盆栽の世界に持ち込みという言葉がある。何十年も愛培され、根張りや肌に古木の風情がにじみ出た盆樹を評して「よくぞここまで持ち込みましたね」などと言う。趣味の世界の符牒に近いが、時間や歴史に対する畏敬の念が集約された言葉ではある。机上の道具についても同様で、たとえばモンブランの万年筆『マイスターシュテュック』やマルマン「図案シリーズ」のスケッチブックを思い浮かべてみてほしい。幅広い層に長く愛用されることで、一種の風格を備えるに至ったモノたち。これらはいわばカスタマーによって持ち込まれた、歴史が保証する名品といえよう。

唯一の視点は美しいか、否か?

美しい名品があれば、デスクはより豊かで洒脱な空間に生まれ変わる

1.デスクランプ(二上〈フタガミ〉) 2.カレンダー(MoMA デザインストア 表参道〈MoMAデザインストア〉) 3.インク・4.シャープナー(カランダッシュ ジャパン〈カランダッシュ〉) 5.ペン立て(キャストジャパン〈サンクポワン〉) 6.オーディオ(ネイビーズ〈チボリ オーディオ〉) 7.ツールボックス(ヴィトラ) 8.ホッチキス(マックスお客様相談ダイヤル〈マックス〉) 9.ノート(カキモリ) 10.万年筆(モンブラン コンタクトセンター) 11.イヤホン(完実電気〈バング&オ1 ルフセン〉) デスク(メトロクス) その他/私物

一方その世界に突如として現れ、圧倒的なイノベーションを起こすプロダクトもある。古くはソニーが発明した『ウォークマン』であり、「エア」システムを搭載したナイキのスニーカーであり、2000年代以降を席巻し続けているアップルのiPhoneである。こちらはつまり時代が生んだ名品。現代の机上でいえばBluetoothのワイヤレススピーカーであったり、ウェブ会議で重宝するコンパクトなイヤホンであったりするのだろう。本特集においては、そんなふうに歴史が保証する名品と時代が生んだ名品の両方を、等しく爼上ならぬ机上に上げてみようと考えている。

ではなぜそう考えたのか。結論から言えば、それが多くのモダンジェントルマンたちの考え方だから。歴史が保証する名品をアナログ、時代が生んだ名品をデジタルと置き換えてもいい。彼らはアナログもデジタルも分け隔てなく愛し、それぞれを自分らしく使いこなす。知り合いの、とある40代のアンティークショップオーナーを例にとろう。彼の扱う商品も商売のやり方も実にアナログ。趣味はフライフィッシングで、手づくりのバンブーロッドにヴィンテージのリールをセット。ベストやバッグもヨーロッパのマーケットで見つけた古着を着用するという凝りようだ。しかしながら川を訪れる際のアシとなるクルマは、エンスージアスト的ヴィンテージカーではなく、最新のプラグインハイブリッドエンジンを搭載した四輪駆動車。単純にそのほうが安心であり、エコであり、スマートだからである。

すでにお察しいただいていると思うが、メンズプレシャス本誌が考える机上の名品選びに「こうあるべき」というルールはない。価格の高低による区別もないし、ブランドの知名度に依拠するわけでもない。ではどんな視点があるのか。あえて言えば美しいか否か、である。デザインが優れている。機能性が抜群である。その歴史にロマンを感じる。長く愛用すれば味わいが増す。そんな属性はきっと、モノとしての本来的な美しさから発していると考えるからだ。美しい名品で彩れば、男のデスクはより豊かで洒脱な空間に生まれ変わるに違いない

この記事の執筆者
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク
PHOTO :
唐澤光也(RED POINT/静物) 
STYLIST :
伊藤良輔
WRITING :
加瀬友重