クルマの世界では、昔から同業他社や異業種とのコラボレーションが行われている。80年代ならダイハツ「シャレード・デ・トマソ」やいすゞ「ピアッツァ ハンドリングbyロータス/イルムシャー」(これは定番グレードとして発売)、同じくいすゞの「ジェミニ・コムサデモード」(限定車)というのもあった。それらとは時代も規模感も別次元の、英国ブランドによるコラボが誕生。それもアストンマーティンブランドで販売される、1000万円超えのスペシャルなバイクだ。

「アラビアのロレンス」も愛用していたブラフスーペリア

フレームはアストンマーティンと共同開発のカーボンファイバー製。
フレームはアストンマーティンと共同開発のカーボンファイバー製。
Vツインエンジンには可変ジオメトリーを持つターボチャージャーが備わる。
Vツインエンジンには可変ジオメトリーを持つターボチャージャーが備わる。

アストンマーティンがブラフスーペリアと組んで限定生産のスーパーバイク「AMB001」を開発中。英国好きには興味ぶかいニュースだ。限定生産のスーパーバイクで、ほとんどが専用パーツで組み立てられる。

ブラフスーペリアは、英国の伝統的なモーターサイクルのブランド。1919年にジョージ・ブラフの手によって創業され、多くのジェントルマンライダー(モーターサイクルでレースをするのが好きな富裕層)に愛された。

メーカーは、速度記録に挑戦するレコードブレイカーに熱心に取り組むいっぽう、「SS80」や「SS100」といった“名車”を送り出した。アラビアのロレンスとして知られたTEロレンスもブラフスーペリアを愛したひとりで、7台所有していたそうだ。

1940年まで続いたなかで、ブラフスーペリアのプロダクトいえば、大排気量のVツインエンジンが看板。復活したブラフスーペリアも同様に、997ccVツインをセリングポイントにしている。

現在のブラフスーペリアは、2013年に、再スタート。商標権を獲得した現在のオーナーがまずやったのは、SS100のコンティニュエーションモデル(当時と同じモデルを連続したシリアル番号で製造)を手がけると発表したことだった。

開発を担当するのは、社長として新生ブラフスーペリアを切り盛りするフランス人のティエリー・アンリネット。トゥールーズを本拠に「ボクサーデザイン」という二輪と四輪の開発会社を経営している。

バルキリーの技術などを応用して開発

カーボンファイバー製のフェアリングにもアストンマーティンのエンブレムと「AMB001」の名が入る。
カーボンファイバー製のフェアリングにもアストンマーティンのエンブレムと「AMB001」の名が入る。
フランス南西部のポー=アルノ・サーキットを使ってのテスト風景。
フランス南西部のポー=アルノ・サーキットを使ってのテスト風景。

今回のAMB001のベースになった997ccVツインエンジンも、アンリネットの指揮下で設計されたという。ターボチャージャーと組み合わされて134kW(180ps)の最高出力を誇る。アストンマーティンで空力など測定しながら開発されたそうだ。「こんなふうに作られたモーターサイクルはない」とアストンマーティンでは語る。

なぜ、アストンマーティンがブラフスーペリアと組んだのか。プロジェクトの旗振り役を務めているアストンマーティンのバイスプレジデントにしてチーフクリエイティブオフィサーのマレック・ライヒマン氏は「(ハイブリッドスーパースポーツの)バルキリーの技術などを応用してすばらしい製品が作れる」としている。

2020年6月からテストが開始された。「開発プログラムを順調にこなせれば、20年秋から生産に移れるでしょう」とライヒマン氏。アストンマーティンのウィングマークをつけたモーターサイクルという希有なプロダクトが誕生するのだ。

限定100台のみ作られ、価格は20パーセントの付加価値税を含めて10万8000ユーロ(約1300万円)という。モーターサイクルの世界でも高性能で高価格なスペシャルモデルが珍重されるなか、AMB001は世界屈指の存在になりそうだ。

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。