名門メゾンが手がける卓越したプライベート劇場

ジュエリー&時計ジャーナリストの本間恵子さんが、2021年の新作ウォッチからおすすめアイテムをご紹介。今回はヴァン クリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)から、メゾンが愛するモチーフのひとつ、“バレエ”をテーマに掲げた「レディ アーペル バレリーヌ ミュージカル」をピックアップしてくれました。

「時計なのに針がない、ちょっと不思議なデザイン。右下のボタンを押すと舞台の幕が開き、澄んだ美しい音で音楽を奏で始めます。オマージュを捧げているのは、20世紀の記念碑的なバレエ作品。バレエを愛する人にとっては胸が熱くなるほどのディテールを散りばめているだけでなく、時計専門誌のジャーナリストたちも絶賛した名品です」(本間さん)

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「レディ アーペル バレリーヌ ミュージカル」。ケース厚14.45㎜のサイドにもダイヤモンドをふんだんにあしらい、オペラ座に着想を得た意匠が施されています。

ボタンを押すと、パリ・オペラ座-ガルニエ宮を想わせる円天井からダイヤモンドの光が降り注ぎ、ゆっくりと幕が開きます。そして約20秒間、柔らかな音楽が流れ、バレエダンサーが踊ります。舞台は44.5㎜の文字盤、演目は「ジュエルズ」です。劇場、そして演目までも独り占めできるバレエ鑑賞は衝撃的ではないでしょうか。

ヴァン クリーフ&アーペルが創業したのは1906年。創業者一族のルイ・アーペルは大のバレエファンでした。1920年代ころから、彼に連れられ甥のクロード・アーペルも、オペラ座へ足しげく通うようになります。1940年初頭には、バレリーナの動きからインスピレーションを受けたバレリーナ クリップを発売。優雅なヘッドドレスやふんわりとチュチュをまとったバレリーナの姿は、世界中の女性たちの心をとらえます。

ニューヨークの五番街にヴァン クリーフ&アーペルのブティックがオープンした1950年代になると、メゾンとバレエとの関係はさらに深まります。

この店の店主になったクロード・アーペルと、ニューヨーク シティ バレエ団の共同創設者でもあり、著名な振付家のジョージ・バランシンが親交を結んだのです。ここから、バランシンの名作、バレエ作品「ジュエルズ」が誕生しました。

この3幕からなる作品は、貴石と作曲家を結びつける構成になっています。第1幕「エメラルド」はガブリエル・フォーレ、第2幕「ルビー」はイーゴリ・ストラヴィンスキー、第3幕「ダイヤモンド」はピョートル・イリイチ・チャイコフスキーです。

時を越え、この演目がそのままタイムピースという形になったのが、今年披露された「レディ アーペル バレリーヌ ミュージカル」なのです。

伝統と職人技が結集して完成した、麗しき傑作タイムピース

このコレクションのタイムピースが愛おしく、バレエファンならずとも魅了される理由は、視覚と聴覚を刺激し、引き込むドラマティックな演出です。

3つのタイムピースは3幕構成のバレエに合わせ、エメラルド、ルビー、ダイヤモンドが、それぞれに配されています。時計を操作すると幕が開きながらメロディが流れ、徐々に5人のバレリーナが登場し、踊り出す仕組み…。まるで、文字盤に命が宿っているようです。

「バレリーナたちのポーズが実にリアル! バレエ文化の支援活動を続けるメゾンならではのこだわりですよね。ムーブメントには極小のオルゴールとカリヨン(鐘)の機構が組み込まれているのですが、開発には音楽家も関わったそう。背面にはニューヨーク5番街のブティックの前で踊るバレリーナのエングレービングが施されているんですよ」(本間さん)

細やかな手法であるミニアチュアール ペインティングを用い、ディスクの上にバレリーナの動きやチュチュの細部などを描き、カーテンはエングレービングなどを駆使して、揺れ動く様子まで再現されています。

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左/ミニアチュアール ペインティングの技法で描かれるバレリーナの姿。右/カーテンの様子はエングレービングで柔らかく表現。

メロディにも創意工夫があります。3幕それぞれの複雑な曲を簡略化して、タイムピースの回転に合わせるかを考慮しなければなりません。そのために音楽家の手を借り、編曲が行われました。

多方面から計算され、カリヨンの4つの鐘の音とともに幕が開き、10本の櫛歯のオルゴールが約20秒間、曲を奏で始めます。また、ダイヤモンドを敷き詰めた時計のケースが音を増幅させ、主旋律が心地よく響くようにも設計されています。バレリーナがメロディに合わせて踊る傑作タイムピースは、こうして生まれたのです。

この舞台をさらに楽しむセットまで用意されています。弦楽器職人と音響学の専門家の協力を得て、各モデルにバーチとウォールナットのキャビネット(ケースボックス)を付属。電子アンプを備えているという、至れり尽くせりのコレクションです。

「では、肝心の時計表示はどこに? と思われる方もいらっしゃることでしょう。文字盤の上部の扇形の小窓に0時から12時までの表示があり、小さな金の星が現在時刻を指しています。バレエ団のトップダンサーをエトワール(星)と呼ぶことにちなんだデザインだということは、もうおわかりですよね」(本間さん)

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小窓の0時〜12時の表示と金の星で、現在の時間を示す仕様。

構想から約10年。手巻きムーブメントとオンデマンド アニメーションの開発に7年の月日を費やされました。名門メゾンが大切に育んできた伝統と細やかなアルチザンの仕事、オリジナリティが結実した、比類ないタイムピースです。

3つの舞台が再現された「レディ アーペル バレリーヌ ミュージカル」

■1:第1幕「エメラルド」の情緒漂う舞台へ誘うウォッチ

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「レディ アーペル バレリーヌ ミュージカル エメラルド ウォッチ」¥56,100,000 ※シリアル番号入り、専用キャビネット付き ●ケース:ホワイトゴールド×ダイヤモンド×エメラルド ●ケースサイズ:45㎜ ●ダイヤル:ホワイトゴールド×ダイヤモンド ●ストラップ:アリゲーター(インターチェンジャブル) ●ムーブメント:機械式手巻きムーブメント (C) Van Cleef & Arpels

「ジュエルズ」の1幕「エメラルド」がテーマ。流れる音楽は、ガブリエル・フォーレの「ペレアスとメリザント」です。登場するバレリーナは、エメラルドカラーを施した長めのチュチュをまとい、エレガントに描かれています。ロマンティックな舞台の様子を、時計を通して何度でも観たくなる仕様です。

■2:第2幕「ルビー」の軽快な舞台が広がるウォッチ

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「レディ アーペル バレリーヌ ミュージカル ルビー ウォッチ」¥56,100,000 ※シリアル番号入り、専用キャビネット付き ●ケース:ホワイトゴールド×ダイヤモンド×ルビー ●ケースサイズ:45㎜ ●ダイヤル:ホワイトゴールド×ダイヤモンド ●ストラップ:アリゲーター(インターチェンジャブル) ●ムーブメント:機械式手巻きムーブメント  (C) Van Cleef & Arpels

第2幕の「ルビー」がテーマのモデルは、イーゴリ・ストラヴィンスキーによる「ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ」の溌剌とした曲に合わせ、短めのチュチュとレオタードスタイルのバレリーナが登場。鮮烈な赤に彩られ、モダンな舞台が繰り広げられています。エネルギッシュなダンスの様子が凝縮された約20秒です。

■3:第3幕「ダイヤモンド」の晴れやかさが伝わるウォッチ

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「レディ アーペル バレリーヌ ミュージカル ダイヤモンド ウォッチ」¥56,100,000 ※シリアル番号入り、専用キャビネット付き ●ケース:ホワイトゴールド×ダイヤモンド ●ケースサイズ:45㎜ ●ダイヤル:ホワイトゴールド×ダイヤモンド ●ストラップ:アリゲーター(インターチェンジャブル) ●ムーブメント:機械式手巻きムーブメント (C) Van Cleef & Arpels

第3幕の「ダイヤモンド」がテーマのモデルで流れるのは、ピョートル・チャイコフスキーの「交響曲第3番ニ長調」。愛称「ポーランド」と呼ばれる名曲に合わせ、クラシカルなチュチュの姿で華麗に舞います。この演目をご覧になったことがある方は、舞台の上で笑顔を絶やさなかったバレリーナたちの姿を思い浮かべるはず。タイムピースの深遠なエレガンスを感じる傑作です。


以上、ヴァン クリーフ&アーペルの新作タイムピース「レディ アーペル バレリーヌ ミュージカル ウォッチ」をご紹介しました。

「コンプリケーテッドウォッチ(複雑機械式時計)の中でも、音が鳴るタイプはとりわけ製作が難しく、格が高いとされています。この時計は誇りを持って次世代に伝えていける、アートのような逸品といえるでしょう」(本間さん)

※掲載した商品の価格は、すべて税込みです。

本間恵子さん
ジュエリー&時計ジャーナリスト
(ほんま けいこ)東京都出身。武蔵野美術大学を卒業後、某宝飾メーカーでデザイナーとして勤務し、その知識を生かしてジュエリー専門誌のエディターに転身。その後フリーランスとなり、国内外の見本市や展示会を取材して、モード誌やアートマガジン、新聞などに寄稿。トークショーやテレビコメンテーターなどをこなしながら、アンティークジュエリーの研究も行っている。夫は建築家。好きなもの:バンドデシネ、マンガ、美術史、トールキンの著作。

問い合わせ先

ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク

TEL:0120-10-1906

この記事の執筆者
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WRITING :
菅野悦子
EDIT :
谷 花生