コンパクトで、でも速い。そんな男の玩具のようなクルマを最初に作ったのは英国人だ。思い出すのはミニ・クーパー。大衆車として設計された全長3メートルのコンパクトな2ドアを、F1など最高峰のレースで活躍していたジョン・クーパーがチューニングして61年に発表した。

それから約60年たって、舞台は日本に移ってトヨタ自動車。優秀なエンジニアたちが、レースにも熱心に取り組む社長の旗振りの下、レース場からそのまま持ってきたような、超がつくほどスポーティな「GRヤリス」を開発した。

思わず声が出てしまう、あの瞬間

レースカーなみの機構が詰め込まれたRZハイパフォーマンス。
レースカーなみの機構が詰め込まれたRZハイパフォーマンス。
2ドアの専用ボディを与えられた。
2ドアの専用ボディを与えられた。

GRヤリスは、いちおう車名のとおり、リッター36キロ(ハイブリッド)と驚異の燃費を誇るコンパクトハッチバック車、トヨタ・ヤリスのスポーツ仕様である。ただし、ボディは4ドアから専用の2ドアへ。前後のフェンダーは、とてつもなく大きく、外へと張り出している。

なにしろ「モータースポーツ用の車両を市販化する」と、トヨタは堂々と言ってのけているぐらいだ。シャシーは、ヤリスとは別もの。272馬力のエンジンをフロントに搭載し、6段マニュアル変速機と、フルタイム4WDシステムの組み合わせだ。

乗ると、かつてミニ・クーパーに“楽しいんだろうなあ”と憧れた気持ちを思いだしてしまった。車体は全長4メートル弱と、コンパクトであるいっぽう、なかにはスーパースポーツカーが押し込まれているような、眼がさめる走りが味わえるのだ。

剛性感が高く、ゲートに吸い込まれるように気持ちよく操作できるシフターを1速に入れ、左足のペダル操作により、一瞬でつながるクラッチをぽんっとミートさせる、すると、破裂するような排気音とともに、車体は飛び出していく。

そのままシフトアップを遅らせて、6500rpmでマックスパワーに達するまで加速を楽しむのもいいし、3000rpmあたりを目安にシフトアップしていくのも、マニュアル車ならではの楽しみだ。最大トルクは370Nmもあるので、小排気量のマニュアル車のようにエンジン回転とシフトタイミングを合わせるのに、気をつかうこともない。

操舵感覚は、まさにゴーカート。わずかにステアリングホイールを切ると、間髪いれずにクルマが向きを変える。すごい!と思わず声が出るほどだ。こんなの公道で乗っていいだろうか。

「RZ」なら家族で使える

RZハイパフォーマンスのタイヤは専用のはいグリップタイプでホイールも専用の鍛造と凝りまくる。
RZハイパフォーマンスのタイヤは専用のはいグリップタイプでホイールも専用の鍛造と凝りまくる。
スペース的にはそれほど余裕はないものの機能的にまとめられた室内。
スペース的にはそれほど余裕はないものの機能的にまとめられた室内。

3モデル設定されているうち、もっともカリカリな「RZハイパフォーマンス」は、専用のミシュラン・ハイグリップタイヤにBBS製鍛造軽合金ホイール、トルセンタイプのリミテッドスリップデフ、さらにバネもダンパーも専用のスポーツタイプで、ロール剛性も高い。

そのぶん、山岳路を走ると、上下動がけっこうはげしい。かたい足まわりのせいだ。まさにレーシングカーみたいと喜ぶひともいるだろう。オリジナルのミニ・クーパーは、足まわりはしなやかだった。むしろ、90年代にごくわずか作られた、ミニERAターボを思い出した。あれもすごいクルマだった。でも完成度の高さは、GRヤリスの足元にも及ばない。

見ためはコンパクトなボディながら、後席にはおとな2人が楽々すわれるスペースがある。じょうずなパッケージだ。なので、家族でも使える。そういうひとには、ややマイルドな設定の「RZ」がいいかもしれない。エンジン出力はおなじ。フルタイム4WDの駆動方式も、6段マニュアルの変速機もおなじだ。

あるいはエンジンが1.5リッターで前輪駆動、さらにオートマチック免許で乗れる2ペダルのCVT変速機をのせた「RS」もいい。頭のなかが真っ白になるようなドライビング体験ならRZ、ルノーのスポーツハッチバックに通じる楽しさならRS、といったかんじだろう。

RZハイパフォーマンスは456万円、RZは396万円。RSは265万円だ。いいトシした男も満足させてくれるホットハッチ。こんなクルマをいま作ってしまうのだから、トヨタに敬礼を送っておこうではないか。

前輪駆動のRSでも見た目のとおりスポーティに走る。
前輪駆動のRSでも見た目のとおりスポーティに走る。
RSは発進用ギアをもったCVTによる2ペダル。
RSは発進用ギアをもったCVTによる2ペダル。

問い合わせ先

トヨタ

TEL:0800-700-7700

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。