ロベール・ルパージュ演出版『ニーベルングの指環』4部作を一挙上映

ブリン・ターフェル《ラインの黄金》©︎Ken Howard/Metropolitan Opera
ブリン・ターフェル《ラインの黄金》©︎Ken Howard/Metropolitan Opera

先日(現地時間3月14日)第63回グラミー賞が発表されたが、ベスト・オペラ・レコーディング賞を獲得したのは、MET(メトロポリタン・オペラ)の『ポーギーとベス』(Porgy And Bess)。2019/2020シーズンのオープニング作品にして最大のヒット作。同作がMETライブビューイングで上映される際、このコーナーに現地取材のリポートをアップしたので、ご記憶の方もあるだろう(詳細はこちらより)。コロナ禍の影響でMETの2020/2021シーズンが全てキャンセルとなる中、この受賞はうれしいニュースだった。

デボラ・ヴォイト《神々の黄昏》©︎Ken Howard/Metropolitan Opera

その『ポーギーとベス』でポーギー役を務めたエリック・オーウェンズも出演したのが、METの2010/2011シーズンから2011/2012シーズンにかけて上演され世界的に大きな話題を呼んだ『ニーベルングの指環』4部作ロベール・ルパージュ演出版。今回、東京・東劇でのMETライブビューイングで、その初演時の4部作(『ラインの黄金』『ワルキューレ』『ジークフリート』『神々の黄昏』)全作を一挙上映。加えて、ルパージュ版の再演となる2018/2019シーズンの『ワルキューレ』も特別上映されることになった。

巨大装置が紡ぎ出すヴィジュアルの驚きを大画面で追体験しよう

ジェイ・ハンター・モリス《ジークフリート》©︎Ken Howard/Metropolitan Opera
ジェイ・ハンター・モリス《ジークフリート》©︎Ken Howard/Metropolitan Opera

ルパージュ演出版の“驚き”は、「序夜」と称される第1作『ラインの黄金』の冒頭からいきなり現れる。そこは満々たる水をたたえたライン川の川底で、水中を3人の乙女が泳いでいる。まるで舞台全体が巨大水槽になったかのよう。それを実現しているのが、オペラハウスを改修して設置されたという前代未聞の巨大な舞台装置。巨大なだけでなく、驚くべき柔軟さで変幻自在に姿を変え、その表面に反映される魅惑的な映像処理と相まって、舞台上はその後、森になり、地底になり、岩山になり、館になり、天上世界になり……。4部作の全編にわたって、観客を不思議な世界へ誘い、惑わし続ける。

そうした装置の上での演技は、スリリングで、時にサーカスのようにすら見えて目が離せない。中でも、『ワルキューレ』で戦士たちが登場してくる場面は、想像を超えるダイナミックさに息をのむ。

ヨナス・カウフマン《ワルキューレ》©︎Ken Howard/Metropolitan Opera
ヨナス・カウフマン《ワルキューレ》©︎Ken Howard/Metropolitan Opera

もちろん、歌手も充実。前述のエリック・オーウェンズの他、ヨナス・カウフマン、ジェイ・ハンター・モリス、ブリン・ターフェル、デボラ・ヴォイト、エヴァ=マリア・ヴェストブルックらが顔を揃える。再演版『ワルキューレ』にはクリスティーン・ガーキーが出演。彼女が演じるブリュンヒルデは2018/2019シーズンのMETの象徴としてプレイビルの表紙になっていた。

特別な装置を要する公演だっただけに、METでの再上演はもうかなわないという。大画面で甦るロベール・ルパージュ演出版『ニーベルングの指環』4部作。この機会にぜひ。

上映スケジュールは下記公式サイトでご確認ください。

この上映に合わせて、4月8日から、驚きの舞台の秘密を追ったメイキング・ドキュメンタリー『ワーグナーの夢~メトロポリタン・オペラの挑戦~《ニーベルングの指環》の舞台裏』が配信されます。また、2010/2011シーズンの『ワルキューレ』は、4月9日から東劇を含む全国の映画館で単独先行上映されます。いずれも詳細は下記公式サイトでご確認ください。

上映スケジュールの詳細はこちら

※外出時には新型コロナウイルスの感染予防対策を十分に講じ、最新情報は公式HPなどでご確認ください。

この記事の執筆者
ブロードウェイの劇場通いを始めて30年超。たまにウェスト・エンドへも。国内では宝塚歌劇、歌舞伎、文楽を楽しむ。 ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」(https://misoppa.wordpress.com/)公開中。 ERIS 音楽は一生かけて楽しもう(http://erismedia.jp/) で連載中。
公式サイト:ミュージカル・ブログ「Misoppa's Band Wagon」