ファッションディレクター、萩原輝美さんの「趣味と仕事と人生が詰まった家」を訪問

萩原 輝美さん
ファッションディレクター
(はぎわら てるみ)世界のデザイナーコレクションを取材し、記事やコラムを執筆。大学や専門学校でファッションの講義も。2018年、「モードを楽しんできた大人の女性のための普段着」として、プロデュースを手がけるブランド「テン(ten.)」を立ち上げる。右写真のドレープトップスとデニムスカートは、2020春夏コレクションのもの。

シャネル、フェンディ、ヴァレンティノ…etc.本棚にはコレクション関連の美しいアートブックがずらりと並び、ソファやチェアの上には、鮮やかな柄のクッションが。

「この小さなクッションは、コレクションの際に各ブランドが用意してくださるギフトです。本棚の分厚いアートブック類は、コレクション後ホテルに戻ると部屋に届けられていることが多いですね。いずれにしても、粋な心遣いに毎回感動。必ず日本に持ち帰ります」

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愛用のソファは「カッシーナ」で購入。10年前、カバーをベージュから黄色に張り替えたとか。華やかな色や柄のエトロのミニクッションをアクセントに。シャンデリアはパリのアンティークショップでひと目惚れ。ドラゴンが描かれた鮮やかなラグはチベットの高僧が使用していたもの。白い犬のぬいぐるみたちは、パリの「ホテルムーリス」のマスコット。

ファッションディレクターの萩原輝美さんは、パリやミラノ、N.Y.など、シーズンごとに世界中を飛び回り、コレクションを取材し続けて30年。

フェンディのアートブック。金網ボックスの中には、乙女心をくすぐるカードが。
フェンディのアートブック。金網ボックスの中には、乙女心をくすぐるカードが。
仮面舞踏会がテーマのブルガリのパーティでつけた仮面。
仮面舞踏会がテーマのブルガリのパーティでつけた仮面。

「趣向を凝らした美しいインビテーションカードやブックはなかなか手放せなくて。デザイナーたちの想いやブランドのストーリーが詰まっているから、頻繁に見返すわけではないけれど、ずっと手元に置いておきたいんですよね。だから、ものは増える一方です(笑)」

仕事部屋とリビングを分けた、開放的な部屋づくり

フリーとして独立したころ、利便性がよく、日当たりのいい物件を探していたときに出合ったのがこちら。敷地内にある大きな桜の木と、広々としたベランダ、仕事部屋とリビングを明確に分けられるデュプレックス(メゾネット)が決定打に。

開放的な吹き抜けが心地よいスペース。
開放的な吹き抜けが心地よいスペース。
仕事部屋の一角にあるフィリップ・スタルクのカフェテーブルと椅子。「パリのレ・アール地区にあった伝説的カフェ『コスト』が、かつて東京にもあったんです。当時、ファッションピープルのたまり場でした。閉店の際、このセットを譲り受けました」。エミリオ・プッチのクッションとトルコで見つけたキリムを合わせて。
仕事部屋の一角にあるフィリップ・スタルクのカフェテーブルと椅子。「パリのレ・アール地区にあった伝説的カフェ『コスト』が、かつて東京にもあったんです。当時、ファッションピープルのたまり場でした。閉店の際、このセットを譲り受けました」。エミリオ・プッチのクッションとトルコで見つけたキリムを合わせて。

サイズや収納力にもこだわって

「コレクションがらみのアイテムや衣装、小物など、とにかくものが多いので、まずは4LDKから2LDKに改築。サイズや収納力にもこだわって、本棚やクローゼットなど、知り合いのデザイナーに一からつくってもらいました。この家は、見た目以上に、収納スペースがあるんですよ」

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仕事部屋の本棚も特注品。こちらには仕事に必要な辞書や辞典、書類などが並ぶ。
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特注した寝室のクローゼット。
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「いちばんこだわったのは、手袋と帽子の収納です。それぞれ美しく、使いやすく収まるよう、調整してもらいました」。100枚以上ある手袋用の引き出しは高さ約9㎝、手前をガラスにして中が見えるように。上から、色系、ベージュ&茶系、黒&柄系に仕分け。
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帽子は夏用と冬用に分けて収納。中央の化粧台の鏡は扉になっていて香水などを収納できる。

「人の温もりを感じるものやストーリーのあるものに魅かれます」(萩原さん)

昔から、ファッションはもちろん、家具やインテリアなど、好きなものはあまり変わらないという萩原さん。

「ピシッと端正な美しさがあるものよりも、どこかお茶目でクスッと笑ってしまうようなものが好きなのかもしれません。人の温もりを感じるものやストーリーのあるものに魅かれます。なくても生きていけるけれど、あるともっと幸せな気持ちになるもの。ファッションもある意味、そうですよね。必要最低限、身を包めればそれでいいのかもしれないけれど、それじゃちょっと物足りないでしょう?

カシミアブランドMaloのテディベア。「バンダナを巻いたり、メガネをかけたり。ついアレンジしてしまいます(笑)」
カシミアブランドMaloのテディベア。「バンダナを巻いたり、メガネをかけたり。ついアレンジしてしまいます(笑)」
ひとりがけの椅子を探していたとき、日本で開催されたパリ・アンティークフェアで発見したロッキングチェア。ミニクッションはマノロ・ブラニクのコレクションギフト。
ひとりがけの椅子を探していたとき、日本で開催されたパリ・アンティークフェアで発見したロッキングチェア。ミニクッションはマノロ・ブラニクのコレクションギフト。
乗馬も嗜む萩原さんは、馬のアイテムに目がないとか。これはジョン・デリアンが手がけたプレート。
乗馬も嗜む萩原さんは、馬のアイテムに目がないとか。これはジョン・デリアンが手がけたプレート。

だから私、最近の断捨離ブームにはもの申したい派(笑)。他人にとってはムダなものでも、その人にとって人生のメモリーが詰まっているなら、捨てられないものがあってもいいじゃない? 自分の感性を信じて大切にものを選びたい。好きなもの、愛着のあるものを眺めながら、来た道を振り返って『ウフフ』と微笑む時間が至福のとき。インスピレーションの源にもなるんです」

アートブックやインビテーションカードが飾られた本棚。
アートブックやインビテーションカードが飾られた本棚。
「眺めていると、その時代のデザイナーのイメージソースに触れることができ、当時のコレクションを思い出します。同時に、そのときの自分の仕事も振り返ったり…。やっぱり、捨てられませんね」
「眺めていると、その時代のデザイナーのイメージソースに触れることができ、当時のコレクションを思い出します。同時に、そのときの自分の仕事も振り返ったり…。やっぱり、捨てられませんね」
エメラルドグリーンの花瓶は、イタリア屈指のヴェネツィアングラスブランドVENINIのもの。リビングのフロアライトと合わせてイタリアで購入。
エメラルドグリーンの花瓶は、イタリア屈指のヴェネツィアングラスブランドVENINIのもの。リビングのフロアライトと合わせてイタリアで購入。
晴れた日はベランダでほっとひと息。グリーンの麻のワンピースも「ten.」。
晴れた日はベランダでほっとひと息。グリーンの麻のワンピースも「ten.」。
PHOTO :
長谷川 潤
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)