今やすっかり耳慣れた言葉「サステイナブル(=Sustainable)」。「持続可能な」という意味のこの言葉は、地球を取り巻く環境が大きく変化している今、これまで以上に大きな役割をもつ言葉といっていいでしょう。

とりわけ「食」の世界では、限りある資源をどう使うのか、どう残していくのかは切実な問題。それゆえ、地産地消やフードロス問題など、トップシェフたちは早くから「持続可能な」仕組みづくりを意識してきたのです。

「ラグジュアリー」と「サステイナブル」の共存。一見すると両立しないように思えるこのふたつの言葉と共に進化する、ラグジュアリーレストランの「今」に迫りました。

今回ご紹介するのは、ミシュラン三つ星のフレンチレストラン「カンテサンス」です。

「医療従事者を応援するお弁当は生産者や料理人へのエールにもなるんです」—「カンテサンス」オーナーシェフ岸田周三さん

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写真は、『スマイルフードプロジェクト』で、岸田シェフが担当したお弁当。FIP(漁業改善プロジェクト実施漁業者による)ビンチョウマグロのツナサンドイッチに、手羽元のフリット、エビのポテトサラダやキャロットラペなど。生産者の協力もあり新鮮な食材を使い、冷めてもおいしく食べられるようメニューを熟考したとか。容器は、土に還る素材を採用。
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「カンテサンス」のコースから、ホタテ貝のパイ包み焼き(アンクルト)。「テーマであるサステイナブルなひと皿を考えたとき、日本における水産資源を考えたうえで、今現在、品質的にも非常によく、MSC認証(持続可能な漁業で獲られたもの)をもつ北海道のホタテ貝を選びました。あえてフレンチのクラシカルなひと皿、アンクルトでぜひ」と岸田さん。

カジュアルなサンドイッチのお弁当と、フランス料理の定番「アンクルト(パイ包み焼き)」。どちらも、ミシュラン三つ星、フレンチレストランの名店「カンテサンス」のオーナーシェフ岸田周三さんの手によるものです。

このふたつの料理をつなぐキーワードは「サステイナブル」。今回、サステイナブルをテーマに取材をしたいとオファーした際、真っ先に岸田さんがおっしゃった言葉に驚きました。

「来週、コロナ禍で尽力してくださっている医療従事者の方を応援するお弁当をつくります。すでにさまざまなシェフが担当されていますが、次は僕の番。ぜひ取材してください。飲食業界が今考えるサステイナブルが詰まっていますから」

食の世界のサステイナブルといえば、地産地消やフードロス、環境問題などをイメージしていましたが、お弁当? 医療従事者? 瞬時にサステイナブルとは結び付かず、混乱したのでした。

トップシェフたちは今、「食」で世界を変えようとしています

「素材にこだわるのは料理人として当然のこと。素材の魅力をどう引き出すか。どうおいしく食べていただくか。日々それを追求しています。同時に、食のもつ力を信じ、食で何ができるのかも考え続けています。

この未曽有の事態で僕らができることを考えたとき、料理人の技術と生産者さんとのつながりを生かしたお弁当を届けることは、非常にサステイナブルな活動ではないでしょうか。

医療従事者の方に食を通して少しでも英気を養っていただくと同時に、飲食業界の動きを止めないし生産者の動きも止めない。互いへのエールになっているんです」

「おいしい」料理は人を幸せに笑顔にする。それはレストランで出すひと皿もお弁当も変わりはありません。サステイナブルとは何か。トップシェフたちと共に今一度、考えてみませんか。

その日手に入るベストな食材をベストな状態で使いきる「おまかせ1コース」に込められたのは、食材への深いリスペクト

2006年にオープン、翌年にミシュラン三つ星を獲得し、当時史上最年少の三つ星シェフとして話題をさらった岸田シェフ率いるフレンチレストラン「カンテサンス」。以来、14年連続で三つ星を獲得し続けている名店です。

2021年は、新たにミシュランが掲げた評価軸「ミシュラン グリーンスター」も併せて獲得。これは「サステイナブルな取り組みを積極的に推進する店」として、持続可能な漁業を推進活動する「サステナブルシーフード」への取り組みなどが評価されたもの。

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開店当初から変わらない「カンテサンス」のシグネチャーメニュー。コースの3品目に必ず登場する、山羊乳のババロア。奈良の牧場の山羊乳を使ったババロアに、オリーブオイルとゆり根。「主役は独自にブレンドしたオリーブオイル。繊細なのにワイルド、オリーブオイル本来の風味を堪能してほしいひと皿です」
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前菜の猪肉とコウタケの温かいスープ。「広島の腕利きの猟師さんの手による1か月以上寝かせた極上猪肉。鹿肉と骨でとったうまみたっぷりの出汁と細かく切った肉を、コウタケ(香茸)の香り漂う白い泡と一緒にぜひ」。冬ならではの滋味深い一品。

「オープン当初から『おまかせ1コースのみ』。その日いちばんおいしい食材を知っているのは僕たちです。それらのおいしさを極限まで引き出したいと考え抜き、時間をかけて、お客様一人ひとりの来店時間に合わせてつくったひと皿ですから、絶対においしい(笑)。自信をもって提供しています」と岸田さん。

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ホタテとトリュフ、黄ニラのパイ包み焼きの断面。トリュフの香りに、サクサクのパイやシャキシャキの黄ニラの食感が楽しい。ソースはセップタケベースのにんにく風味。「水産資源の問題提起とクラシカルなフランス料理への回帰。ひと皿にいろいろな想いを込めました」

カンテサンスのメニューは白紙。予約時にお客様の苦手なものを必ず聞き、その日仕入れた食材を最高の形で調理。そうすることで、料理のクオリティが上がるのはもちろん、食材をピークの状態で使いきることができます。

「料理人は皆そうだと思いますが、そこには食材への深いリスペクトがあります。特に、豊かな自然に恵まれた日本の食材は世界から見てもトップレベル。これは日本の宝だし、それこそ未来へ残していかなければいけない。

そんななか、シェフ仲間たちとの勉強会で水産資源の枯渇問題を知りました。もちろん、農業や畜産にもさまざまな問題はありますが、水産資源は天然の恵み。人間の手だけで増やすことはできないんです」

食材と真摯に向き合えば向き合うほど「食」の課題にぶつかる。けれど、そこから目を背けることなく、きちんと向き合い、学び、行動していくことが大切、と岸田さんは言います。

「自然の恵みである食材の魅力を大切にして、料理人の知識と技術を使い、いちばん『おいしい』状態で提供したい」そんな岸田さんの想いに、ラグジュアリーとサステイナブルの共存を感じます。

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コロナ禍、サステイナブルな店の維持を考え、初の菓子通販に踏みきったと岸田さん。写真の『ガトー オー コンテ』¥5,400(税込/送料別)は三層構造。タルト状の生地の上にレアチーズケーキ、その上に36か月熟成コンテを使ったベイクドチーズケーキが。
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2013年、白金台から品川御殿山に移転。シックで落ち着いたムードの店内は、植木莞爾氏デザイン。テーマカラーであるダークブラウンを基調に、シンプルで重厚感ある空間。ウェイティングルームにあるインゴ・マウラーのシャンデリアにも注目。

【Sustainable Point】トップシェフによるお弁当で医療従事者を応援!「Smile Food Project(スマイルフードプロジェクト)」

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医療機関にお弁当を無償配送。

新型コロナウイルス感染症拡大による医療機関の体勢逼迫を受け、2020年4月にスタートしたプロジェクト。7月までの14週間にわたり38の医療機関に約2万食のお弁当を無償配送。

いったん活動は終了したものの、拡大が止まらない現状を鑑みて昨年12月、再開。「カンテサンス」はじめ「レフェルヴェソンス」「シンシア」「茶禅華」「慈華」などのトップシェフが集結。

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シェフたちの想いが込められたお弁当。

最前線でウイルスと闘う医療従事者に、栄養たっぷりのおいしいお弁当を届けることで、束の間笑顔に、活力の源になってほしいという想いが込められている。

プロジェクトメンバーは「Chefs for the Blue」「CITABRIA」「エヌケービー」。

詳細はこちら:「Smile Food Project」(スマイルフードプロジェクト)

問い合わせ先

  • Quintessence(カンテサンス) 
  • 営業時間/17:00~23:30(L.O.20:30)※17:00~20:00、20:30~の2部制
    定休日/日曜を中心に月6日、年末年始、夏期休暇
    メニュー/おまかせの1コースのみ(料理とデザートで13皿前後、食後の飲み物)¥26,500 ※要予約
  • TEL/03-6277-0090(予約専用/13:30~16:00)
  • 住所/東京都品川区北品川6-7-29 ガーデンシティ品川 御殿山 1F

PHOTO :
篠原宏明
EDIT&WRITING :
田中美保、佐藤友貴絵(Precious)