女性キャラクターが光る、真夏の夜に観たい上級ミステリー映画3選

映画ライターとして多くの映画に触れている坂口さゆりさんが、女性キャラクターが光る真夏の夜にぴったりな上級ミステリー映画をご紹介します。

ホラーやサスペンスといった怖い映画が苦手という方には、女性の存在感に惹きつけられる上級ミステリー作品をおすすめします。そこで、今月おすすめするのは、『ブラック・スワン』『アザーズ』『ドラゴン・タトゥーの女』の3作品。どれも真夏の夜に冷やっとできる傑作映画です。

【今月のテーマ】求心力のある女優が誘う上級ミステリーで冷やっとする夏を!

新型コロナウィルスの流行の余波を受け、今月も旧作からピックアップ。真夏の夜にゾゾッとするような、女性を主人公にしたミステリー、サスペンス映画を紹介します。

今回挙げた3作のなかでも、最も霊的に怖い映画といえば『アザーズ』。でも、単に怖いだけでなく、切ない物語に感動を覚える映画でもあります。

次々と怪奇現象が起こる屋敷を舞台にした『アザーズ』

『アザーズ』
Photo:Moviestore
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『アザーズ』
イギリスとフランスの文化が混ざり合うチャネル諸島にあるジャージー島を舞台に、屋敷で次々と起こる奇怪現象に悩まされる母子の姿を描く。2001年、米・仏・スペイン。 監督:アレハンドロ・アメナーバル 出演:ニコール・キッドマン、フィオヌラ・フラナガンほか。/現在は、レンタル・中古での取り扱い。

舞台は1945年、第2次世界大戦終戦直後のチャネル諸島ジャージー島。グレースは古ぼけた大きな屋敷で娘と息子と3人暮らし。子供たちは太陽の光を浴びると害になる病を患っているため、屋敷の中はいつも薄暗いままです。グレースは出征したきり帰ってこない夫を子供たちと待ちながら、不安な日々を過ごしているのでした。そんなある日、かつてこの屋敷で働いていたという3人の使用人を雇い入れることに……。

屋敷という舞台、ごく少数の限られた登場人物。この映画はある種、演劇のような味わいがありますが、グレースを演じたニコール・キッドマンなしには成立しません。常に緊張し、美しくもヒステリックで不安げで、次々と起こる奇怪な出来事に怯えるグレース。そんな彼女にいかに観る者が同化できるか。俳優としての力量を痛感させられる一本です。

ニコールの演技に圧倒されたら、今度は『ブラック・スワン』はいかがでしょう。主演はナタリー・ポートマン。人間の心の闇に迫る映画ですが、ナタリー演じるニナが自分自身を追い詰め、壊れていく姿にゾッとします。

人間の心の闇を描いた『ブラック・スワン』

『ブラック・スワン』
©2010 Twentieth Century Fox Film Corporation.All rights reserved.
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『ブラック・スワン』
バレエ「白鳥の湖」の主演に抜擢された優等生のニナ。しかし、公演に向けてのプレッシャーやライバルたちへの猜疑心から、しだいに精神が崩壊していく心理スリラー。2010年、米。 監督:ダーレン・アロノフスキー 出演:ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニスほか。/U-NEXTにて配信中。

ニナはある日、バレエ「白鳥の湖」の主演に抜擢されます。それは、バレエひと筋で生きてきた彼女にとっては最高の喜び。しかし、そんな喜びも束の間、純粋で生真面目な性格のニナは純な白鳥は完璧に踊れても、悪の象徴でもある官能的な黒鳥役がなかなかつかめません。芸術監督からの度重なるダメ押し、公演のプレッシャー、魅力的なライバルへの猜疑心、そして元バレリーナである母からの過剰な干渉や期待……。さまざまな要因が絡み合って、ニナの心をどんどん追い詰めていきます。

ただでさえおどおどしたか弱いニナが、幻覚と妄想に囚われ精神を狂わせながらなだれ込むラストシーン。そのスピード感に心臓バクバク。日々急き立てられるように働く私たち現代人には考えさせられる……。極めて現代的なテーマです。

記者と天才ハッカーがタッグを組んで猟奇殺人の謎を解く『ドラゴン・タトゥーの女』

『ドラゴン・タトゥーの女』
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『ドラゴン・タトゥーの女』
大物実業家の武器密売をスクープしたものの、名誉毀損で訴えられ裁判で敗訴した記者のミカエル。その判決を覆すため、別の大物実業家からのある依頼を受け、天才ハッカーのリスベットに協力を求める。20011年、米。 監督:デビッド・フィンチャー 出演:ダニエル・クレイグほか。/U-NEXTにて配信中。

自分の書いた武器密売の特ダネで訴えられた記者が、天才ハッカーとともに猟奇殺人の謎を解く大ヒット北欧ミステリー小説を映画化した『ドラゴンタトゥーの女』。この小説はシリーズ3作が先にスウェーデンで映画化されていましたが、ここで紹介するのは、『セブン』や『ファイト・クラブ』『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』などで知られるデビッド・フィンチャー監督作品です。

いくつものサスペンスを抜群の映像センスで手掛けて来たフィンチャー監督。薄暗い北欧の雰囲気をどう出すのか興味津々でした。エグいシーンはあるものの、極上のミステリーを楽しめます。主人公はダニエル・クレイグ演じる記者のミカエルですが、注目して欲しいのは、物語のタイトルにもなっているドラゴンタトゥーの女。ミカエルの“助手”となる天才ハッカー・リスベット役のルーニー・マーラです。

背中にドラゴンの入れ墨、眉や鼻に施されたピアスなど、ただならぬ雰囲気を醸すリスベット。凄惨な過去をもち、人との距離を取る彼女ですが、ハッカーとしては彼女の手にかかれば機密情報もたやすく手に入ってしまうほどの凄腕。やがてアシスタントの域を超え、ミカエルをリードするがごとくの活躍に胸が躍ります。少しずつ人との距離を縮めていくリスベットですが、彼女の思いを引き裂く、物悲しいラストシーンも忘れ難い映画です。

そのほか、『羊たちの沈黙』のジョディ・フォスターや『L.A.コンフィデンシャル』のキム・ベイシンガーも機会があればぜひ。特に、『L.A.コンフィデンシャル』は警察内部を描いただけに登場人物は男性が中心。そこに「掃き溜めに鶴」か「泥中の蓮」がごとく輝くキム・ベイシンガーは圧巻の存在感。公開当時「私もリン(ベイシンガーの役名です)になりたい!!」と興奮したことを思い出します。

ホラーやサスペンスといった怖い映画は個人的には苦手。でも、女性の存在感が光る映画はやはり面白い。怖い映画が苦手、という読者の皆さんも、魅力的なヒロインたちに出会ってみてはいかがでしょうか。

 

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この記事の執筆者
TEXT :
坂口さゆりさん ライター
BY :
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生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画をはじめ、芸能記事や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。最近いちばんの興味は健康&美容。自身を実験台に体にイイコト試験中。主な媒体に『AERA』『週刊朝日』『朝日新聞』など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』ほか。 好きなもの:温泉、銭湯、ルッコラ、トマト、イチゴ、桃、シャンパン、日本酒、豆腐、京都、聖書、アロマオイル、マッサージ、睡眠、クラシックバレエ、夏目漱石『門』、花見、チーズケーキ、『ゴッドファーザー』、『ギルバート・グレイプ』、海、田園風景、手紙、万年筆、カード、ぽち袋、鍛えられた筋肉
PHOTO :
Moviestore、©2010 Twentieth Century Fox Film Corporation.All rights reserved.、© 2011 Columbia Pictures Industries,Inc.and Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.
WRITING :
坂口さゆり(映画ライター)
EDIT :
宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)