2018年能田シェフが銀座資生堂ビル10階「ファロ」エグゼクティヴ・シェフに就任するやいなや、イタリア本国のフードメディアでは「イタリアのスターシェフ、日本の逆上陸!!」と大いに話題になった。現在の「ファロ」における能田シェフは日本の食材にイタリア料理の技術やコンセプトを加えたイノベーティブ料理で新たな境地を切り開いている。その中でも就任以来積極的に取り組んでいるのが、動物性食材を一切使わないヴィーガン・メニューだ。

「ファロ」ヴィーガン・メニューとフランチャコルタのコラボ

ローマでミシュラン1つ星を持つ能田耕太郎シェフは、現在「ファロ」エグゼクティブ・シェフも務める、日医両国で活躍する料理人だ。
ローマでミシュラン1つ星を持つ能田耕太郎シェフは、現在「ファロ」エグゼクティブ・シェフも務める、日医両国で活躍する料理人だ。

ヴィーガン・メニューは欧米では食の嗜好を超えた倫理的規範として定着しているが、日本ではまだまだトップレストランでメニューに組み込んでいるところは少ない。外国からのゲストが「ヴィーガン料理を食べたい」といわれて店選びに困る、という話も時折耳にするが、能田シェフが提唱しているのは厳格なエシカル・ヴィーガンではなく、あくまでもガストロノミーな観点でも楽しめるガストノミー・ヴィーガンなのだ。

フランチャコルタのポップアップバーも特別に作られ、能田シェフによるヴィーガン・フィンガーフードも楽しめる。
フランチャコルタのポップアップバーも特別に作られ、能田シェフによるヴィーガン・フィンガーフードも楽しめる。

一方フランチャコルタとは北イタリア、イゼオ湖周辺で生産されるプレミアム・スパークリングワインで、瓶内二次発行(メトド・クラッシコ)で作られる。イタリアのワインカテゴリーでは最上位に位置するDOCGで現在116のワイナリーが協会に加盟している。その評価は年々高まる一方で、特に日本においてはここ数年飛躍的に消費も評価も上昇しており、現地ではブドウ栽培やワイン製造においてもビオ、あるいはヴィーガンを志向する作り手が増えている。

ヴィーガン・メニューにあわせる4種類のフランチャコルタは左からFerghettina Rose, Villa Crespi Cisiolo Dasaggio Zero, Enrico Gatti Saten, Ca’ del Bosco Anna Maria Clementi Brut
ヴィーガン・メニューにあわせる4種類のフランチャコルタは左からFerghettina Rose, Villa Crespi Cisiolo Dasaggio Zero, Enrico Gatti Saten, Ca’ del Bosco Anna Maria Clementi Brut

そのような時代背景もあり、今回能田シェフはヴィーガン・メニューのパートナーにフランチャコルタを選んだ。4品からなるヴィーガン・ショートコース(前菜、パスタ、メイン、デザート)に4種類のフランチャコルタのグラスペアリングが楽しめる期間限定メニューを発表した。

黄色い円形のディスクは、実は黄ズッキーニを凍らせたもの。下にはリゾットが隠れている。
黄色い円形のディスクは、実は黄ズッキーニを凍らせたもの。下にはリゾットが隠れている。

まず前菜は「ズッキーニのリゾット」緑ズッキーニとミントのリゾットは、自家製の赤大豆味噌を隠し味に使ってある。できたての熱いリゾットには、なんとも美しい黄色ズッキーニのピューレを凍らせたディスクが乗せてある。つまりズッキーニのシャーベットで、リゾット熱で溶けたところをソース代わりにして混ぜて食べる。様々なズッキーニの味と香りとテクスチャー、そしてミントが味を引き締めてくれる。

本国イタリアでも一斉を風靡した「ジャガイモのスパゲッティ」、今回はヴィーガン・バージョンで新登場。
本国イタリアでも一斉を風靡した「ジャガイモのスパゲッティ」、今回はヴィーガン・バージョンで新登場。

続くパスタは「ジャガイモのスパゲッティ」、これは「ファロ」就任以来能田シェフのシグネチャーディッシュ。かつて支持したイタリアの3つ星シェフ、エンリコ・クリッパがこれを食べて「進歩したな」と認めたという有名なパスタのヴィーガン・バージョンだ。

これはジャガイモを極細の千切りにしてスパゲッティに見立ててあり、本来はアンチョビとバターをソースとして使う。今回は動物性食材は一切取り除き、植物由来の素材とスパイス、ハーブでほんのり甘くライトな風味に仕立てている。シャキシャキした食感は確かにパスタを思わせ、なによりクリーミーなソースがジャガイモととてもよくマッチ。動物性ゼロでもしっかりとした味を組み立てるところはさすが。

なんともカラフルなメイン料理は「お米とパプリカのミルフィーユ」、米と野菜だけだが食べ応えあり、満足感も高い。
なんともカラフルなメイン料理は「お米とパプリカのミルフィーユ」、米と野菜だけだが食べ応えあり、満足感も高い。

「お米とパプリカのミルフィーユ」メイン料理はパプリカが主役だ。赤と黄色はパプリカのソース、緑はローズマリー・オイル。リゾット用のイタリア米カルナローリをチップスに仕立て、スモークしたパプリカ・パウダーをアクセントにし。炭火で焼いたパプリカをオリーブオイル、塩、パセリで和えたものと重ねてミルフィーユ状態にしてある。香ばしいパプリカが南イタリア、カラブリアを思わせ、一方クリスピーな米のチップスは北イタリアの味。

パティシエ加藤峯子さんが作るデザートは見るものを驚かせる。二重数種類の花やハーブを使った「花のタルト」はますます進化している。
パティシエ加藤峯子さんが作るデザートは見るものを驚かせる。二重数種類の花やハーブを使った「花のタルト」はますます進化している。

「山口農園の花のタルト」花とハーブと野草をふんだんに使ったタルトはファロのパティシエ、加藤峰子さんのシグネチャー・ドルチェ。加藤さんはイタリアの「オステリア・フランチェスカーナ」でも活躍したパティシエで、彼女が作る花のタルトはテーブル上に咲いた小さなハーブガーデンのような美しさ。

野草は山にひっそりと自生している在来種を20種類以上使い、そこにイタリアのハーブなどを組み合わせている。花の下には実はタルト生地がしのばせてあり、本来は自家製のマスカルポーネにメープルシロップを合わせたクリームを使うのだが、今回はお米を煮詰めてクリームにしてある。複雑なその香りに加えタルト生地の甘みと食感、滑らかなクリーム。このタルトを食べるのも「ファロ」に来る喜びのひとつ。

「ファロ」内に登場するポッポアップバーでは、フランチャコルタのフリーフローが楽しめる。

イタリアでもファッション・イベントやパーティなどで登場するスパークリングワインは必ずといっていいほどフランチャコルタ。セパージュもピノ・ネロ(ピノ・ノワール)とシャルドネをベースにしており、白ぶどうのみで作るサテン(ブラン・ド・ブラン)なども生産していることから、シャンパーニュに比肩しうる数少ないイタリアワインといっていいだろう。

食に関する意識が高い人はライフスタイルについても意識が高く、イタリアでは自然とフランチャコルタを選ぶ傾向にあるようだ。日本とイタリアで活躍する能田シェフが作るヴィーガン・メニューとフランチャコルタのコラボ・メニュー、この秋試してみたいペアリングのひとつだ。

問い合わせ先

  • FARO ファロ TEL:0120-862-150 TEL:03-3572-3911
    住所/東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル10階
    営業時間/ランチ12:00〜13:30L.O.、ディナー18:00〜20:30L.O.
    定休日/日、月、祝

ヴィーガン・ショートコース 6,000円(税込、サ別)
前菜、パスタ、デザート、メイン メニューの内容は変わる場合があります
フリーフロー 8,000円(税込、サ別) フィンガーフード付き ディナータイムのみ
期間/2020年11月19日(水)〜12月19日(土)

※営業時間などの詳細は、店舗HPなどでご確認ください。

この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。