人に話す前に、まずは自分の思いを自由に書き出しましょう。

これは自分のために行う作業なので、どのように書くかこだわる必要はありません。誰かに見せるものではありませんから、『コロナの影響で、この先どうなるのかわからなくて不安だ』や『もう何もかも投げ出したい』など思い切り弱音を吐いた次の瞬間、『自分は絶対に●●を成功させる』と根拠不明な宣言をしてもいい。

実際にやってみると、『やりたくない』と『やりたい』が混在するなど、支離滅裂な内容になりがちですが、まったく問題ありません。自分で書き出して心の動きを可視化し、自分の中にある矛盾に気づき受け入れることこそが、この作業の目的です。

また、成功するには否定的な言葉をあまり使わないほうがいい、とよくいわれますが、この作業ではネガティブな言葉をどんどん書き出しても構いません。

ただ、1つだけ守ってほしいルールがあります。それは、最後は必ず『だから明日から~~する』と前向きな宣言でしめくくること。実は、脳には最後に出力した言葉を強く記憶する、という性質がありますので、どれだけネガティブな言葉を書き連ねても、最後の宣言しだいで脳をプラス思考に上書きすることができます。

『明日から~~する』の宣言内容は、大それたことではなく、すぐに実践できる小さな一歩が望ましいです。宣言したことをコツコツと実践して、『自分はできる!』というモチベーションを上げていきましょう」(飯山さん)

■4:何でもいいからまず「1」を積み上げる

毎日自分のできることを積み上げる
毎日自分のできることを積み上げる

自分の気持ちを整理したうえで、「明日から~~する」と宣言し、それをコツコツと実践していく。たしかに、自己肯定感やモチベーションアップにつながりそうですが、万が一、宣言通りに行動できなかった場合、「やっぱり自分はダメなんじゃないか」と自己嫌悪に陥り逆効果にもなるおそれも……。

この懸念について、飯山さんは下記のようにアドバイスします。

「自分で設定した『明日から~~する』を遂行できなくても、自分を責める必要はありません。できなかった原因は、気合や根性、能力不足など自分側ではなく、『明日から~~する』という設定のほうにあるのだと、割り切りましょう。

自分では小さな一歩のつもりが、実は欲張りすぎていたのかもしれないし、そもそも気持ちが整理できておらず、自分が本心からやりたくないことを設定していた、という可能性もあります。

ですから、なぜできなかったのかにフォーカスするのではなく、どうすればできるようになるのか、そもそも自分は何をしたいのか、もう一度、自分に向き合って気持ちを自由に書き出して、最後に『だから明日から~~する』と宣言しましょう。

そして、翌日、宣言したことを実践する。できなかったら、また自分と向き合って『だから明日から~~する』と再設定する。そうやって、自分がやり続けられることを見つけていけば、必ず小さな一歩が積み重なっていくでしょう」(飯山さん)

■5:自分がやりたいことについて人に話す

話しているうちにモチベーションアップ
話しているうちにモチベーションアップ

「モチベーションが下がっているときは、スポーツにしろ仕事にしろ、自分がやりたいことについて、人に話すのもいいでしょう。

というのも、脳は入力(思い・イメージ)よりも出力(言葉・動作)を信用する性質があるからです。頭の中で『やる気を出さなきゃ』とひたすら念じ続けるよりも、『自分はこんなことをやりたい、こんなふうになりたい』と言葉に出して人に伝えるほうが、よほどモチベーションアップ効果があります。

たとえば、コロナ自粛期間中、多くのアスリートが無料レッスン動画などを公開していました。あれは、視聴者のためというだけでなく、自分自身のためという意味もあったのではないかと思います。

レッスン動画を公開するからには、視聴者にその競技の魅力をアピールする必要がありますが、そのためには出演するアスリートは無気力な姿など見せられません。視聴者の気分を盛り上げるために、前向きな言葉で語ったり、楽しそうに競技に取り組んだりしているうちに、視聴者の誰よりも出演者のアスリートこそがモチベーションアップしたのではないでしょうか。

このように、ポジティブな姿勢で人に話すことにはメリットがありますが、ただ相手は誰でもいいわけではないので要注意です。たとえば、自分のやりたいことを話した結果、『何、そんな夢みたいなこと言っているの』『そんなことよりもっと大事なことがあるでしょ』など、腐すようなことを言われたらガッカリですよね。

話してみて、自分が元気になったり、何かヒントを得られたりする相手を選びましょう。もし、身近に適任がいないなら、プロのメンタルコーチやカウンセリングを受けるのも一考です」(飯山さん)

■6:気持ちの整理がつくまで休む

敢えて仕事から離れる
敢えて仕事から離れる

「モチベーションを保つには、目の前の目標の先にある真の使命を見極めることが大切ですが、そうはいっても目標が消えてなくなると、すぐには気持ちの整理がつかないもの。どうしてもやる気が起きないときは、しばらく休むのもいいでしょう。

というのも、モチベーションが低い状態で、無理に自分を奮い立たせようとしても、“やらなきゃ、やらなきゃ”と気持ちが焦るばかりで、ストレスをためこむことにしかならないからです。

たとえば、芸能人でも一定期間、活動休止するケースはよくありますよね。一旦、普段の仕事を離れて冷静に自分を見つめ直すことで『やっぱり自分はこれがしたい』と情熱が再燃するかもしれないし、まったく別の自分の可能性を見出すこともあるかもしれない。

ただし、気持ちの整理がつくまで、といってもある程度は期限を切らないと際限がなくなります。1週間、1か月、あるいは何か節目となるイベントまで、と腹を決めて、休止期間を設けましょう」(飯山さん)

目の前に大きな障害物が立ちふさがり前に進めない状態でも、今できることを1つずつ試したり積み重ねたりしていくことで、きっと道は切り開けるはず。一流アスリートの実践しているモチベーションアップ術をぜひご参考にしてみてくださいね。

飯山晄朗さん
メンタルコーチ・人財教育家
(いいやま じろう)銀座コーチングスクール認定プロフェッショナルコーチ。JADA(日本能力開発分析)協会認定SBTマスターコーチ。金沢大学非常勤講師。富山県高岡市出身。石川県金沢市にオフィスを構え、全国で活動している。主な著書に『『勝者のゴールデンメンタル』『超メンタルアップ10秒習慣』などがある。
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この記事の執筆者
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WRITING :
中田綾美