この8月にリニューアルされた伊勢丹新宿店メンズ館5階のビジネスクロージングフロアで、今話題のブランドのトランクショーが開催された。本国から腕利きの担当者が来日する、注目のイヴェントだ。そのひとつが、イタリア・ナポリの「ルカ グラシア」である。伊勢丹メンズ館では2017年春夏に続いて、今回で2回目のオーダー会。名門のサルトリアが居並ぶナポリにあって、まだ日本でなじみの薄いこのブランドについて、メンズプレシャスのエグゼクティブファッションエディター・矢部克已が、オーナーを取材。その歴史や服づくりの特徴を聞いた。

サルトリアで遊び、育った、生粋の仕立て屋3代目

3代目オーナーのルカ・グラシア氏の説明を聞く、矢部。本文にあるように、袖付け部分や胸ポケットの処理に独特のスタイルを持つのが「ルカ グラシア」の特徴だ。
3代目オーナーのルカ・グラシア氏の説明を聞く、矢部。本文にあるように、袖付け部分や胸ポケットの処理に独特のスタイルを持つのが「ルカ グラシア」の特徴だ。

「ナポリ伝統の1930年代のクラシックなスタイルとモダンなシルエットとの融合が服づくりのコンセプトです。ジャケットのそで付け部分は、極端にギャザーの目立つ雨振りそで(注1)ではありません。着用したときに、ギャザーが目立たない縫製を施しています。胸ポケットは、カーブを強調せずに、比較的おだやかなバルカポケット(注2)をつくります。大人のスタイルを意識した、控えめなスタイルが、『ルカ グラシア』の特徴です」

 そう答えたのは、3代目オーナーのルカ・グラシア氏。1985生まれの、32歳の若き職人は、子供の頃から実家のサルトリアが遊び場だった。アイロンをかけるスチームの匂いや、ハサミで生地を裁断する音などに包まれて育った、生粋の仕立て屋である。
(注1)ナポリ仕立ての特徴のひとつ。いせ込んで袖付けをするため、生地にギャザーが残る。このギャザーを美しく残した仕立て技だ。
(注2)クラシコイタリアのジャケットに多く見られる、胸ポケットが船底のようにカーブした形のこと。

ひときわ優雅な「マリナイオ」結びで着るコートも

一番手前のコートで見えるのが、ルカ・グラシア氏がおすすめする「マリナイオ結び」。長いベルトを独特の結び方で着用する、洒脱なスタイルだ。
一番手前のコートで見えるのが、ルカ・グラシア氏がおすすめする「マリナイオ結び」。長いベルトを独特の結び方で着用する、洒脱なスタイルだ。

 今回、「ルカ グラシア」が伊勢丹メンズ館に提案したアイテムは、コートとスーツ。それそれに特別な仕様を盛り込んだのが特徴だ。

「コートのコレクションは、1970年代をイメージした少しアグレッシブなスタイルです。グレンチェックの柄をアレンジした重量感のある生地や、毛足の長い素材、軽量なエスコリアル(注3)などの生地を使用しました。なかでも特に評判のいいデザインが、長いベルトを配したラグランコートです。ベルトは、1回だけ結んでシンプルに着るほか、ヨットで多用するひもの結び方『マリナイオ結び』で、着用することも楽しめます」
(注3)カシミアのように柔らかく、軽さにも秀でた希少なウール。

スーツは1930年代のナポリスタイルをイメージ

落ち着いた語り口でブランドの特徴を解説してくれた、ルカ・グラシア氏。伝統あるナポリスタイルに敬意を表しつつ、独自のテイストをさりげなく盛り込む彼のセンスと技術に注目だ。
落ち着いた語り口でブランドの特徴を解説してくれた、ルカ・グラシア氏。伝統あるナポリスタイルに敬意を表しつつ、独自のテイストをさりげなく盛り込む彼のセンスと技術に注目だ。

一方、スーツのジャケットでは、ナポリ仕立て特有のディテールが際立った。

「1930年代に流行った、ナポリスタイルを表現しました。上襟部分は、ラペルに向かって急カーブしたラインでエレガンスを表現しています。パンツは、サイドアジャスターを付けたベルトレスタイプ。ポケットやフロント、すその部分などに、手縫いのステッチを施し、それを『ルカ グラシア』のキャッチにしています」

 しなやかな仕立て技術を生かした、新鮮かつ、これからの進化も楽しみな「ルカ グラシア」には、クラシコイタリア好きにはたまらない魅力が詰まっている。こんな新しい出会いが楽しめるのも、伊勢丹メンズ館ならではだ。

■問い合わせ先
伊勢丹新宿店
TEL:03-3352-1111(大代表)
http://isetan.mistore.jp/store/shinjuku/

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この記事の執筆者
ヴィットリオ矢部のニックネームを持つ本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
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