ビールやワインと違い、温度によって異なる味の変化が楽しめるのが日本酒だ。冬なら熱燗、夏なら冷酒と季節によって飲み別けしたい。今の時期なら冷酒でキリッと1杯やるのがたまらなく美味い!ここでは気骨ある酒造りを貫くその6つの名蔵から、冷酒で飲んで美味しい日本酒を紹介する。

冷酒で飲むべき日本酒6選

福岡 白糸酒造|田中六五 糸島産 山田錦純米酒

田中六五
田中六五

瑞穂国という美称が似合う福岡県糸島市は、酒米のスター米、山田錦の産地として知られる。安政2年(1855年)創業の白糸酒造は、糸島市を故郷とし、蔵の周辺で収穫される米だけを使用する老舗酒蔵だ。

そこで造られるのが糸島産山田錦100%使用の「田中六五」。山田錦の田んぼに囲まれた蔵なので田の中、糸島産山田錦を65%精米するところから六五と命名されている。

白糸酒造では、搾り(醪を漉す工程)の全量を「ハネ木搾り」といわれる昔ながらの槽ふねで行う。圧搾機を使わず、ハネ木でゆっくりと搾ることで、優しくて繊細な味わいの酒が生み出される。「田中六五」をきりっと冷やして冷酒で頂くのがおすすめだ。ほんとうに旨い酒はどんな温度で飲んでも旨い。そんな言葉が正しいと感じる、しっかり筋の通った銘酒だ。


秋田 新政酒造|新政 No.6S-type

新政 No.6S-type
新政 No.6S-type

「新政」は、’80年代の地酒ブームの頃、秋田の辛口の酒として人気となった。しかし、若き8代目、佐藤祐輔氏が2008年に家業に就いて以来「新政」は大きく変貌を遂げた。

醸造アルコールの添加をやめて、純米造りに切り変えた。また、原料は秋田県産米と現存する最古の市販清酒酵母で、昭和5年に新政の蔵から採取された「きょうかい6号酵母」に限定するなど、数々の決断を重ねてきた。そして、冷酒で飲むべき「新政 №6 S-type」のボトルの鮮烈なデザインも、目に見えるレボリューションといえるのだ。

大胆に描かれた6の文字が、「新政」の唯一の定番生酒で、6号酵母の魅力をダイレクトに表現するラインであることを表現。この「S-type」はふくよかさとキレを兼ね備え、冷やすとさらに飲み飽きない、豊かな表情の味わいとなる。


宮城 大沼酒造店|乾坤一 純米吟醸 鈴風

乾坤一 純米吟醸 鈴風
乾坤一 純米吟醸 鈴風

蔵王山系の東側に位置する村田町で正徳2年(1712年)から酒造りを続ける大沼酒造店。宮城の地酒として愛され続ける「乾坤一」の醸造元だ。その名は、のるかそるかの勝負を意味する「乾坤一擲」に由来する。「乾坤一」の原料となる米の80%近くが、酒造好適米ではなく、宮城県産の飯米。1986年の宮城県酒造組合による「みやぎ・純米酒の県宣言」を機に挑戦した。食用米での酒造りは簡単ではなかったが、辛抱強く造り続け、今では乾坤一」といえばササニシキ(食用米)とイメージされるほどの蔵の個性となっている。

大沼酒造店は東日本大震災で築200年を超える蔵が半壊したが、昔の柱や梁を残して建て直し復活。原料米はササシグレ。ラベルは南三陸で人気のデザインブランド「M&B」の手になる


山形 鈴木酒造店長井蔵|磐城壽 夏酒吟醸

磐城壽 夏酒吟醸
磐城壽 夏酒吟醸

長井と浪江。鈴木酒造店はふたつの故郷をもつ。江戸末期に福島県浪江町で創業し、〝海に一番近い酒蔵〞として歴史を育んだが、東日本大震災で建物を流失。蔵は福島第一原発から直線距離7㎞の位置にあったため警戒区域の指定を受け、休業を余儀なくされる。山形県長井市に拠点を移した「鈴木酒造店長井蔵」としての初出荷は平成23年12月。浪江の人たちに愛されてきた代表銘柄「磐城壽」もふたつめの故郷から、文字どおり、壽の酒として出荷された。

水の郷といわれる長井では地内に湧く水が蔵の命。出羽の里などの酒造好適米を使用。アルコール13度台で仕上げた純米吟醸の原酒は軽やかで優しい甘みが特徴。「いぎなり、ひゃっこくして飲んでくんちぇ」。キンキンに冷やして飲むことをイメージした酒だ。


愛媛 石鎚酒造|石鎚 特別純米酒 夏純米 槽搾り

石鎚 特別純米酒 夏純米 槽搾り
石鎚 特別純米酒 夏純米 槽搾り

酒造りの全工程を指揮し、蔵人たちを統べる者が杜氏。伝統的に蔵元は、杜氏に酒造りを任せていた。

愛媛県西条市に蔵を構える大正9年創業の石鎚酒造は、昔ながらの杜氏制を平成11年に廃止した。蔵元家族を中心に工程を責任分担する体制で酒造りを始めて今年で18年目。ていねいな仕事を信条として、日本酒「石鎚」を醸し出している。

目ざすのは、きめ細かな酒質。一回の仕込みに使用する原料米の量を抑えた小さな仕込みに徹し、その全量を2基の槽により2日間かけてゆっくりと搾っていく。小ロットの季節商品などの充実が図られていることも、石鎚の特徴となっている。

地元、愛媛県産契約栽培米しずく媛100%。やわらかな味わいの「槽搾り」と石鎚らしさが詰まった手づくりの夏酒だ。


滋賀 冨田酒造|七本鎗 純米原酒14

七本鎗 純米原酒14

「七本鎗」を醸す冨田酒造は、地域らしさを強く追求する酒蔵のひとつとして注目を集めている。「造り続ける者として、守り続けてきた者として、革新していく使命がある」と語るのは天文3年(1534年)頃創業の酒蔵を継ぐ十五代蔵元、冨田泰伸氏。ヨーロッパのワイナリーや醸造所で研鑽を積んだことで、酒が土地を表現する「地酒」であることの価値を認識したという。

湖国、滋賀は美酒の国。冨田酒造では、玉栄などの滋賀県産酒造好適米のみを使用。目ざすのは、穀物らしい旨みをしっかりと保ちつつ、飲み疲れせず素直に入っていく酒だ。「七本鎗 純米原酒14」は14度とアルコール分低めで、食中酒としても最適。暑い日の午後にはきりっと冷やして、それだけで頂くのもいい。たっぷりと満たした盃を口に運べば、滋賀のテロワールが香り立つ。

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