人生を重ねた大人だからこそ見えてくる、豊かな暮らしとは?をテーマに、雑誌『Precious』編集部が総力取材する連載「IE Precious」。

今回は、デザイナー、ファウンダーのマリー・ダージュさんのご自宅を紹介します。

マリー・ダージュさん
デザイナー、ファウンダー
友人のためにつくった1点の器が人づてに評判を呼び、展示会を開くことに。「バーニーズ ニューヨーク」による買い付けがきっかけで1990年からテーブルウエアのブランド「マリー・ダージュ」を立ち上げる。1点ずつすべてフリーハンドで描く美しいモチーフが話題となり、オリジナルの68色からなるカラーパレットで90コレクションを発表。メゾンや有名ホテルとのコラボレーションも多数。

「家族やゲストの表情を思い浮かべながらナプキンを並べ、デコレーションする。この家で、いちばん好きな過ごし方です」

花や蝶、鳥。自然の色や姿からインスピレーションを得て描かれた色鮮やかな上絵はすべて手描き。洗練された色と柄が人気のリモージュ焼き「マリー・ダージュ」。デザイナーのマリーさんが暮らすのは、オスマニアン建築のアパルトマンです。

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ダイニングルーム。18世紀の貴族の館をイメージしてペイントしたというアーモンドグリーンの壁にインドのアンティーク布を使ったカーテン、18世紀のクリスタルのシャンデリアが印象的。ダイニングテーブルは家具のアトリエに依頼したオーダーメイド。椅子はオーストリアのアンティーク。19世紀初頭、ナポレオンIII世の命でオスマン卿が指揮をとったパリ大改造で造られたオスマニアン建築は、繊細なレリーフ装飾のバルコニーが特徴的。大きな窓から差し込む陽光が明るい。


「ここは昔、祖父母が住んでいた家に近く、思い出深い場所です。また、幼少期を過ごしたマルティニーク島の家がコロニアル様式の家だったこともあり、パリの住まいは絶対にオスマニアン建築がいいと決めていて。半年ほどかけて75軒ほど見て回り、やっと出合えたのがここなんです」

新婚時代は2年間ギリシャで暮らし、フランスに戻ってからはパリ近郊のフォンテーヌブローに1年。その後この家に住んで20年。その間、6人の子供に恵まれました。そんなマリーさん、家族やゲストのためにテーブルセッティングをするときがいちばん好きな過ごし方だとか。

「私にとって『劇場』ともいうべきテーブルを装飾し、演出する時間は至福のとき。私のテーブルセッティングはひらめき重視です。考えすぎず自然に手が動くことを大切にしています。みんなの驚きの表情を思い浮かべながら食器を選び、ナプキンを並べ、デコレーションする。家は、アッセンブル(構築する・集まる)、ファミリアル(アットホーム)、パーソナルな空間でありながら、訪れる人たちを優しく温かく包み込むような、交流の場だと思っています」

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「マリー・ダージュ」コレクションの皿は、ジャイプールの庭にインスパイアされた植物がモチーフ。

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ステンドグラスが美しいエントランス。壁にはモノトーンのストライプ柄の布を張ってモダンに演出。

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「マリー・ダージュ」のコンポートにキャンドルを飾って。


「部屋ごとに壁の色やカーテンの柄、家具、アートなどを替えてテーマ性をもたせ、個性を生かしたインテリアを楽しみたい」

「仕事柄『色』にはマニアックなほどこだわります。例えば壁は市販のペンキをそのまま使わず、色を組み合わせてオリジナルのカラーをつくっています。調香師と同じですね。昔ながらのパリの代表的な造りのこの家は、廊下のいちばん奥まったところに台所があり、リビングやダイニングなどが壁で仕切られています。

今は、壁を壊してワンルームの空間にすることが流行っていますが、部屋ごとに壁の色やカーテンの柄、家具、アートなどを替えてテーマ性をもたせ、個性を生かしたインテリアを楽しみたいと思っています」

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モーヴ色を基調にしたリビング。スペイン製のソファは、国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」で購入し、フランス製のベルベットに張り替えた。カラフルなクッションはウズベキスタンのイカット(絣布)。

「ルーヴルで美術史を専攻したので、古い家具や工芸品に興味があり、その知識を生かしてインテリアにも反映させています。例えば18世紀のナポレオンIII世スタイルの椅子をフランスのシルクの産地・リヨンで織られた布に張り替えたり、カーテンにはインドの貴重な手織り刺繍の布を使うなど、さまざまな時代や文化をミックスさせています」

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リビングのチェストはアールデコ時代のものでグラス類を収納。アンティークシルバーの器は夫のコレクション。

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「マリー・ダージュ」のグラスに植物を飾って。


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ゲストに合わせて器、カトラリー、グラス、花、キャンドルまでマリーさんがセレクト。この日は春をイメージ。

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インドの18世紀のアンティーク花器はお母様から譲り受けたもの。壁の3枚の絵は四季を表す18世紀のオーストリアの伝統的な作品。

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ダイニングの一角には壁に飾り棚を取り付けて器をディスプレイ。これはバロック時代のオーストリアの飾り方。

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ダイニングの暖炉の上の花器も「マリー・ダージュ」。


色や柄の大胆な組み合わせを楽しむこと。古いものを現代の暮らしにうまく取り入れること。マリーさんのセンスにはインテリアやアートを楽しむヒントがたくさんあります。

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洋服も色を効かせたスタイルを好む。マスタード色のコートはイタリアで購入。グリーンのパンツは「タラ ジャーモン」。白いシャツに1960年代のヴィンテージネックレスを合わせて。足元は「ルイ・ヴィトン」のサンダル。


「一見反発するかもしれない色同士でも素材や使い方で素敵なマリアージュが生まれますから、恐れずにトライしてください。また、家具を選ぶときには妥協しないこと。とりあえず、ではなく、クオリティにこだわって本当に納得のいくものを選ぶことが大切です。ファッションも同じですが、トータルルックはカタログみたいでおもしろくないと感じます。

自分が本当に好きだと思うデザイン、時代、フォームが見つかるまでとことん探すべき。アートも同様に、本当に気に入ったものを飾ること。たとえスペースが小さくても、心が喜ぶものを部屋に飾ることで、パーソナリティが生まれます。美しいものを買う。美しいものに囲まれる。美しいものを道具として使う。『美しさ』の基準は人それぞれ。自分の価値観を信じて、選んでほしいですね」

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壁に18世紀のアンティーク布を張った寝室。ベッドヘッドと飾り布は蚤の市で購入したアジアンプリントの布。エジプトのアンティークラグをベッドカバーに。

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新婚時代に初めて買ったフランスの老舗「ピエール・フレイ」の布は、カーテンとして使用。

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家族が朝食をとるキッチン。落ち着いたレンガ色と黒のコントラストが効いた壁はオーストリアの伝統様式。

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MarieさんのHouse DATA

●間取り…5寝室、1キッチン、1サロン、1ダイニング、4バスルーム、1ショールーム用のサロン。290㎡
●家族構成…夫、6人の子供。現在暮らしているのは、夫婦と留学から戻ったばかりの息子2人
●住んで何年?…20年

PHOTO :
篠あゆみ
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)