未来ある球児へ贈った、伊集院先輩からのエール

新型コロナウイルスの影響で、高校球児の目標である夏の甲子園大会が中止となった。甲子園の舞台に立つことを夢見て、白球を追い続けてきた球児たちの失意はいかほどであろうか…。

彼らの想いに報いるため、各都道府県では代替大会などが開催され、各方面から励ましのエールが届いている。そこで今回は作家・伊集院 静氏が、母校の3年生野球部員のために贈ったサインボールに記した言葉を紹介したい。

その想いは母校の野球部員のみならず、全国の高校球児に、目標としていた大会が中止となってしまった他競技の高校生にも、そして、新型コロナウイルスによるさまざまな困難に直面する人々にも届けたいエールだからだ。

サインボールと手紙
伊集院氏直筆のサインボールと手紙の原稿。伊集院氏は毎夏、防府高校野球部に試合用ボールを寄贈し続けている。

サインボールに記した「自己実現」という言葉に込めた想い

伊集院 静
2020年1月、くも膜下出血のため緊急入院したが奇跡的に回復。現在では週刊誌の連載など執筆活動を再開している。

伊集院 静、言わずと知れた大人気作家である。

自身も幼少期より野球に打ち込み、防府高校野球部で甲子園を目指していた。その後は立教大学野球部でも活躍したが、怪我のため選手生活を断念せざるをえなかったという。

また、成人の日には新成人に向けて、4月には新社会人に向けて、サントリーの新聞広告で若者たちに毎年エールを贈っていることは有名な話だ。

そして今回は、母校である山口県立防府高等学校の野球部OBから依頼を受けて、3年生野球部員10名それぞれに、「自己実現」と記したサインボールとその言葉に込めた想いを綴った手紙を贈った。

その手紙の内容が以下である。

2020年 防府高校 野球部員 諸君へ

諸君、在校3年の中で、2年と半年を野球部員として活躍し、厳しいトレーニングにも耐えてこられたことに讃美とお礼を申し上げます。ご苦労さま、ありがとう。

今回、OBの方から、コロナ禍で甲子園予選が中止になった諸君に、私の方からメッセージを貰えないか、と要望され、諸君に一文、一節を贈ることにしました。

“自己実現”という言葉は、1967年当時、野球部での日々を終え、上京する私に、野球部長の先生から頂いた言葉です。

これは哲学用語であります。

自己すなわち自分を、実現すなわち何かを獲得することです。

私たちは何のために、この世に生を受け、そして一生涯をかけて何をなしたらいいのだろうか?

これはすべての人、若者の命題です。

どんなカタチであれ、この世に誕生したのは何かの意味、意義があったはずです。そのことを今回、このボールを手にした機会に考えて欲しいのです。

Where there is a will, there is a way. です。

意志あるところに必ず道は拓けます。

将来、諸君が歩いている道がどんなものであれ、高校の2年半余り、熱い太陽の下、風、雲、雨の下で懸命にして来たことは、諸君、身体、精神の筋肉となっています。今は自分のことで精一杯でしょうが毎日一生懸命に何かに向かって走り続けていれば必ず実(みのり)があるはずです。

それが“実現”です。

自分自身の足らぬ所、一人よがりの所、弱虫の所、そういうものから目を逸らさず、一歩一歩進んで下さい。

そうすればいつか、“自己実現”がかないます。

伊集院 静
2020,7,12 仙台にて

本_1
防府高校野球部3年生部員10名に贈ったサインボールにはそれぞれの名前と「自己実現」の言葉が記されていた。

「やまぐち2020メモリアルカップ夏季高校野球大会」の開催期間中、この手紙とサインボールをサプライズで受け取った野球部員たち。憧れの大先輩からの励ましの言葉、一人ひとりの名前が丁寧に記された深い愛情にみな感謝したという。

防府高校野球部は惜しくも2回戦で敗退し、彼らの高校野球生活は終わってしまった。

しかし、彼らの胸に刻まれた「自己実現」の言葉は、彼らの未来を明るく照らしてくれるに違いない。

Where there is a will, there is a way. 

意志あるところに必ず道は拓ける。


 
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