「蟋蟀在戸」…なんと読む?暦(こよみ)を表す「七十二候」の言葉には、日本語のナゾが!

「立秋」「秋分」など、暦(こよみ)を表現する「二十四節気(にじゅうしせっき)」は、アジアで古くから使用されており、「春分」や「秋分」は現在も毎年、国立天文台が天体の動きを計算し、日本の祝日に反映される要素になっています。

この「二十四節気」を5日ごとにわけ、日本独自の季節感の目安とするのが「七十二候(しちじゅうにこう)」と呼ばれる暦です。直近の晩秋の「七十二候」の例を挙げますと…

・「鴻雁来(こうがんきたる)」…10月8日ごろから5日間。渡り鳥の雁たちが渡ってくるころ。
・「菊花開(きくのはなひらく)」…10月13日ごろから5日間。菊の花が咲き始めるころ。

…というように、季節感の目安を、日本の自然物との関連で表現してあり、昔の人々にとっては頼りになる暦でした。現代を生きる私たちにも、日本らしい季節の移り変わりを意識させてくれる素敵な暦なので、この連載でも度々取り上げてまいりました。

…というところで、ひとまず、本日1問目のクイズと参りましょう。

【問題1】「蟋蟀」って何と読む?

「蟋蟀」という日本語の読み方として正しいものを、以下の選択肢の中から選んでください。

1:すずむし

2:くつわむし

3:こおろぎ

「蟋蟀」の読み仮名として正しいのは、どの虫の名前?
「蟋蟀」の読み仮名として正しいのは、どの虫の名前?

…さて、正解は?

※「?」画像をスクロールすると、正解が出て参ります。

正解は↓に!!

正解は… 3:こおろぎ です。

耳でも目でも、秋を感じさせてくれますね。
耳でも目でも、秋を感じさせてくれますね。

「蟋蟀(こおろぎ)」は、現代俳句でも、初秋、仲秋、晩秋の「三秋」を通した「秋の季語」とされており、日本人にはとても身近な「秋の虫」ですよね?

さて、本日10月22日は、「七十二候」の「菊花開(きくのはなひらく)」の次にあたる、

10月18日ごろからの5日間の「候」の最終日です。

この10月18日ごろからの5日間の候は「蟋蟀戸在」と書くのですが、

なんと、「七十二候」上の「蟋蟀」の読み方は「こおろぎ」ではありません

日本で現在、「こおろぎ」とよばれている虫は、昔の日本では、別の呼び名で呼ばれていたらしいのです。

「七十二候」の「蟋蟀在戸」は、今でも「蟋蟀」を「こおろぎの昔の呼び名」で読む形になっています。

…というところで、2問目のクイズです。

【問題2】「こおろぎ」の昔の呼び名は何?

「七十二候」の「蟋蟀在戸」の読み方を示す以下の言葉を完成させてください。〇の中には、にひらがな1文字が当てはまります。

「蟋蟀在戸」 = 「○○○○○とにあり」

ヒント:「イソップ童話」で有名な虫の名前です。

「戸口に、秋の虫を発見するころ」という、素敵な表現ですが、「蟋蟀」は「こおろぎ」と読まない!?
「戸口に、秋の虫を発見するころ」という、素敵な表現ですが、「蟋蟀」は「こおろぎ」と読まない!?

…さて、正解は?

※「?」画像をスクロールすると、正解が出て参ります。

正解は↓に!!
正解は↓に!!

正解は… ○○○○○=きりぎりす で、「蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)」 です。

う~ん、ややこしい!
う~ん、ややこしい!

日本では昔、「こおろぎ」を「きりぎりす」と呼んでいたようで、辞書で「きりぎりす」を引くと「こおろぎの古名。」と書いてあるものも、複数あるのです。

褐色の「こおろぎ」と緑色の「きりぎりす」、虫の声を鳴らす昆虫同士ではありますが、全く別の虫なのに、不思議です。なぜ呼び名の変遷があったのか、詳しい歴史は判明しませんでしたが、

・俳句の季語にも使用される「蟋蟀」の読みは「こおろぎ」で、現代の「こおろぎ」を指す。
・「七十二候」の「蟋蟀在戸」の読みは「きりぎりすとにあり」で、しかしこの場合の「蟋蟀(きりぎりす)」は現代でいうところの「こおろぎ」を指す。

…という、不思議な現象が並行しているのです。

ですので、「蟋蟀」という漢字を「きりぎりす」と読む方がいても、不正解とは言えません。

本日は、秋の季語と「七十二候」に登場する「蟋蟀」を取り上げ、

・蟋蟀(こおろぎ)

・「蟋蟀(きりぎりす)在戸(とにあり)」

と同じ虫を別の呼び名・読み仮名で表現している、という、不思議な日本語トリビアをお送りしました。

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Precious.jp編集部 
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参考資料:『日本国語大辞典第2版』(小学館)/「『日本国語大辞典』をよむ 第3回」今野真二(三省堂辞書ウェブ)
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小出真朱