デサント(DESCENTE)の名前、ブランドマークを目にしたことがある人も多いはず。野球や陸上、水泳など数多くのスポーツを支えてきたスポーツウェア専門ブランドです。そんなデサントが2008年に発売したのが「水沢ダウン」。一番安いものでも8万円超え。10万円を超えるとなると、有名インポートブランドのダウンジャケットが買えてしまう価格帯です。そのころのスポーツ系ダウンジャケットといえ ば、3~4万円台が普通。そんななか、突然登場した国産の「水沢ダウン」が大ブレイク、今や売り切れが続出してしまうほど。毎年売り上げを伸ばし続け、その人気はレディースにまで及んでいます。一体、なぜ「水沢ダウン」はそんなに売れたのでしょうか? デサントジャパン株式会社の植木宣博さんにお話を伺い、その秘密に迫ります。

デサント ブラン 代官山店に並ぶ「水沢ダウン」
デサント ブラン 代官山店に並ぶ「水沢ダウン」

最初はオリンピック選手用に開発された水沢ダウン

もともと水沢ダウンは、2010年のバンクーバーオリンピック日本選手団に提供するウェアとして開発されました。ある社内デザイナーが「今までにないダウンジャケットをつくりたい」と考えた際に着目したのが、従来のダウンジャケットは雨や雪に弱いという点。ダウンジャケットの保温性は羽毛が空気をたくさん含むことで成り立ちます。しかし、ステッチから水や湿気が入るにつれ、良質な羽毛でも水を吸うことでヘタって戻らなくなってしまうのです。でもステッチを入れないと、ダウンは下に落ちてしまいます。その問題を解決したのが、熱圧着ノンキルト加工によってダウンが入る袋をつくり、ステッチを最小限にする方法でした。さらに主要な縫い目にはシームテープ加工を施し、限りなく防水、かつ気密性の高いダウンが仕上がったのです。

デサントジャパン株式会社 デサントマーケティング部 デサントMD課の植木宣博さん
デサントジャパン株式会社 デサントマーケティング部 デサントMD課の植木宣博さん

スキーウェアをつくる設備が水沢工場にあった

防水性のあるダウンを開発するにあたり、スポットがあたったのは岩手県にある水沢工場。この工場には、国内の4つの自社工場の中でも、最も難易度の高いウェアをつくる技術を持っています。消防士の着る防火服や、JRAのジョッキーベストなど、専門職のための服をつくっていたのもこの工場。20数年前、スキーウェア用にダウンを縫う設備を導入。数年後、ダウンの生産拠点が中国に移ったこともあり、その設備は使われていなかったんだそう。「この工場は当時では数少ない、ダウンを作る設備と、シームテープ加工の設備の両方を持っていたことも決め手だったようです」と植木さん。数十年前からスキーウェアを手掛けていたことが、21世紀になり「今までにないダウンジャケット」の開発に大きく役立ったのです。

かつてない流通経路の開発でブレイクのきっかけづくり

スポーツウェアメーカーならではの、画期的なダウンジャケットが開発された背景がわかったところで、ひとつ疑問がわきました。それは「いいものさえつくっていれば売れる」という時代ではないということです。当時のデサントといえば、あくまでも本気のスポーツウェア専門ブランド。ダウンジャケットはおろか、街で着られるスポーツウェアブランドとして認知されていたわけではありません。高機能な水沢ダウンが、高価格にもかかわらず、一般の人にまで浸透したのはなぜでしょうか?

「セレクトショップさんに置いてもらえたのが大きかったと思います」と植木さん。そもそもデサントの商品の主要な流通先は、大手のスポーツチェーン店。でも水沢ダウンは、スポーツチェーン店に置かれるダウンジャケットとしては、かけ離れた価格帯でした。実は当時、デサントを担当していなかった植木さん。しかし社内で水沢ダウンを見て、そのあまりの完成度の高さに「売りたい」と思ったのだそう。もともとアパレル企業から転職してきた植木さんは、当時担当していた別のブランドと一緒に、セレクトショップへ水沢ダウンを売り込みました。センスに定評のあるセレクトショップに置かれたことから、ファッション感度の高い人たちに水沢ダウンが認知され始め、一度着た人はその機能性の高さに驚き、ファッション感度の高い人の間で広まっていったのです。

水沢ダウンを開発したデザイナーは、水沢ダウンの手応えを感じながら、シェルジャケットなどほかのアイテムにもデサントならではの技術を活かせると思い、2012年の秋冬から「デサント オルテライン」というコレクションをスタート。水沢ダウンを象徴アイテムとしつつ、スポーツウェアの機能性を、年間を通して日常で堪能できるラインナップをそろえました。さらに「デサント オルテライン」をドイツのスポーツウェアの祭典「ISPO」のアワードにエントリーし、見事に受賞。さらに、フィレンツェで行われるメンズプレタポルテの最大級見本市「ピッティ・イマージネ・ウォモ」にも出展。こうして水沢ダウンをきっかけに生まれた「デサント オルテライン」は、スポーツウェアとしてのアプローチと、街着としてのアプローチの両方を続けてきました。

今や、水沢ダウンは主要セレクトショップの店頭に並び、人気レディースブランドmame(マメ)との3年連続コラボ、「ほぼ日刊イトイ新聞(ほぼ日)」とは2012年からのコラボなど、日本でもっとも成功している国産ダウンブランドといっても過言ではありません。ちなみに「ほぼ日」とのコラボは、糸井重里さんが震災後に東北を訪れる機会が増えて、暖かいダウンを探されていた際に、たまたま卸先にて水沢ダウンを購入したことから始まったとか。発売当時は一般には無名に近い、高級国産ダウンジャケットがここまで結果を出しているのは、「画期的でいいものを生み出す力」と「販売戦略」が見事に合致した結果だったのです。

画期的な商品開発と、今までにない販売戦略が実を結んだ
画期的な商品開発と、今までにない販売戦略が実を結んだ

すごい機能満載!水沢ダウンのレディース人気モデル4型

では実際にレディースで人気なのはどんな型があるのでしょうか? 上でご紹介した防水機能だけではない、驚きの水沢ダウンの機能とともに4つご紹介します。

■1:首周りのボリュームがかわいい、定番の「アンカー」

水沢ダウン アンカー¥78,000(税抜)
水沢ダウン アンカー¥78,000(税抜)

水沢ダウン2008年当初から、アップデートしている定番モデル。着脱可能なフードの有り無しで表情ががらりと変わります。

着脱用のファスナーは内側に隠れているため、ここから水が入ることもありません
着脱用のファスナーは内側に隠れているため、ここから水が入ることもありません

■2:定番モデル「マウンテニア」は高機能フードに注目

水沢ダウン マウンテニア¥100,000(税抜)
水沢ダウン マウンテニア¥100,000(税抜)

一見普通のフード付きダウンに見えますが、このフードがすごいんです。普段はフードはファスナーで止まっていて、かぶることはできません。フードの中に、雨や雪がたまるのを防いでいるのです。

通常時はフードの入り口はファスナーで留められている
通常時はフードの入り口はファスナーで留められている
ファスナーを開けるとこの通り、ボリュームのあるフードに変身
ファスナーを開けるとこの通り、ボリュームのあるフードに変身

ファスナーをいちいち開けるのが面倒と思う人もご心配なく。よく見るとずれているようなトップオープンファスナーは、緊急に着脱が必要な防災服にも採用されているもので、ちょっと力を入れるとファスナーをぐるりと開けなくても、簡単に手でぺりぺり開けるようになるんです。

■3:丈の長い「エレメント」はロング丈を求める女性に大人気

水沢ダウン エレメント¥110,000(税抜)
水沢ダウン エレメント¥110,000(税抜)

余計な金具や装飾が一切無い、すっきりとしたシルエットはどんなファッションにもしっくりなじみます。

飾りのように見えるダイヤルにも、れっきとした役割があります
飾りのように見えるダイヤルにも、れっきとした役割があります

このフードのダイヤル、「BOAテクノロジー」も驚きの機能です。ダイヤルを回すと、フードが内側で頭にフィット。隙間から雨が入るのを防ぎ、風でフードが脱げることもなく温かい。

袖を上げると脇にはファスナーが
袖を上げると脇にはファスナーが

脇のファスナーは、満員電車などで暑くて脱げないときにも、熱を逃がす役割を果たします。これもスキーウェアからの発想。

■4:定番モデルがmame別注でよりファッショナブルに

デサント オルテライン マウンテニア×mame¥140,000(税抜)
デサント オルテライン マウンテニア×mame¥140,000(税抜)

ハイスペックなマウンテニアが、ゴールドのジップ使いや裾のあしらいで、より個性的に。

ファスナーの内側にもまたファスナー。ここにも隠れ機能あり!
ファスナーの内側にもまたファスナー。ここにも隠れ機能あり!

正面のファスナーは2段階。内側のほうで止めると前のラインにメッシュ部分が現れ、こちらもコートを脱げない状況で熱を逃がすことができます。

モード感すら漂う止水ファスナー
モード感すら漂う止水ファスナー

アウトドアウェアやスポーツウェアを街着に取り入れる男性から火が付き、今や女性にも大人気の水沢ダウン。植木さんのお話で印象的だったのが「スポーツウェアの機能を持った日常着を突き詰めていったら、この形になっただけで、ファッションとしてのデザインは全くしていない」というセリフ。確かにその視点で見ると、デザインのように見えていたものは、すべて機能ありき。無駄な要素はひとつもなかったことに気づきます。それでもファッションアイテムとして優れているのは、余計なデザインがないゆえの洗練された機能美が光っているのだと思います。

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この記事の執筆者
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EDIT&WRITING :
安念美和子