クルマ好きの人がセカンドカーを持つにあたって、「やはりいつものディーラーとの付き合いがあるから同じブランドを」「乗るのはビギナーだから、まずは安価な国産車を」「オープンカーかスポーツカーかヒストリックカーで夢を叶えたい」というケースはこれまで多かったように思う。最近、ここに一大勢力として加わってきたのは、「長距離ドライブはファーストカーに任せて、セカンドカーはエコな電気自動車にしよう」という発想である。

トロリーにブリーフケースに財布に名刺入れ、という組み合わせであったなら、複数の製品にブランドやデザインの統一感を持たせたほうが落ち着くものだが、クルマというのは車内に入ってしまえばそれぞれ閉じた空間なのだから、2台目はまったく異文化のものを楽しんでみるのも楽しいだろう。

そうした観点で、たとえばドイツの高級車がすでに自宅にあるような人のセカンドカーとして、この「DS 3 クロスバックE-TENSE」は恰好のプロダクトであるように思う。

例のピラミッドの気配をディテールに感じる

ルーブルとは次元が違うものの、背景のピラミッド?と調和しているのは気のせいではない。
ルーブルとは次元が違うものの、背景のピラミッド?と調和しているのは気のせいではない。
ボディサイズは全長4,120×全幅1,790×全高1,550mm。価格は534万円から。
ボディサイズは全長4,120×全幅1,790×全高1,550mm。価格は534万円から。

デザイン全体が服飾・宝飾・時計・建築といったフランスの美意識に導かれた「DS」(オートモビル)というブランドは2014年、同じくフランスの「シトロエン」が生んだかつての傑作モデルの名前を受け継いで独立。そのコンパクト版である「DS 3 クロスバック」の、電気自動車バージョンとして昨年登場したのが「DS 3 クロスバックE-TENSE」である。

姿かたちはICE(内燃機関=ガソリンやディーゼル燃料を燃やすエンジン)車とほとんど変わらないDS 3クロスバックE-TENSEだが、エンジンの代わりに前輪を駆動するのは136ps/260〜300Nmという出力のモーターで、重心を低くし、室内空間を有効に使うため50kWhのリチウムイオン・バッテリーは乗員の足元に平坦に並べて搭載される。

満充電での航続距離は398km(JC08モード)で、一般家庭に設置可能な6kW・200V電源でのフル充電時間は9時間。欧州の一般的な一日あたり走行距離が40kmなので、1週間に一度充電すれば不自由しないはず、という計算らしい。

完全に外部からの充電だけで走る電気自動車は、日本で市販が始まってすでに10年が経つ。その間に、主にバッテリーの性能や価格、制御に大きな進歩があった。同等装備のガソリン車との価格差は、DSを輸入するグループPSAジャパンの計算では約108万円の上昇に抑えられており、国からの40万円の補助金、東京都であれば30万円の補助金、優遇税制10万円、さらにフル充電1回のコストが約1500円という経済性により、やがては相殺されることが期待できる。

DS 3 クロスバックのデザインは、全体としてぽってりと丸みを帯びたフォルムのところどころに、シャープな直線がエッジを利かせている。DSはルーブル美術館と唯一、コラボレーションしているブランドだそうだが、あのエントランスにあるガラスのピラミッドを思わせる矩形のステッチやスイッチが、レザーインテリアの随所に反復されている。

ガソリン車以上に重厚で上質な乗り心地

汚れを気にせず美意識を重視するなら、こんな色もありだ。
汚れを気にせず美意識を重視するなら、こんな色もありだ。
凝った作りのインテリアは、「DS」最大の特徴。操作に迷うことはない。
凝った作りのインテリアは、「DS」最大の特徴。操作に迷うことはない。

DS 3 クロスバックE-TENSEに用意されるのは「GRAND CHIC」と呼ばれるトップグレードのみで、ボディカラーはエメラルドグリーンに近い「ブルーミレニアム」や渋めのパープルである「ウィスパー」を含む5種、インテリアはオフホワイトのハーフナッパレザーに限られる。

比較的汚れやすい色ゆえに敬遠されることもある白レザー内装だが、それだけにコンパクトカーの枠組みを超えた個性の主張にもつながっているし、閉塞感を感じにくいのも魅力だ。

ヨーロッパ生まれのコンパクトカーは、高速移動の文化を反映して、見た目とは裏腹に骨格ががっしりと作られていることが多い。ベースとなるガソリン車も操縦性や乗り心地に骨太さを感じさせるが、それより300kg近く重いE-TENSEの走りはさらに重厚だ。

空気のボリュームが大きなタイヤ(ミシュラン・プライマシー4)とあいまって、細かな路面の起伏に右往左往せず悠然と走る。ずっと高額な、とある他メーカーの大柄な電気自動車より、バランスが取れて上質な乗り心地だと感じた。

パワーユニットが発するノイズがきわめて少ないことも、電気自動車ゆえ当然とはいえ大きなアドバンテージだ。高速道路の右車線をリードするようなハイスピードでは少々、馬力の不足を意識させられるものの、こんなに気の利いたフランスのコンパクトカーで不必要にスピードを出すのも無粋というものだろう。

全長4120mm、全幅1790mm、全高1550mmというボディサイズも、都市部での生活にはベストマッチするだろう。最小回転半径5.3mと、小回りもきく。「普段のアシはDSの電気自動車で……」という枕詞は、その後にどんなファーストカーの話が続くとしても、とても魅力的に響くことは間違いない。

ボンネットの下はモーターや制御機器でびっしり。
ボンネットの下はモーターや制御機器でびっしり。

問い合わせ先

DSオートモビル

TEL:0120-92-6813

この記事の執筆者
自動車専門誌「カーグラフィック」編集部勤務を経て、輸入車ブランド、アパレルブランドのマネジャーを歴任。現在は独立してPR業務を営むかたわら、大好きな四輪・二輪の執筆活動にも勤しむ。