かつて、自動車メーカーはセダンで競ったものだけれど、昨今はSUVで競う。スタイリングにはじまり、動力性能、インテリアのテイストなど、メーカーの世界観を色濃く反映するのは、いまやSUVである。キャデラックもしかり。ピュアEV「リリックLyriq」を、発売に向けていま鋭意開発中だ。

量産車にかぎりなく近い姿でお披露目

ブラッククリスタルグリルをそなえたフロントマスクが印象的。
ブラッククリスタルグリルをそなえたフロントマスクが印象的。
ほかにない個性が演出されているリアビュー。
ほかにない個性が演出されているリアビュー。

リリックは基本的にはSUVなので、機能性を重視しているはずであるものの、キャビンの造型は躍動的。大きなハッチゲートをもったリアはとりわけ個性的で、クルマ好きとしては食指がおおいに動くモデルである。

2021年4月21日から28日にかけて開催された上海国際自動車ショーに持ちこまれたリリックは、量産車にかぎりなく近いプリプロダクションの段階だ。22年第1四半期の発売に向けて、キャデラック車内では急ピッチで最後の煮詰めが行われているという。

それに先立ち、キャデラックでは愉快なプロモーションビデオも公開している。主人公はエドワード・シザーハンズ。かつてティム・バートンが監督したちょっと哀しいファンタシー映画「エドワード・シザーハンズ」(1990年)のキャラクターだ。

キャデラックのビデオには、ジョニー・デップが当時演じた主人公とおなじ雰囲気の2021年版“エドワード”が登場。共演は、なんと、オリジナルと同様、ウィノナ・ライダーだ。手がハサミのため運転が出来ないエドワードに、母親役を演じるライダーが体験させるのが自動運転も可能とするリリック。

じっさい、キャデラックではいちはやく、「スーパークルーズ」なるGMが持つ衛星を使った自動運転システムを実用化している。ドライバ−が道路を観ているかぎり、手ばなし運転ができるシステムだ。当初はフリーウェイのみだったものの、いまは一般道へと適用範囲が広がってきている。リリックにもこのシステムが搭載されるのだ。

リリックは、全長4996mm、全高1623mmのファストバックタイプのボディを持ち、最高出力255kWの電気モーターを1基使って後輪を駆動する。スタイリングは、クロスオーバータイプで、流麗なクーペを思わせるボディが印象的だ。

とりわけ目をひくのはフロントマスクだ。キャデラックデザインのエグゼクティブディレクターであるアンドリュー・スミス氏が「ブラッククリスタル」と呼ぶグリルレスグリルデザインで、無数ともいえる小さなLEDライトが並ぶ。

キーを持ったひとが近づいたのを検知すると、このライトが点灯。キャデラックのエンブレムは「クレスト」などと呼ばれたりする。その輪郭を大きくLEDが形作るさまは美しい。

あたらしい時代のキャデラックの出発点

全米のフリーウェイなど指定された区間なら手放しでどこまでも走れる「スーパークルーズ」搭載。
全米のフリーウェイなど指定された区間なら手放しでどこまでも走れる「スーパークルーズ」搭載。
33インチの大型LEDディスプレイをそなえる。
33インチの大型LEDディスプレイをそなえる。

上海ショーに先だって、キャデラック本社はオンラインで記者会見を実施。そこでキャデラックは、リリックはたんなる話題集めのためのショーカーでなく、同ブランドの将来にとって重要な第一歩となるモデルとした。

「キャデラックは2030年までに内燃機関で走るモデルの販売をやめます。そしてEVへとシフト。リリックはその第一弾として記念すべきモデルです」。同社でグローバグローバルバイスプレジデントを務めるロリー・ハービー氏は、オンラインでそう語った。

リリックは、お披露目されたプロトタイプと、ほぼおなじスタイルで登場すること。

「キャデラックはこれまでにも、大胆なデザインをクリエイトしてきました。キャデラックのデザインは、ファッションデザインとの共通点があります。それは“変わること”あるいは“変えること”を是としている点であります。リリックは、あたらしい時代のキャデラックの出発点です」(前出アンドリュー・スミス氏)

室内は従来の高級車の路線でぜいたくに仕上げられている。
室内は従来の高級車の路線でぜいたくに仕上げられている。

リリックが用いるのはEV専用のプラットフォーム。12個のモジュールによる100キロワット時のバッテリーを使用し、航続距離は300マイルとされている。モーターは225KWの出力と、440Nmの最大トルクを生む。

22年第1四半期に発売されるというリリックは当初後輪駆動。「将来的には4WDや、スポーツモデルだってありえます」。リリックの開発を担当したチーフエンジニアのジェイミー・ブリューワー氏は言う。

アクセルペダルのオンオフにより加速とともに強い減速を可能にするワンペダル走行について、メーカーによって是非があり、日本ではブレーキングはブレーキペダルで、と考えるメーカーが多い。キャデラックは積極派のようだ。

ゼネラルモーターズが開発した独自のブレーキ回生システム「バリアブル・リジェン・オンデマンド」を採用するのも強調されている。ステアリングホイールの操作パドルで、ブレーキングから停止にいたるまでの減速度合いを調整できるのが、このシステムの特長だ。

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。