「リストランテ・ホンダ Ristorante HONDA」本多哲也シェフは1968年生まれ。フランス経由でイタリアに渡ったのが1997年なので、わたしとほぼ同じ道を歩んでいたことになる。1998年にはミラノの「アイモ・エ・ナディア Aimo e Nadia」「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ Antica Osteria del Ponte」で研鑽を積んで日本に帰国。片岡護シェフの「アルポルト」で5年間セコンドシェフを務めたのちに独立、「リストランテホンダ」をOPENした。

12年連続1つ星獲得!リストランテホンダの真価

イタリア料理界屈指の美男子である本多シェフ。料理はもちろん、その明るいキャラクターもリピーターに好まれる人気の秘密かと。
イタリア料理界屈指の美男子である本多シェフ。料理はもちろん、その明るいキャラクターもリピーターに好まれる人気の秘密かと。

以来ミシュラン東京で今年まで12年連続1つ星を維持。同じく13年連続1つ星の「ピアット・スズキ Piatto SUZUKI」と並び、東京で最も評価が高いイタリア料理店である。

過日ランチ時に訪れると平日昼にも関わらず満席。テーブル間には特注の衝立が並べられていたが、それが逆に個室のような雰囲気を上手に演出していた。ディナーメニューは3種(8,500円、11,000円、15,000円〜)なのだがランチコースは2種(5,000円、8,000円)とリーズナブル。この日は5皿からなるプリフィクス5,000円のコースを試した。

縦横無尽に素材を組み合わせた料理の数々

最初に登場したストゥッツィッキーノ(イタリア語でアミューズに意味)は「鶏のレバームースとトスカーナ産ラルドのクロスティーノ」。薄切りの豚の脂身と鶏レバー、カリっとした薄切りトーストのコンビ。
最初に登場したストゥッツィッキーノ(イタリア語でアミューズの意味)は「鶏のレバームースとトスカーナ産ラルドのクロスティーノ」。薄切りの豚の脂身と鶏レバー、カリっとした薄切りトーストのコンビ。

食前酒は「Cavalleri(カヴァッレーリ)」の「Franciacorta(フランチャコルタ)」のBrut Blanc de Blancs、サテンではないのだが白ぶどうのみで作るフランチャコルタは豊かな酸と、本来ないはずのピノ・ネロを思わせる果実味もある。最初に登場したストゥッツィッキーノ=アミューズは一口サイズのトーストしたクロスティーノ。トッピングは滑らかな鳥のレバームースとトスカーナ産の薄切りラルド。パンはトスカーナタイプではないのだが、トスカーナを思わせる組み合わせ。フォワグラのような鶏レバーの甘みとラルドの塩味のコントラスト。

なんとも美しい前菜は「島根産サザエとトマトのジュレ、肝ムース」。緑色のスプーマの下にはサザエやジュンサイなどが隠されていて、小さなスプーンで掘り進んいくうちいろいろな味に出会える仕掛け。
なんとも美しい前菜は「島根産サザエとトマトのジュレ、肝ムース」。緑色のスプーマの下にはサザエやジュンサイなどが隠されていて、小さなスプーンで掘り進んいくうちいろいろな味に出会える仕掛け。

前菜に登場したのは「島根産サザエとトマトのジュレ、肝ムース」青いトマトの酸味、柔らかく火を入れたサザエ、さらにその下にはジュンサイ、最後に肝ムースという、重層的な構造。日本ならではの素材を生かした美しいプレゼンテーション。これにあわせたのはアルトアディジェから「Elena Walchcastel Ringberg Riesling2018(エレナ・ワルヒ カステル・リングベルグ リースリング2018)」エレナ・ワルヒは、以前、試飲会でピノ・ネロ100%のLudwigを飲んで以来のファンなのだが、このリースリングは青リンゴだけでなく、より、エーデルワイスなど高山系植物の香りにとみ、酸もはっきりしたドライな辛口。サザエの肝のコクをすっきりと洗い流してくれる、キレ味ある後口。

やはりスパゲッティがなくてはイタリア料理ははじまらない。こちらは固めに仕上げた食感のスパゲテッティに濃厚な和牛のミートソースをあわせたもの。食べ始めたら止まらない。
やはりスパゲッティがなくてはイタリア料理ははじまらない。こちらは固めに仕上げた食感のスパゲテッティに濃厚な和牛のミートソースをあわせたもの。食べ始めたら止まらない。

続くパスタは「黒毛和牛とナスのボロネーゼ」上質な和牛肉から、最小限の脂だけ残したラグーは味わい深くトマトは最小限。肉の旨味が伝わるシンプルな構造でパスタはスパゲッティ。ラグーの下には丸ナスが隠されていた。

赤ワインはラベルに描かれた十四松が印象的な「Rosso di Montalcino Potazzine2017(ロッソ・ディ・モンタルチーノ ポタッツィーネ 2017)」このワインは初めて飲んだが標高420mの南西斜面、ビオのサンジョヴェーゼ・グロッソを使用した14%の赤。スミレ、ダークチェリーといったニュアンスと、強すぎないタンニンで飲み口は意外と軽やか。

イタリアの伝統的煮込み料理「ボッリート」が華麗に上品に変身して登場。ほろほろになるまで煮込まれた牛スネ肉をあじわいつつ、極上のコンソメを味わうという無限連鎖。
イタリアの伝統的煮込み料理「ボッリート」が華麗に上品に変身して登場。ほろほろになるまで煮込まれた牛スネ肉をあじわいつつ、極上のコンソメを味わうという無限連鎖。

セコンドは日替わりの肉料理から「和牛スネ肉のボッリート」。ナイフを入れただけでほぐれる柔らかい牛肉は実にシンプルな味付け。付け合わせの野菜も最小限の火入れで、なによりも最後に注がれるブロード、というよりも極上のコンソメがなんとも美味しい。

時折フレークソルトと胡椒で味を整えて食べる。赤ワインは「EtnaRosso ERSE(エトナ・ロッソ・エルセ)」、「Tenuta di Fessina(テヌータ・ディ・フェッシーナ)」がネレッロ・マスカレーゼとネレッロ・カプッチョというエトナ山を代表する土着品種で作る赤ワイン。しかしこの2種のブドウは栽培地で大きく変わり、まるで火山岩から生まれたかのように火打石のごとく強烈にスパイシーなものもあれば、標高が高いところで栽培されたものは北のピノ・ネロを思わせるエレガントさが出るものもある。この場合は後者のタイプ。上品、洗練、滑らかでエレガント。

最後のドルチェまで「リストランテ・ホンダ」のコースは息つく暇がない。冷たいココナッツミルクのソルベにセミフレッド状のカタラーナ。マンゴームースと重層的な三連発。
最後のドルチェまで「リストランテホンダ」のコースは息つく暇がない。冷たいココナッツミルクのソルベにセミフレッド状のカタラーナ。マンゴームースと重層的な三連発。

ドルチェに選んだのは「完熟マンゴーのカタラーナとそのソルベ。セミフレッド状のアイスクリームの上にはカラメル=カタラーナ。添えられた完熟マンゴーソルベはとても滑らかでトッピングには液体窒素かパコジェットで凍らせたココナッツミルク。東南アジアを思わせる組み合わせの、とても夏らしいデザート。

テーブルからはガラス越しに忙しく働く厨房の様子が時折伺える。こじんまりとした空間にはわずか5卓。それだけに隅々まで気持ちが行き届いた料理とサービスがなんとも心地よい。
テーブルからはガラス越しに忙しく働く厨房の様子が時折伺える。こじんまりとした空間にはわずか5卓。それだけに隅々まで気持ちが行き届いた料理とサービスがなんとも心地よい。

洗練、上品、新鮮、そして時折顔をのぞかせるイタリアの伝統。懐広く、縦横無尽に素材を組み合わせて味を作り出す「リストランテホンダ」での午餐はそれはそれは素晴らしいものだった。4月の緊急事態宣言下でも休業せずに営業し続けていたという本多シェフだが、平日にも関わらず満席だった店内は、彼の料理を愛する人々がいかに多いか、を裏付けているし、そうしたゲストはいずれも上品な大人ばかりだったのも印象的だった。

青山の裏通りにあり、こじんまりとしていてまるでドラマに出てきそうなただずまい。「リストランテ」というカテゴリーで行く価値がある、また行きたいと思わせてくれるイタリア料理店は東京に何件かあるが、「リストランテホンダ」はそのうちの一件であることは間違いない。

問い合わせ先

※営業時間などの詳細は、店舗HPなどでご確認ください。

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この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。