チハルさん(40歳)は、夫のノボルさん(40歳)とひとり娘のモモちゃん(10歳)の3人家族。10年前にモモちゃんの誕生に合わせて、現在暮らしている東京・世田谷区のマンションを購入しました。

 チハルさんは産休・育休をとって、モモちゃん出産後も仕事を続け、今は完全に復帰。そのおかげで、今はノボルさんとチハルさんの収入を合わせると、一家の年収は約2000万円を超えるほどになっています。

 ところが、このところ、チハルさんは貯金通帳を見ては溜め息ばかり。収入に余裕はあるはずなのに、思うように貯蓄が増えなくなったのです。出費の原因は、どうやら小学校4年生になったモモちゃんの教育費のようです。

「このあたりは、子どもが中学受験をするのが当たり前なんです。最初は、うちは高校からでいいと思っていたのですが、今の教育事情を調べてみると、そんなことも言ってられなくて…。幼稚園から習っていたピアノやスイミングなどのお稽古ごとに加えて、4年生になってからは中学受験のための塾や、英会話教室の授業料がかかるようになりました」

 子どもの塾は、毎月の授業料のほかに、教材費、夏休みや冬休みの特別講習の費用などもかかるため、まさに飛ぶようにお金が出ていきます。本格的に教育費が必要になるのは、私立中学の進学後なのに、今からこれでは先が思いやられます。そこで、気になりだしたのが「10年前に購入したマンションの住宅ローン」です。

「当時は、もうこれ以上金利が下がることもないと思ったので、金利タイプが10年固定の住宅ローンを借りました。でも、思ったよりも元金が減っていないばかりか、最近、住宅ローンを組んだ友達に聞いたら、同じ10年固定でも、私たちが借りた金利よりもずいぶん低くて、びっくりしました。私たちも見直せば、住宅ローンの負担が軽くなるのでしょうか?」

 
 

住宅ローンを借り換えるなら、史上最低の金利水準の今を逃すな

「『家を買おうかな』と思ったときに読む本」の著者で、住宅ローンについて詳しいファイナンシャル・プランナーの竹下さくらさんは「低金利の今は、住宅ローン見直しのチャンス」だといいます。

「国の低金利政策が続いているほか、銀行各社の競争もあり、住宅ローンの金利は10年前に比べると大きく引き下げられています。たとえば、半年ごとに金利が見直される変動金利型で比較すると、メガバンクの適用金利は10年前の1.475%から、現在は0.625%まで下がっています。今後、景気が回復すると金利も上昇する可能性もあるので、住宅ローンの借り換えを検討しているなら、今は最大のチャンスだと思います」(竹下さん)

 チハルさん夫婦が、マンションを購入したのは2007年12月。88㎡の4LDKで、物件価格は7000万円。頭金として1000万円入れて、残りの6000万円は銀行で借り入れました。住宅ローンの内容は次のようになっています。

●チハルさん夫婦が借りた住宅ローンの内容

・借入額:6000万円
・借入期間:35年
・金利タイプ:10年固定(元利均等)
・当初10年間の金利:2.5%
・毎月返済額:21万4000円(ボーナス返済なし)
・2017年11月時点の残債:4781万円

 住宅ローンを返済し始めてから、これまでの10年間に銀行に支払ったお金の総額は2568万円。そのうち半分は利息の返済に充てられており、返した元金は1219万円で、現在は4781万円の残債があります。

 固定期間の10年が終わると、今後の固定期間や金利の見直しをすることになりますが、このまま見直しをしないで、金利もずっと2.5%で35年間返し続けたと仮定すると返済総額は9008万9000円に及びます。

 これを金利の低いローンに借り換えれば、返済総額を大幅に減らせるほか、毎月返済額も下がる可能性があるのですから、見直しをしない手はありません。ただひとつ、チハルさんが気にしているのは住宅ローン控除のこと。

「これまで住宅ローン控除を受けていたので、確定申告で税金を取り戻すことができました。借り換えると、住宅ローン控除を受けられなくなるようなことはないのでしょうか?」

 
 

借り換えしても「住宅ローン控除」は変わらずに利用できるの?

 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、国の持ち家政策を進めるための優遇税制で、住宅ローンを組んでマイホームを購入した場合に、年末の住宅ローン残高に応じて、納めた税金から戻ってくるお得な制度です。

控除を受けられる期間や金額は、マイホームを購入した時期によって異なりますが、2009年以降は年末時点のローン残高の1%が最長10年間控除されています。控除額の年間上限は、2009~2010年の購入は50万円、2011年の購入は40万円、2012年の購入は30万円、2013年の購入は20万円、2014~2021年の購入は40万円(一般住宅)となっています。

※1年間の年額
※1年間の年額

確定申告で還付されるお金は、その人が収めた税金の範囲内なので、納税額が少なければ、どんなに住宅ローン残高が高くても、戻ってくるお金も少しだけになります。でも、収入が高くて納税額の多い人は、たくさん税金も戻ってくるので、住宅ローン控除を上手に活用すれば、税負担を軽くすることも可能です。

「たとえば、2009~2010年にマイホームを購入した人は、最長10年間、年間最大50万円の控除が受けられるので、住宅購入から10年間は借り換えや繰上げ返済をしないで、年末のローン残高が5000万円を超えるようにキープ。10年間は控除限度額いっぱいの税金を取り戻して、その恩恵がなくなる11年目から借り換えや繰上げ返済でローンの負担を減らしていく人もいます」(竹下さん)

 通常なら購入から10年たっているので、住宅ローン控除の期間も終了し、借り換えにもよいタイミングになります。

 ただし、チハルさん夫婦がマンションを購入した2007年11月の住宅ローン控除は、控除期間が15年。毎年の控除限度額は、購入から1~10年目はローン残高の0.6%で、最大15万円。11~15年目はローン残高の0.4%で、最大10万円となっています。チハルさんはマイホームの購入から10年たっていますが、あと5年間控除期間が残っています。

※1年間の年額
※1年間の年額

 ここで借り換えてしまうと、残りの5年の控除はどうなるのでしょうか。

「借り換えたローンが、当初購入した住宅の返済のためのものであれば、継続して住宅ローン控除を受けられます。ただし、借り換え後のローンの返済期間が10年以上であることが条件です。また、借り換えたからといって、ローン控除を受けられる期間が延びるわけではないので、その点も注意しましょう」(竹下さん)

 チハルさんの住宅ローン残高は4781万円。ノボルさんの所得は高く、納税額は控除限度額を超えているので、借り換えても残りの5年間は住宅ローン控除の恩恵を受けられそうです。

 引き続き住宅ローン控除が受けられるとわかったことで、さらに借り換えの意欲が湧いてきたチハルさん。

「これまでの住宅ローンは、金利タイプが10年固定で元利均等でした。10年間返済額が変わらず、金利も一定という安心感はありましたが、あまり元金が減っていないことに焦りを感じています」(チハルさん)

 チハルさん一家は、これから長女のモモちゃんの教育費が本格的に必要になります。さらに、夫婦ともに40歳になり、そろそろ老後のことも気になりだしています。住宅ローンの返済総額を抑え、その分、貯蓄を増やせる家計にするためには、どのような住宅ローンに借り換えればよいのでしょうか。

 次回後編では、具体的な住宅ローンの見直し方法について、竹下さんにアドバイスしていただきます。

PROFILE
竹下さくらさん
ファイナンシャル・プランナー。なごみFP事務所。千葉商科大学大学院(会計ファイナンス研究科、MBA課程)客員教授。東京都中高年勤労者福祉推進員。慶應義塾大学商学部にて保険学を専攻。損害保険会社勤務を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。個人向けの住宅ローンや生命保険などのコンサルティング業務を主軸に、セミナーでの講演、新聞や雑誌等への執筆活動など幅広く活躍。主な著書に「『家を買おうかな』と思ったときにまず読む本」(日本経済新聞出版)、「ローン以前の住宅購入の常識」(講談社)、「『マイホーム』を買うメリット・デメリット本当のところズバリ!」(すばる舎)などがある。2017年10月には、「『教育費をどうしようかな』と思ったときにまず読む本」(日本経済新聞出版)が発売されたばかり。
『教育費をどうしようかな』と思ったときにまず読む本
この記事の執筆者
1968年、千葉県生まれ。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。医療や年金などの社会保障制度、家計の節約など身の回りのお金の情報について、新聞や雑誌、ネットサイトに寄稿。おもな著書に「読むだけで200万円節約できる!医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30」(ダイヤモンド社)がある。